人間は考える悪し? 花の名は。Vol.8
「人間は考える葦である」。フランスの哲学者パスカルの言葉、はて、フランス人なのに日本語じゃん、などと、いらないツッコミは置いといて。著書「パンセ」に記された原文にあるこの植物は、日本にも原産自生する葦、アシそのものでよさそうです。
和名、アシ。ところが、ヨシという和名もあります。同じ植物です。良し悪しというだけに、対極的ですが、同じ植物です。アシ、だと、悪しに通じるから、ヨシに変えちゃえ! って。ちょっと安直に過ぎるような。
万葉集など、古代においては、ほぼ、アシと呼ばれたようです。アシの語源について。それは諸説乱れ飛び、どれも確証がないので省略。
牧野富太郎博士。数ある名著のひとつ『植物一日一題』に「片葉のアシ」という項目があります。「片葉の葦(カタハノヨシ)」という「有名な、特別なアシ」があり、これが「アシ」ならぬ「ヨシ」であるという当時の都市伝説(農漁村伝説か?)を牧野博士が完膚なきまで全否定した逸話が本題です。単に一方から吹く風のイタズラで、葉が一方を指しているにすぎない、と。
そのなかで、「アシが本名であるが、これを悪しに擬し、ヨシを善しに通わせ縁起を担いでそういったもんだ。」と述べられています。なので葦原はアシハラではなくヨシハラ。江戸時代からの遊郭・吉原はもともと、アシが茂る湿地帯だったのでヨシハラ、ということです。
縁起を担いで悪しが善しに転じたのは江戸時代あたりなんでしょうね。
似たような縁起担ぎは明治以降に栽培されるようになった洋花にもあります。キク科の鉢花、シネラリアです。その名は旧学名の属名からで、スペルはCineraria。学名を各国でどう読むかは基準がない!そうで。CとSを置き換えたローマ字風の読み方でシネラリア。
シネラリアで昭和の頃まで定着していました。しかしこの花、卒業式を飾るのにちょうどよくて、学校では大人気なのです。お祝いの場に死ねラリアはちょっとね、マラリアで死んじゃうみたいで嫌だろうと。
最近はほぼ、サイネリアになりました。英語風に読んだわけです。サイですか。ちゃんちゃん。
ちなみにCinerariaは旧学名。現在はPericallis属。ペリカリスと表記はわりと統一されているものの、この花をペリカリスと呼ぶ日本人は、ほぼ、いません。それどころか、もうひとつの旧学名があります。Senecio属だった時期があるのです。なので少し毛色の(草姿とか、咲き方とか)変わったペリカリスが、セネシオ・なんたらの名で流通したりします。面倒ですねえ。
明治に遡ると、実は和名がつけられていました。フキザクラ。葉の形がフキに似た華やかな花の意でしょう。そこから転じて、富貴菊、富貴桜と、おめでたい呼び名もありましたが、揃って死語になりました。死語ネリア。ちゃんちゃん。