旅日記 秩父にて 肆 闘争心
僕らは道に迷っていた。代わり映えのない住宅街をぐるぐると回る。
ねえ、メリー・ルー。僕達は辿り着けるのかな。
貴方なら大丈夫よ。だって私の愛する人だもの。
君がそう思うのなら心配ないね。だって君はいつだって正しいのだから。
それから何度も同じ景色を堪能して、やっと次の目的地である「秩父礼所17番 定林寺」に到り着いた。僕らは愛車を道の端に置いて定林寺を観光した。
木々に囲まれたこの寺は、心地良い風が流れている。それはまるで、僕の汚れた心を洗い流してくれている様だった。
しばらくの間、目や心で空気を楽しんでいると、彼女達が来た。
そう、旧秩父橋で見たコスプレイヤー達だ。(「旅日記 秩父にて 弐 旅立ちの丘」に登場している。)
先の出会いは一方的なものだった。そして今この時、やっと僕らと彼女達の素敵な出会いが始まろうとしていた。
こんにちは。
こんにちは。
会話終了。公園で出会った高齢者達(「旅日記 秩父にて 参 Mary Lou」 に登場している。)との会話よりも短く、呆気なく終わった。
そうだ。僕らは旅人だ。此処に留まっている時間は無い。
それに、僕にはメリーがいる。きっと、それで良いんだ。きっと・・・。
旅先の素敵な出会いを少し期待していた先程までの自分に対する恥ずかしさを誤魔化しながら、自転車に跨ると再び走り出した。ペダルを踏む足に力が入る。
大丈夫よ。貴方には私がいるもの。
メリー・・・。
僕達は、次から次へと流れて来る風を一つ残らず、切り裂いていた。この時の僕らは無敵だった。
メロスが、太陽が沈む10倍の速さで走るなら、僕らは光が地球を一周する10倍の速さよりも速く走ってやる。
そう、叫んでしまいたい気持ちをハンドルに、そしてペダルに全て込めた。僕らは更に加速していく。
メロスは私達に勝てるかしら。
さあね。僕らも負けるつもりは無いんだから。
僕はメロスよりも早くシラクスの町へ戻り、セリヌンティウスを助けた後は、「シラクスの暴君」ディオニス王の顔面をぶん殴ってやろうと心に決めた。
闘争心剥き出しで辿り着いたのは「礼所10番 大善寺」だった。いつの間にか沈み始めた太陽を見つめながら旅の終わりが近づいていることを実感した。