小説版『アヤカシバナシ』向かって右
小学校高学年くらいだったと思います・・・
地元に大きな百貨店と言うのかデパートと言うのか、そんな施設が完成しました。
そう言うモノが無いような小さな街ではありませんが、新しく大きな施設ができると言うのは子供ながらに胸が躍った。
暫くするとそのデパートにまつわる噂をいくつか耳にする。
①建設前はお寺で、お寺と墓は移動したが土自体はそのままなので、結果的には建物の下に死者が居る。
②エレベーターに幽霊が出る。
③夜、建物の周りに火の玉が飛び回る。
④雨の日、デパート前のバス停に赤いコートの女が立っている。
これは面白い・・・
自ら検証できるなんて滅多にないことなので、オカルト好きの友人と研究を始めた。
①は町の歴史を色々見たら、どうやら事実なのはわかった。しかし土がどうのこうのまでは調べられなかった。
③は子供なので無理、④は雨を待たなくてはならないので保留。
となると残るは②・・・エレベーターに現れる霊である。
学校がお休みの日、その友人と検証に行く事になった。
自転車で軽く60分以上はかかったと思う場所、そのデパートへ到着した。
当初から実は『薄気味悪さ』は感じていたのは事実。
ここへ来て気持ち悪くはなったけれど後には引けぬオカルト探偵団。
いざエレベーターへ。
チン!『いらっちゃいませ』
一瞬ゾッ!としたよ、お化けだと思って。
ここにはエレベーターガールが配置されているのだった。
エレベーターガールは気取ってしゃべっているが、子供の耳には
『いらっちゃいましぇ』と聞こえたりして意外に滑稽。
友人に耳打ちする『これじゃ出ないんじゃない?』『うん、そう思う』取り敢えずおもちゃがある階を伝えて下りた。
もう一度呼ぶと、今度は右側のエレベーターが来た。
チン!・・・・・
こっちは無人だった・・・ならば!
何往復したか覚えていないけれど、酔う程には上下した。
『疲れたね・・・』『帰ろうか・・・』
1階に到着し、エレベーターを友人に続いて下りる瞬間
『ありがとう』と、擦れたボソボソした声で呟かれた。
振り向いた時、ドアが閉まる瞬間ちょっとだけ小さな手が見えた。
子供だと思う、私より小さな。
それから月日が流れ、そのデパートは撤退することになり、やがてそこに大きなアミューズメントが誕生した。
子供幽霊のことなど忘れ、そのアミューズメントに遊びに行ったある日、向かって右側のエレベーターが来た・・・チン・・・
ドアが開いた時、左隅に男性か女性かわからない人型の人じゃない何かがうずくまっていた。
絶対ヤバいやつと直感した私は乗るのをやめて、左側のエレベーターを待った。
気にしていなかったけれど、後々『あの時の?』なんて思ったりもした。
でもエレベータの場所が違うのは確かだった。
同じ右側だけど、エレベーターそのものの場所が違うのだ。
では何者なのか・・・
そして未だに私は、あそこの右側のエレベーターには乗らない。