小説版『アヤカシバナシ』リネン室
医療関係の仕事をしていた頃の話ですが、リネン交換をする日がありまして、その日その日で担当が違った。
いわゆるシフト制というもので、毎週土曜日誰かが担当になる。
まぁ時間や仕事次第では日曜にもなったのだが。
その日は私が担当だった。
リネン室は薄暗い真っ直ぐ伸びた通路を10m程進んだ右手。
以前話した『赤いカド』を横切ってのリネン室なので、気持ち悪さもまぁまぁあった。
リネン交換をする夕方の時間帯は人も歩かず、シンとしている。
カラカラと音を立て、使用済みリネンをのせた台車を押し、私は少し小走りで直線を進む。
リネン室もそうだが、基本的に利用者様が入ってこれないよう、開けっ放しも禁止ですが、そもそも開けっ放しに出来ない構造になっている。
台車ごと4畳半くらいのリネン室の中に入ると、ガチャリと重い音を立ててドアが閉じた。
違和感のある部屋・・・取って付けたような・・・
電気をつけるが、あまり明るくない仕様で、これまた気味が悪い。
使用済みのリネンを回収袋に押し込み、新しいリネンを選ぶ。
回収袋はその部屋に8つほどあったと思うのですが、どのリネンを持っていくのか在庫ノートに記載していると、スー・・・スー・・・と音がするのです。
音?・・・いや、神経を耳に集中させると、それは呼吸音だとわかった。
とっさに『利用者が入ったか?』と思い、周囲を見渡すが姿はない。
回収袋を確認するが、人の姿はない。
ただ気持ち悪いのは、回収袋は人が入れる程大きいと言う事。
まさか・・・と思いつつ回収袋を見つめるが変わったところもなく、動くこともなかった。
気のせいだと思い、在庫の記載を始めるとまた呼吸が聞こえてきた。
スー・・・スー・・・
やはり回収袋の方からするので目をやる・・・
よーく見ると、並んだ袋の中に髪の毛が見えた。
即助け出さなければいけないのだが、恐怖が先だった私は『ギャ!』と叫び、外へ飛び出してナースステーションへ走った。
主任が居たので説明してリネン室へ来てもらった。
2人で確認するが、誰も居なかった。
『確かに髪の毛が・・・』と言うと主任は『あのね・・・』と切り出した。
どうやらこのリネン室はもともとは利用者の部屋だったらしく、どういう訳かこの部屋に入ると、昨日まで元気だった利用者様ですら突然お亡くなりになると言う事が頻繁にあり、おかしいと言う事で
部屋として使うのをやめたとの事だった。
主任はそのせいかもしれないわねと話すと、リネン室の作業が終わるまで、部屋に一緒に居てくれました。
その後、私の部署の上司にその旨を説明すると、リネン室へは2人で行く事を義務付けられました。
施設がそういう現象を受け入れ、それ相応の対応をする、こう言うことは意外と珍しくないのだそうです。