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小説版『アヤカシバナシ』地下駐車場

ずっと前の話しになるのですが、駐車場が地下にあり、そのまま誰に見られることもなく館内に入り、自宅へ行けると言うマンションに住んでいました。

地下は地下なのですが正確に言えば1階。

道路に面している正面が1階でコンビニで、その後ろが急な坂道になっており、駐車場がある。

つまり駐車場から見れば駐車場は1階でコンビニから見れば地下。

いつものように駐車場へ行き、車が温まるまでアイドリングをしていました。

曲を聴くのが好きなので、音は高めにかけていました。

何気なくブレーキに足を置くと、バックミラーに赤くなった壁が映る。


『ん?』


違和感を感じた。


確認のためにもう一度ブレーキを踏む・・・赤く照らされた壁に黒い人型が見えた。

うわ!ととっさに車を降りて車の後ろに目をやると、50~60代の激やせした、髭ボーボーの髪の毛バッサバサの男がいた。

『な、なにしてるんですか?』と聞くと『排気ガスの臭い、好きなんですよね・・・』と言うと、鼻で深く、これが最後だと言わんばかりに吸い込みだした。

慌てて車に乗ってドアロックして直ぐに発進した。


ミラー越しに見ると、男がボーっと突っ立っているのが見えた。


気味が悪いので管理会社に電話をすると、直ぐに電話がかかってきて『確認しましたが誰も居ませんでした、ただこのままという訳に行かないので警察に連絡して、駐車場を見回りするよう依頼しておきましたので』との事だった。

それからしばらくしてまた管理会社から電話が来た。

聞くと、念のため警察が現場を見に来たので立ち合い、ボイラー室を確認したら、鍵が開いておりホームレスが寝ていたと言うのです。

恐らく住み着いていたのだろうと聞いてゾッとしたのを覚えています。


でも『あぁ捕まったんだ、良かった』と言う安心感もありました。


それから数日、タイヤ交換の為に物置に入ることに。

物置は地下駐車場の壁にドアが1つあり、その鍵は入居者全員が持っている。

要するにドアを開けると大きな空間があり、部屋ごとに仕切られているのだ。

私の場所は入って真正面にあり、タイヤを1つ・・・2つ・・・と出して行った。

最後の1つに手を掛けた時、凄まじく人の気配を感じました。

そーっと右の端っこへ向かうと、毛布にくるまって誰かが寝ていた。

周囲には生活感があり、雑誌を積み上げて寝床をちゃんと作っているのが見えた。

そーっと立ち去って鍵を閉め、管理会社に電話をすると警察と一緒に来た。


車に隠れて見ていたら、両脇を警察に抱えられて男が一人出てきた。


その男は

排気ガスを吸っていたあの男だった。


先日、ボイラー室で警察に見つかったのは違う人だったのです。


連絡によって明らかになったのですが、その男はクリップを伸ばして鍵を開けて侵入し、コンビニが出すゴミを漁って快適に過ごしていたとの事。


あなたの物置の鍵・・・単純な鍵ではありませんか?

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