小説版『アヤカシバナシ』毛目玉
これは小学生の頃の話です。
イラストクラブ部長の私と副部長の圭子(仮名)、あと2名机をくっつけてクラブの時間を楽しんでいた。
台風接近により教室が暗かったせいもあり、話の流れが『怖い話』に変わってきていた。
家の婆ちゃんが仏壇に吸い込まれたとか、振り向いたら落ち武者が部屋にびっしり居たとか、どれもこれも今作ったろって話のオンパレード。
しかしここで圭子が声を殺してこう言い放った。
『昨日のゲゲゲの鬼太郎見た?』
『見た!毛目玉可愛い!』
『うん、それがさ、家にあれと同じの・・・出たんだよね・・・・』
私は『こいつスゲーのぶっ放してきたな!』と思ったのですが、意外に2人が食いつき、恐らく圭子の想像をはるかに超えたであろう。
なぜなら『見に行く』まで発展していたからだ。
明らかに迷惑そうな、見ようによっては『しまった』な顔をしている圭子。
私は嘘だなと見破っていたけれど『きぃ(呼び名)も行こう!』と言われ、何かあったらフォローの1つでもしなきゃと言うのもアリ、『うん』と答えたのを覚えている。
約束は来週の金曜の放課後。
週明けの火曜日、私はクラブメンバーのあの2人、英子(えいこ・仮名)と美子(みこ・仮名)と買い食いをし、公園でおしゃべりをしていた。
すると英子が『あ!金曜って言ったけど、圭子の家すぐそこだし、行ってみない?毛目玉でるかも!』と言った。
美子は『え?あの話信じてたの?』と意外な返事。
『信じるわけないっしょ、でも本当だったらって少し思わない?』
『うん、もし本当に出たら・・・』
『行こう きぃ』
そんな畳みかける様な流れで圭子の家に向かった。
玄関には驚きを隠しきれない表情の圭子が出てきた。
『き・・・金曜日だよね・・・』
申し訳なさそうに圭子が問うと、
『うん、でも今イイなら良いじゃん』
と、親戚のおばちゃんに居そうな強引さで2人は上がり込んだ。
私は『ごめんね、すぐ帰るから』と言うと、
『うん・・・』とちょっと笑ってくれた圭子。
圭子との付き合いは私が一番長く、2人で漫画を描いたりして、低学年からずっと一緒だったから私の言いたいことも分かったのだと思うし、私がなんとかすると思ったのかもしれない。
上がり込んだ2人は居間を徘徊し、色々見ては『へー』『うわー』
と言うボキャブラリーの欠片もない反応を示す。
圭子の家はいわゆるお金持ちで、レトロな電話、ローマ兵士っぽい甲冑、壁に剣とか絵にかいたような西洋かぶれの家なのだ。
見慣れていなければ『へー』や『うわー』しか言えないのも無理はない。
『で?毛目玉はどこに出るの?』
街中でライフルをいきなり発砲するような英子の発言。
『きょ・・・今日は・・・どかな・・・』
明らかに困ってる・・・見兼ねた私は
『妖怪もこんなに人が居ちゃ出ずらいよ』と助け船を出した。
『そうそう!』と私に乗っかったのは美子。
圭子が出してくれたコーラを飲もうと、
私だけ離れたソファーに座るとお尻に違和感があった。
圭子が席を外している間にソファーの隙間に手を入れると、白いムニュッとしたものが見えた。
引っ張り出すと、フエルトで制作中の【毛目玉】だった。
白い饅頭型の身体に目を付けて、周囲に毛糸を1本1本縫い付けて。
凄く良くできていた・・・そこで私は気が付いた。
『もしやこれを仕込んで金曜日に・・・』
そう思ったらとてもじゃないがいたたまれなくなってしまった。
場を盛り上げようとして嘘をついたのは悪いとは思うけど、これがバレたら少なくともガトリング砲のような英子の口は、どんな噂広げるかわからない・・・・。
私はそっと毛目玉くんを隠して、2人に帰る様促した。
『だって毛目玉出て来てないじゃん!てか嘘なの?』
ほら来た英子のドストレート。
『英子も鬼太郎見てるよね?簡単に姿なんか現さないよ』
『うんうん』どっちつかずの美子の合の手が入る。
『だいたい妖怪って、信じてない人の前には出ないと思うし』
『うんうん、英子信じてないっぽいもんね』
『あ、そっか、ただ見たいってだけじゃダメかぁ』
こういうところはとても素直な英子。
『見えないってのもロマンがあっていいじゃん!チャンスがあれば写真撮って見せてよ圭子!ね!』
と圭子に締めのパスを出すと、圭子は泣きそうな顔が笑顔になり、
『うん、がんばる』と言ってくれた。
『妖怪は写真に写らないけどねー』
美子のナイスアタックが決まったところで圭子の家を後にした。
その夜圭子から電話が来て、本心で話してくれて謝ってくれた。
謝る必要は別になかったのだけれど、気持ちだから受け止めた。
話の流れから私は毛目玉君が出来たら見せてねと言うと、圭子は『え?なにそれ』と言うので説明したのだが、本当の本当に知らないと言う。
圭子を信じるならば、一体だれが作っていたのかは謎。
フエルトと毛糸に見えたけどまさか本物だったと言う事は。。。
ないよね、ないない、ははは。
そんなホッコリするような、モヤモヤするようなお話でした。