SORAさん アニョンハセヨ。
お手紙いただきありがとうございます。電車に乗っている 時にチェさんからメールで受け取りました。うれしくてドキドキしました。 すぐに読みたい気持ちでいっぱいでしたが、帰宅してしっかり環境を整えてからゆっくり 拝見しました。
SORAさん、私の手紙を丁寧に読んでくださってありがとうございます 。SORAさんの誠実さや包み込むような優しさに感激しました。 「SORA」という呼び方、気に入ってもらえてよかったです。 (でも実は、「雪花」さんというお名前もとても美しくて素敵だなと思っています)
SORAさんは学生時代にチェさんの演出で『かもめ』を公演されたのですね。 私がチェさんと初めて取り組んだ戯曲も『かもめ』でした。 その時は4人で役を決めずに読み合わせから始めました。 チェさんから、ただフラットに読んでください。という提案があったのですが、 私はどうしても自分なりの役のイメージというかニュアンスが入ってしまい、それを取り 除くのに苦労しました。イメージを優先して相手とのかかわりを疎かにしてしまう自分の癖に気がつきました。
『かもめ』の4幕 、ニーナとトレープレフが2年ぶりに再会するシーンを、 チェさんがニーナ、私がトレープレフを演じ、観客の前で発表することになりました。 イメージを表現しようとする演技からの脱却が私の目的でした。 男性役を演じるにあたって、チェさんの演技の礎であるスタニスラフスキー・システムの訓練法を活用し、まずは日本の男性歌手・矢沢永吉(私のイメージから全くかけ離れてい るキャラクター)を観察することから始めました。
単なるモノマネをするのではなく“人物 の行動の原理”を身につけることで男性の行動を「体験」し、トレープレフを模索していき ました。 実際に観客の前で演じるまでは、歌手・矢沢永吉とトレープレフがどう繋がるか全く想像 がつかなかったのですが、まさに自分でも想像できない“新しい自分”にトレープレフの“役” を通して体験することができました。自分はこう見せたいとか、観客にこう思って欲しい といった“他者の視線に重きを置く私”から解放された瞬間でした。前回お話したダンスの 少女ほど自由に、、、とまではいきませんでしたが、演技が楽しいと思えたのは久しぶり でした。
SORAさんが、“演技とは、いつも新しい世界に出逢わせてくれて新しい人生を全身と心で 経験させてもらえる勉強でもある”と仰っていました。 私も同じような思いがありますし、SORAさんの謙虚な姿勢にハッとさせられ、 演技をする本質的な理由について私も改めて考えようと思いました。
SORAさんが日芸で公演された「童僧」という作品も気になりました。 日本での公演はいかがでしたか。またぜひそのお話も聞かせてください。
2023年9月16日 エイコ