小説『FLY ME TO THE MOON』第35話 Birthday
無事に合流した4人は薄暗いスタジアムの2階、座席のないスペースに集まっていた。
【ふりだし】に戻った感はするものの、状況が状況なので、一度集まって確認と安心を得るのは精神的にも大事なことだと如月は言う。
『で?次の策はあるのか?』
さほど危機を感じていない表情で虎徹が聞く。
一番年上だが、虎徹自身は若い者に任せようと思っていた。
その策の中で年の功的アドバイスが出来たり、守ってあげられたり出来たら問題はないと考えていたのだ。
何より虎徹は彼女らの若さ自体を武器と捉えているからである。
自分がリーダーとなったとしても、歳が邪魔をすることになる、その時に彼女らが何もできないのは避けたかったのもある。もっともその心配が彼女らには一番不必要なのだが。
『取り敢えずは事前準備をしようと思う。』
如月は、次がダメなら次!と言った感じで、勢い衰えず、相変わらず真っすぐだった。
『そうね、今できることをやるしかないと思って、申し訳ございません。』
『じゃぁ話を戻そう、ここに集める為のスピーカーとか、そういうのは後回しにして、集めた時の対策が必要かと思うのね』
『そうじゃな、一気に集まるならよいが、パラパラ寄ってきて、ある程度ためておくわけだから・・・おおそうじゃ!ステージが破壊されるやもしれん、強化したらどうじゃ?』
『うん!それいい!ステージを作る為の色々な機材とか、このスタジアムにあると思うからそれ探して作業しよう』
『念のため、戦う準備もしといた方がいいっすよね』
『そうじゃな、何かのはずみで上ってこないとも言い切れぬ、壊れでもしたら戦争じゃからな・・・数が数じゃ、壊れないとは言い切れないしな。』
『じゃぁ悪いんだけど、スピーカーの件は心当たりがあるから、私に任せて、それ話が付くまで3人でステージの強化を頼める?頼めるよね?・・・いあ、お願いします。』
『了解!』『了解!』『了解!』
ステージ強化部隊の3人は館内へ向かい、如月はスタジアム周囲を、上を見ながら歩いた。
『カメラカメラ・・・・』
防犯カメラを探しているのだった。
きょろきょろしながら広く大きなスタジアムを歩く。
首も痛くなってきた。
当然だがカメラはいくつもついている、如月が探しているのは『作動しているカメラ』なのだ。
『きっと見ている』それが如月の考え。
この騒ぎがゼウスによるものならば、必ず監視している。
電気を落としたのもゼウスだとすると、完全に放棄するとは考えにくい、神楽の話が本当だとすると『全世界生中継』なのだから。
特攻野郎の如月にしては珍しく思考が柔軟に働いていた。
これも仲間と過ごしているうちに変わってきたのだろう。
『何かサイン的な・・・あ、録画してるなら赤ランプだよね、きっと赤ランプが点いているカメラがあるはずなんだ…目立つけど目立たないような・・・でも隠してる気はしない。普通のカメラに混じって置いた方が・・・・めだたない・・よ・・・ねっっと!』
ぶつぶつ言いながら停止したカメラを確認しながらあるく。
時には塀に上り、時にははしごを上り・・・。
そこで1つ、スタジアムの中央を狙ったカメラに赤ランプを発見。
『あった!ほらね!ふふん!』
早速如月はスタジアムを見下ろせる場所にあるカメラが撮影している場所を目測だが測定する。
『うんうん、だろうね、気づかれないくらいの速度で首を振ってそうだけど、まいっか・・・・。』
高台からピョンと飛び降り、館内へ駆け込んだ。
警備室へ入ると白いプレートがあったので、マジックで【神楽さん!連絡欲しい!】と大きく書いた。これをカメラに写す作戦である。
作戦と言うにはいささか心細いが、今はこれが最善かもしれない。
如月はゼウスマートで出会った女性【神楽】に救援を願うのだった。
カメラが映し出すのはこの辺だろうと言う場所へ移動した。
野球でいうところのピッチャーマウンド的な位置へ立ち、両腕を広げてプレートを上に上げ、ピョンピョン飛び跳ねた。
『地味だけど、確実だし、もうこれしかないし』
如月は疲れた体で、歯を食いしばってカメラにアピールをした。
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羽鐘、パイロン、虎徹の組はスタジアム館内を回り、倉庫を発見していた。
案の定、お客様が入り込まないように組み立てる策や、足場などなど、たくさんの器具や部品が収納されていた。
『ビンゴっすね!虎徹!パイロンさん!』
『うむ、大型の台車もあるし、ここからスタジアムにはエレベーターなしで出られるし、流石考えて作られてるのう』
『あ、虎徹さん、隣の倉庫に軽四のトラックがありましたよ』
『おおそうか!パイロン!それは助かる。いや出口がやけに大きいとは思っておったんじゃ、なるほどな。』
『じゃぁトラックに積み込んだ方が早いっすね』
3人は必要な材料を積み込むことにした。
小一時間で荷台は一杯になり、ひとまず運び込んだ。
虎徹が運転で・・・とは言っても50m程度動かすだけだが。
そして3人で荷物を下ろし、ステージの強化を始める。
かき集めた針金や結束バンドも有効に使い、レンチやスパナで組み立てる。
柵を作り、ステージに上がれないようにするのが目的。
しかし、ステージ上から攻撃もしたいので、ところどころに隙間を作っていく事にした。入れないけど攻撃は可能な程度の隙間。
そこへ如月が走ってきた。
自分がやってる事を説明し、これを皆で回そうと言うのだ。
つまりはステージの組み立てを如月も行い、休憩と言う形で、プレート当番を行うという提案だった。
誰も如月が楽そうだなんて思ってはいないが、如月自身は一緒にステージを作るのを手伝いたいのが本音だった。
『プレート当番は私じゃなくても出来ることだから、あっちからアクセスがあったら私が対応すればいい、向こうは私を覚えてる、忘れるわけないから、この銀髪』
『そうっすよね、白髪のセーラー服は目立ちますもんね!』
『シラガ言うな』
『わかった、ワシも休憩は欲しいからのう、願ってもない申し出じゃあ、そうじゃ、ついでに運転教えてやるぞ、こんな時じゃ、運転できた方が何かと便利かもだしな。』
『やったー!私イチバンで申し訳ございません!』
『何急に自己主張してんのパイロン!私が一番よ、一番だから、だって私が一番だもん!』
『如月さんわけわかんないっすよ、はははは』
『私がイチバーン!』
『いやプロレスラーか!』
『ウィー!!!!』
『いやプロレスラーかて!』
『私別にサンバンでイイー!』
『戦闘員かよ!』
『私が一番デーカップー!』
『デーカップ言うな!バカにしてんのか!』
『2人ともビニュー!』
『まて!微妙のビじゃないでしょうね!』
『どれどれ、みんなのおっぱいワシに見せてごらん』
『うっせージジィ!』『殺すぞジジィ!』『うっせージジィ!』
『殺すぞが混じってたぞ!』
『ちょーちょーちょ!あの!こんな時ですけど!いいですか!』
『スティールちゃんどうしたの?唐突過ぎる程唐突に、でも唐突に聞きたくて申し訳ございません。』
『私・・・昨日誕生日だったんっすよ!ゼウスは大気の調整機能があるので冬がありませんけど、昨日の1月24日は誕生日だったんです、なんか必死だったんで。。。言うの忘れましたけど。』
『あれ?昨日が1月24日?じゃ今日1月25日?今日私の誕生日やんけ!』
『あ!そうだ睦月の誕生日だ!』
『えー!1日違いっすか!なんか運命っすね!?』
『いや何がウメーのか知らんし、でもめでたいねダブルハピバ!』
『ほんじゃあれだ、休憩してお祝いじゃな!』
如月がしっかり持っていた肩掛け鞄をゴソゴソして、チョコスティックを4本取り出した。
『はい・・・ハイ・・・はいっはいっと!じゃぁスティールと私のお誕生日を祝ってー!!!』
『カンパーイ!』
『カン・・・』
『と言ったらおめでとーね!』
ドテドテドテ!お約束のように3人がズッコケる。
『こほん・・・じゃぁ気を取り直しまして!お2人のお誕生日を祝いまして・・・カンパーイ!』
『おめでとー!!!!!!』
4人でぶつけあったチョコスティックを4人で一緒にかじった。
本来なら家族やたくさんの友人から祝ってもらえたかもしれないが、今、命を預けられる友と共に祝えたことも実際嬉しかった。
4人はしばし、小さいが温かいパーティーを楽しむのでした。