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シグナル

著者:鐘縞 孔明

目をさますと、いつものベッドの上。
ベッドの脇に目をやると、
目覚まし代わりのデジタル時計の表示が薄くなっていた。
「そろそろ電池交換しないとな」
7:29…..
ピピピピ…ピピピピ….
そういうと、アラームがなった。
ワンルームの部屋を見回し、カレンダーを見る。

「10月5日、月曜日か」

カーテンを開け、眩しい朝日を全身に浴びながら、伸びをする。
「よし、今日も1日頑張ろう」
部屋の隅に落ちている、ワイシャツを拾い上げ、
袖を通し、年季の入ったスーツに手を伸ばした。

扉を開けて、マンションの階段を2階分降りると、
いつも通りの通勤路に出る。

「相変わらず歩きにくい道だ。」

少し歩くと、信号機が立っている。
横断歩道はなく、車も通らない道に、信号機だけ一本立っている。
男は律儀にその信号が、青になるのを待っていた。
信号機は赤を指し示すばかりで、一向に変わる気配がなかった。

「今日もダメか。」
「別の道から行くかな」

右に曲がり、少し先の横断歩道を渡っていく。

途中にある商店街に立ち寄る、老舗の電気屋でデジタル時計用の単3電池を購入した。
「最近、調子はどう?」
「そうか。それは大変だな、まーお互い頑張りましょうや。」
「お会計ここに置いておくよ」
300円財布から取り出し、レジの横に置いた。
店を出て、会社に向かって歩き出した、
腕時計を確認すると
9:00を指し示していた。

「やばい、遅刻だ。」

のんきに買い物している場合では、なかったようだ。

商店街から少し行くと、小さなプレハブのような建物に入っていった。
「おはようございます。」
「本日も元気に頑張っていきましょう。」
そう言うなり、自分のデスクに座り、ボーとしている。

夕刻になり、就業の準備をする、と言っても着てきたスーツにまた
手を通すだけのこと。

「本日もお疲れさまでした。」
そう言うなり、会社を後にした。

商店街でペットボトルの水と缶詰を購入した。
家の側まで来て、信号機の前でまた待っている。
「やっぱりダメかな」
そう言うと、
左に曲がり、少し先の横断歩道を渡っていく。

通勤路には、変わらない赤信号しか、信号機がないようだ。

家に着くなり、嬉しそうに買ってきた電池を取り出す。
「さー、ここが勝負どころ。」
右手に電池、左手にデジタル時計を持って、
右手の中指で、電池の蓋を開ける。

「速度が重要だ。電源がリセットされる前に電池を入れ替える。」
そう言うと、中指で電池の+に指をかけ、目にも留まらぬ速さで、
電池を入れ替えた。

ゆっくりとひっくり返し、時計を確認する。
16:45….
「よし!成功だ!」
腕時計を見て、時間を確認する。16:45…
「よし。時間は重要ですからね。時間は」

買ってきた、缶詰と水を飲み干すとそのままベッドに横になり。
怯えながら震えている。
「いつになったら。ちくしょう。なんで俺なんだ・・・・」

目をさますと、いつものベッドの上。
ベッドの脇に目をやると、
目覚まし代わりのデジタル時計が7:29を指し示していた。
ピピピピ…ピピピピ….
アラームがなった。
ワンルームの部屋を見回し、カレンダーを見る。
「10月6日。。。。。」

カーテンを開け、眩しい朝日を全身に浴びながら、伸びをする。
「よし、今日も1日頑張ろう」
昨日はワイシャツを着たまま寝てしまったらしい。
「電池交換楽しかったし、久しぶりにテンションが上がったな」
思い出しながら、ニヤニヤしている。
年季の入ったスーツに手を伸ばし、スーツを着る。

扉を開けて、マンションの階段を2階分降りると、
いつも通りの通勤路に出る。

「相変わらず歩きにくい道だ。」

少し歩くと、信号機が立っている。
横断歩道はなく、車も通らない道に、信号機だけ一本立っている。
男は律儀にその信号が、青になるのを待っていた。
信号機は赤を指し示すばかりで、一向に変わる気配がなかった。

「今日も無理か。」
「なんで、なんで青にならないんだ。なんでならないんだよ。」
「もういいだろ!1年だ!十分苦労したよ!」
「頼むお願いだから変わってくれよ」

そう言うとその場で倒れこんでしまった。

手には、砂のザラザラした感触がある。
目を開け見渡すと、辺り一面荒れ果てた東京の風景。
風化によって、ビルなどは倒壊の一途をたどっていた。
ほぼ砂漠状態であった。

普段通りの生活を心がけてはいたが、もう限界であった。

ボロボロになったスーツにワイシャツ、
伸び放題の髭に、髪の毛。
相当長い間お風呂に入っていないのであろう男の姿がそこにはあった。

あれは、ここに来る前の話。
・・・・・
・・・・
・・・
・・

小さな頃から、不思議に思っていた事があった。
家のそばにある、一本の信号機。
交差点もなく歩道もなくT字路でもない。

細い裏路地に入って行き止まりに一本の信号機があった。
高いビルに囲まれて、外からその信号機を見つけることは、
難しいだろう。
この信号機を知っている人も、自分と、これを教えた数人の友達くらいだと思われる。
人なんて通るはずもない、こんなところになぜ信号機があるのか。

もちろん信号機が指し示しているのは、赤。
ずっと変わらず赤。
小さな頃は、よくその信号機を見に行っていたので、覚えている。

 大きくなり、22歳で社会に出て、一人暮らしを始めた。
と言っても、もともと実家が都会にあったため、形だけ。
実家の近くにマンションを借りて、一人で住み始めた。

信号機のことなんて、すっかり忘れていた。

26歳、仕事に追われ、色々思い悩むことも増えていき、
ふと、昔を懐かしむ事があった。

その際、思い出したのだ。
あの信号機の事。
本当に偶然たまたま。
何の気なしに、あの頃は本当楽しかったな、なんて思っていた時だった。
信号機。。。
あの信号機はなんだったんだと。

不思議に思う、大人になった今でもあの信号機は一体何の為にあったのかと。

その日、会社帰りに信号機の所に行ったのだ。
それが間違えだった。

家の近くの細い路地を進んでいく、子供の頃より、狭く感じた。
「本当に誰がこんなところに信号機なんて作ったんだ?
スーツが汚れちまう。」

昔を思い出しながら、裏路地を進んでいくと、信号機があった。
やっぱり、赤を示したままだった。
夜暗くなってから来たのは、初めてだったからか、
やけに周りが赤く感じた。
信号機の赤がビルの壁に反射して、赤い空間になっていた。
信号機から発せられているであろう、
「ジー」という、電子機器特有の低周波がビルに反響していた。

「やっぱりおかしいだろ、こんなところに信号機なんて。
誰の安全を守っているんだ?」

しばらくそのまま信号機を見ながら、昔の事を思い出していた。

(将来大きくなったら、お医者さんになるんだ)
(そんでもって、美人の人と結婚して)
(大金持ちになるんだ)

「我ながら、現実離れしたことを考えていたな
まー子供なんてそんなもんかな」
昔と今との差があまりにもかけ離れていて、何だか虚しさがこみ上げてきた。
「こんなはずじゃなかったのにな。
お医者さんになって、美人の嫁さんに、大金持ち。」
「今の俺ときたら、中小企業の平の平。貯金なんて全然ないし。彼女なんて夢のまた夢。」
「生きてる価値なんてないよな。」

腕時計を見て、何やかんや1時間そこにいることに気づいた。
「さて、そろそろ帰るかな。
なんでだろうな。ここ居心地良いんだよな。
色々思い出してたら、何か死にたくなってきたな。」
振り返り、路地を戻ろうとした時だった。
「ジーーーーー」
急に電子音が大きくなった気がした。
振り返りざまに壁の色が黄色になっている事に気がつく。

「え!!」
男が信号機に目をやると信号機の色が黄色から青に変わるところだった。

そこで男は気を失った。

 目が覚めると、砂の上で気を失っていた。
目の前には、ビルがなくなり、一本の信号機だけが佇んでいた。
もちろん信号機の色は赤・・・・・

「何なんだ・・・・ここは・・・・」
先ほどまで、夜だったが、お日様が真上に登っていた。
よく見ると見覚える建物もいくつかあったが、
あからさまに、今まで居たところとは、別の場所。
それだけは分かる。
むしろそれしかわからなかった。
腕時計を確認すると12:00を指していた。

東京砂漠を歩き回り、人を探したけれど誰もいなかった。
自分以外の生き物が存在していなかった。
「何なんだ・・・ここは・・・」
男の口から放たれるのは、疑問の言葉ばかり。
歩いていると、いつも通っている会社だった場所が見つかった。
扉を開けるが、期待などしていなかった。
中は、もぬけの殻。
椅子と机、書類を入れるファイルであったであろう物が、机の上に散乱している。
「みんなはどこに行ったんだ。」
「むしろ俺がどこにいるんだ。」

会社を出て、帰りによく立ち寄る、商店街に足を運んだ、
商店街は、比較的いつも通りの状態で残っていた。
砂だらけで、人がいないというところを除けば。
「とりあえず、食料。」
男は、食べ物を探した。
スーパーに入り、ボロボロの店内を歩き、食品を探す。
野菜売り場の野菜は、影も形もなく、砂のようになっている。
肉売り場も腐り通り越して、もはやミイラみたいになっていた。
男は、飲料水売り場に走った。
「よかった。ここは無事のようだ。」
埃まみれではあったものの、ペットボトルの水は、そのまま無事であった。
「あとは食料をどうするか。」
男は、心の奥底で、薄々感づいていた。
元の場所には戻れないかもしれないと。
缶詰売り場に行き見つけた缶詰を一つ開けてみた。
「匂いは大丈夫そうだ。あとは、味・・」
口の中にサバの缶詰を一口運ぶ。
「大丈夫だろう。きっと。缶詰だけでも、残っててよかった。」
男は、現状を理解して、思考し始めた。
まずは、生き残るために、何をすればいいのかを本能で感じ、実行し始めた。
あまり深くは考えなかった。
ただその場に対応するだけ。
「あとは住む場所・・・」
持てるだけの、水と缶詰をその場にあった袋に詰め。
自分の家のある場所に向かった。

幸いというか、ボロマンションなのに、残っていた。
律儀に3階の自分の部屋まで階段で上り、鍵を開けた。
「鍵がかかってる。」
部屋に入ると、まさしくそこは自分の部屋だった。
朝、出てきたままの状態。
積もっている埃の量を考えると、40年か50年か
そのくらいは経過していた。

水道は出てこなかった。
「こんな状態だ、出てくるはずもないか。」
男はとても冷静だった。
部屋を一通り、掃除して、外を見るともう日が沈みかけていた。
電気をつけようと、スイッチを押したが、付かなかった。
非常用の懐中電灯を玄関から引っ張り出して、とりあえずつけてみる。
「よかった、こいつは生きてるみたいだ。」
「風呂に入りたい・・・」
電気、水道、ガス、すべてのライフラインを断たれている状況だった。
「後、何日ここに居ればいいのか。」
部屋に着いたせいか、急に恐怖が襲ってきた。
「ここは、どこなんだ。誰か教えてくれ。なんで誰もいないんだ。
いったいここは。」
男はその場にうずくまるようにして、眠りに落ちていった。

次の日、
男は、信号機の前に立っていた。
「この信号機に絶対何かあるはず。」
信号機は、変わらず赤信号のままであった。
信号機のポールを叩いてみたり、さすってみたり、
色々してみたが、何も変わらなかった。

次の日、
男は、信号機の前に立っていた。
「今日こそ何か見つけないと」
信号機は、変わらず赤信号のままであった。
信号機の周りをくるくる回りなが、色々探していた。

次の日、
男は、信号機の前に座っていた。
「・・・・・」
信号機は、変わらず赤信号のままであった。
男は数週間、信号機の前にたたずみ、信号機が青に変わることを願った。
しかし、信号機は変わらず赤信号のままであった。

男が、この世界に来て、2ヶ月目のことである。
何か吹っ切れたのか、目覚ましをかけて、就寝するようになった。
その日以来、男はなるべく、元いた世界と同じような生活を送るようになった。
いないはずの、店員と世間話をして、
払う必要の無い、お金を律儀に払い。
いく必要の無い会社に通った。
休みの日は、街でショッピングと称して、散歩に出かけてこの世界について色々調べてみたりした。
わかった事といえば、自分以外誰もいないという事と、信号機があの一本しかないという事。
一番辛かったのは、夜寝るときである。
どうしても、悔やんでしまう。
何を悔やんでいいのかわからないのに、考えてしまう。
あの時、思い出さなければ、
あの時、信号機を見に来なければ、
あの時、振り返らなければ、
くそ、くそ、くそ、戻りたい。
元の世界に戻りたい。
何で俺なんだ。
俺が何したっていうんだ。
冷静さと現実を取り戻す時間でもあったのであろう。
眠りに入るまでの、この時間が最も生きていると感じる時間でもあったのかもしれない。

・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・
「よし。決めた。死のう。」
男が赤信号を見つめなが、そう呟いた。
「ジーーーーー」
急に電子音が大きくなった気がした。
途端、信号機が黄色に変わり、青になろうとした時、男はまた気をうしなった。

目をさますと、1年前の路地裏だった。
街の雑踏が聞こえる。
「戻ってこれたのか・・・」
自分の顔を手でなぞる。
髭も髪の毛も、ちゃんと整っている。
辺りを見渡すと真っ赤だった。
信号機が赤のままそこに、佇んでいた。
「いったい今までのは・・・」
立ち上がり腕時計を見ると。22:00だった。
「今までの出来事は、すべて夢だったのか。」
男が体の感覚を確かめる、体の辛さがすべてなくなっていた。
心も落ち着いている。
1年も辛い経験をしてきたのに、まるですべてがウソだったように感じる。
信号機からとりあえず離れたいと思い、逃げるようにその場から離れた。
路地を抜けてると、人の雑踏の中に男は消えてった。

後日信号機について、男が色々調べていると。
一つの面白記事があった。

・人工知能の先にあるもの
2045年問題、進化を続ける人工知能に人間は追い越される。
正確には、人間の脳の処理能力を人工知能が上回るという。
この予測は18ヶ月毎にコンピュータチップの性能が、約2倍になると予測した「ムーアの法則」に基づいて作られている。
1965年頃から、これ以上の進化は考えられないと言われ続けて、現代まで、ほぼムーアの法則通りの速度で、進化しているというのがあげられます。
2045年、人類が生み出したテクノロジーが、人類のコントロールを超えて急激に進化し始めるターニングポイントでもあります。
一昔前のSF映画のような状況が実際に起こり得る可能性があります。
という記事であった。

この記事を読みながら男が、向こうの世界の事を思い出した。
「荒れ果てた東京。」
「人工知能対人間。」
「今から約40年後。」
「信号機。シグナル。合図。サイン。」
「まさか、考えすぎかな。」

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