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愛なるものの正体へ。

長生きの部類に入るだろう。
だから、かなしいというより、さみしい。

生命力にあふれ、声は大きく、弁が立つ。
姿勢が良くて、きれい好き。
化粧は濃いめにたっぷりと時間をかけ、
派手な洋服も靴もアクセサリーも、
不死鳥のようだが、よく似合う。
とくいの料理は、愛と砂糖を過剰に含んだ。
お金もちだったことは一度もないのに、
創意工夫で生活を豊かにできる人だった。

そして何より、
誰かに与え続ける人でもあった。
世話をやくのが大好きで、
自分のことより、人のこと。
メンクイだから、男運はあんまり無かったかも。


生まれてからずっとわたしは、
当たり前に彼女の愛を受け取り続け、
消費するばかりで、傲慢だった。


私の手を引く彼女がいつしか、私よりウンと小さくなり、私の後ろを歩くようになった。
ジャラジャラの指輪にブローチ、ファンデーションにマスカラ·口紅·アイシャドウ、かかとの高い靴は出番を失くしていく。
少しずつ、買い物をすることや歩くこと、覚えていることがままならなくなった彼女の隣に沿い、イオンモールで中華を食べたり、ドトールでお茶をしたり、部屋でおしゃべりをしたりした。


恩返しや孝行などでなく、
わたしはいつかやって来る別れの日を恐れ、
何年もかけて心の準備をしていたのだと、
今になって思う。


そうして僅かな時間を共有する中で、笑顔を絶やさず元気いっぱいの彼女のなかにも、抑えようのない孤独や空虚、さみしさがあることを知った。


誰もが空虚を飼っている。
当たり前のことなのに、彼女がこんなに小さくなるまで彼女のさみしさに気づけなかった。
誰かに心配をかけじと、あかるく振る舞う人だったから。


ああ、どうか。


わたしの、声を殺して泣いてしまうような寂しい闇が、彼女の、ついぞおおっぴらには見せることのなかった暗くてさみしい夜につながっていますように。

わたしの胸の裡にやどる空虚が、
彼女の抱え続けた空虚とつながっていますように。



呼吸を止めた魂が、
その後どんなふうに過ごすのか、
私たちは自分の心の慰めに、
自由に想像することができる。


不思議と安らかに、とか、
ずっと以前に別れた家族や友人と再会を、
とか彼女の場合はイメージできない。



私に出会うより何十年も前の姿で、
おおいに愛されて育ち、無垢でわがままな、
適度に聡く、適度に愚かなふつうの少女が
たのしく過ごしている日々を想う。




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