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はな・物語 巻ノ八・ジャカランダ
憧れの紫雲木は徐々に身近な花に
三大花木随一の知名度
世界三大花木をご存知だろうか。鳳凰木(ホウオウボク)、火炎木(カエンボク)、そして紫雲木(シウンボク)。ものものしくいかめしく、あまり馴染みのない名ばかりである。いずれも巨木高木となる熱帯花木であるため、日本では植物園の大温室などで栽培されるのみだった。その中でただ1つ。ものものしい和名よりも、学名で知られた花がある。
紫雲木こと、ジャカランダだ。
ジャカランダ属は主に熱帯アメリカに約50種類が分布している。日本で知名度があり、また主に栽培されている種類は、ジャカランダ・ミモシフォリア。キリモドキという誰も呼ばない和名がある。見上げるほど高いところに青い花が咲く雰囲気は確かにキリに似ている。アルゼンチン原産の落葉高木で成木の樹高は15m以上にもなる。
ジャカランダの生育に適した気候は熱帯〜亜熱帯だ。雨季、乾燥期が終わる頃に開花する。落葉した姿から樹一面に花を咲かせる。サクラの「ソメイヨシノ」同様、開花後に新葉が展開する。大木になると1つの花房に50個以上の花をつける。淡い藤色の花が天を覆うようにさく様は美しい。シウンボク(紫雲木)の別名にもうなずける絶景である。
熱帯アメリカと気候が似たアフリカやオーストラリア、ヨーロッパ南部などで古くから植栽されている。メキシコシティ、南アフリカのプレトリア、オーストラリアのシドニー、ハワイ、ヨーロッパではポルトガルなどで、観光名所になっている。それぞれの都市を調べてみた。ジャカランダにまつわる物語が存在し興味深い。
この花が日本で知名度を上げたのは、比較的最近のこと。海外旅行が普及するにつれて、最初は口コミから、青紫色の絶景が伝えられていった。やがて開花期に名所を訪ねるツアーが組まれるようになる。現地を訪ねた人が感動し、また口コミが広がった。憧れの花として、ジャカランタの名も知られるようになった。
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それぞれの地で紡がれた物語
メキシコシティにはブラジルからジャカランダが導入された。立役者は日本からの移住者、松本辰五郎氏だ。市の主要道路沿いに植えることを提案したとある。ワシントンの例にならってサクラ(ソメイヨシノ)を植栽する案があった。松本氏は気候の違いからソメイヨシノは向かないと判断。そこで提案したジャカランダは大当たり。現在ではこの花がメキシコ原産だと思われるほどである。
ところ変わって南アフリカ。人口では最大の都市ヨハナスブルグから西へ約50㎞、行政の首都こと、プレトリア。そこでは現地の春(10月)になると、約7万本ものジャカランダがいっせいに開花する。その絶景は「パープルシティー」と謳われている。または「ジャカランダ・シティ」とも。南アフリカにおける重要な観光資源になっている。こちらも導入元はブラジルだ。
同じく南半球のオーストラリア、最大の名所は東部の町グラフトン。シドニーとゴールドコーストの中間にある。町中の街路樹がほぼ、ジャカランダ。その数、約6500本。毎年10月、ジャカランダ・フェスティバルが開催される。1934年から、80年以上の歴史をもつという。オーストラリア最大の都市、シドニーでも、現地の春10月には、そこかしこでジャカランダの大木が花をつける。
北半球に戻る。ハワイでは1900年代初めに南米から運ばれた。植物園を中心に、ハワイ諸島に広く移植された。日系人の間で「キリモドキ」や「ハワイザクラ」、「ムラサキサクラ」と呼ばれた。葉が開くより先に花が咲く姿からであろう。日本のサクラと重ね合わせ、故郷を偲ぶ花と親しまれた。
南ヨーロッパのジャカランダ、有名な名所はポルトガルのリスボン。大航海時代にブラジルから持ち込まれたとされる。開花時期は5月末ごろ。葉が開くより先に花が咲く。ハワイと同様、この地が北半球であり、亜熱帯の気候であるためだ。
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日本での植栽成功事例
熱帯性で寒さに弱く、日本での植栽は難しいと思われていた。そこは、なんとかしてしまうのが日本人。
日本最大のジャカランダ植栽地は宮崎だ。1964(昭和39)年にブラジル県人会から贈られたジャカランダの種を大事に育て、14年後の1978(昭和53)年に初めて開花。それから40年近く経ち、約1000本もの「ジャカランダの森」が広がっている。
開花は5月下旬から6月、葉が展開してからとなるものの、数が数だけに壮観な風景だ。花が散った後も、しばらくは青い絨毯のようになり見事とのこと。コロナ禍で中断していたが、その時期にはジャカランダまつりも開催される。
その後、西日本を中心に各地でジャカランタの植栽がみられるようになった。海外と同じように物語が紡がれている。有名なのは長崎県雲仙市の小浜温泉。樹高約10mのシンボルツリーをはじめ約100本のジャカランダが温泉地を彩る。
関東以北では多くはないものの、静岡県熱海市、神奈川県横須賀市、東京都心などでは露地植えで大木となり開花している例がある。
首都圏で規模が大きいのは熱海市だ。街中、普通の街路樹にジャカランダが使われているので驚く。見上げるような大木も多い。きっかけは1990年。熱海市と国際姉妹都市の締結をしている、ポルトガルのカスカイス市から、2本の苗木が寄贈された。その後、温暖な気候が幸いし順調に増え続けた。
2014年には、「ジャカランダ遊歩道」として再整備された。お宮の松で有名な(らしい)「お宮緑地」が中心地。マツではなく、ジャカランダが多いとは。「お宮のジャカランダ」はまだ聞いたことがない。海岸、国道沿いであり、交通の便もよい。
残念ながらジャカランダが開花する時期の初夏に熱海を訪れたことがない。日本の気候だとどうしても、開花するより先に葉が展開するので、本家・元祖の熱帯地方並み絶景とはいかないまでも、目を引くこと間違いなしだろう。
私の地元近くでは神奈川歯科大学キャンパスに大木がある。毎年、Webサイトで丁寧にジャカランダ開花情報を更新している。ここもまだ訪問できていない。
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憧れの花をお家で咲かせたい!
以前から日本に導入され、苗木や鉢植えが流通している、ミモシフォリア種は、鉢植えで栽培してもかなり木が大きく育たないと開花しにくい。そこで、どちらかというと観葉植物として扱われることもあった。ライトグリーンの葉は細く繊細な切れ込みが入り美しく、それなりの観賞価値がある。
数年前から流通するようになった、アクティフォリア種は、花の色がやや薄い他は、ミモシフォリア種とよく似ていると言う。特長は木がコンパクトで成長がゆるやかなことと、若木でも開花しやすいこと。露地植えの成木でも3〜4m、鉢植えであればより小さな姿で、身近に花を観賞することができる、という触れ込みだった。関東地方平野部以南での温暖地なら、露地植えにもできそうだ。
ということで入手した。耐寒性はマイナス1℃程度までとされ、特に木が小さい間は幹や根が凍結しないように保護する必要がある。鉢植えで栽培を続けた。越冬は南側にある庭で大丈夫だった。5年、6年と経過、2回くらい花を見たが、小さく、少ない。憧れのジャカランダ気分には程遠い。毎年でなく時々植え替えていたら樹高は2m近くになった。
さて、来年、咲かなかったらどうしよう。もうこれ以上、高くしたくないからバッサリ強剪定を試みるか。それとも・・・。
アクティフォリア種の選抜改良、種間交配など、いくつか販売されている。品種名がついていて、いかにも育ててみたくなる。ただ、家庭で育っていて毎年、花が咲きます!という話は少ない。先に普及したミモシフォリア種は、たまに庭先、玄関先でみかける。人の背を越す大きさになっても、ずっと観葉植物のようである。
ここで最新情報を。2023年秋。地元も地元、横浜市港北区内のとある施設の前庭で、開花しているジャカランダを発見した。通り沿いで、10本ほど植えられている中に、1本だけ、まずまずのボリュームで花穂を揺らしていた。樹高は1mほどである。最初は我が目を疑った。葉、花の作り、間違いなくジャカランダだった。
調べたところどうやら「日南のめぐみ」という交配品種らしい。いかにも育ててみたくなったうちの1つだ。矮性で返り咲きあるいは連続開花性とある。これは・・・。ほしい。
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鳳凰、火炎、そして瓔珞
最後に、語られることがとても少ない、三大花木の残り2つに触れておく。「世界一の美しさ」で三大花木を上回るのかもしれぬ、ラスボスも登場する。三大花木プラス1、いずれも漢字が難しい。字面がものものしく、いかめしい、という点が共通している。
ホウオウボクはマダガスカル原産、マメ科。ネムノキに似た葉をもつ。開花するとまったく眠たげではない。ド派手な紅色の大きな花房を葉の上につける。その名は古代中国の霊長である鳳凰。火の鳥だ。大木となり樹上を覆うほど開花している写真を見ると、こちらが火炎木かと思う。原産地では絶滅寸前だそうだ。
カエンボクは西アフリカ原産、ノウゼンカズラ科。遠目にはホウオウボクに似ている。よく見ると花の構造がまるで違う。別名、「アフリカン・チューリップ・ツリー」。固まって咲く花の1輪1輪がチューリップの花に似ている、と言われれば、確かに似ている。適地であれば1年中開花するそうだ。
ホウオウボク、カエンボクとも、日本国内でも植物園の温室ならあると思われる。ただ、なぜか、見た記憶がない。ジャカランダのように植栽されているとも聞かない。植栽が試みられているとしたら南西諸島だろう。がんばれ、3分の2花木。
この文を執筆中、ニュースが目についた。「世界一美しい花木」が神代植物公園で開花。国内二例目という。世界一の花木、とな。てっきり、三大花木のどれか、だと思っていた。違った。ヨウラクボク。瓔珞木と書く。難読漢字2文字である。三大花木とくっつけて四大花木ではないのか? ビッグスリーを上回るラスボス、なのか? 写真1枚を見た限り、世界一美しいとはちょっと???
謎は深まるばかり。ヨウラクボクはミャンマー原産、マメ科だそうな。次に開花したら見に行きたいが、チャンスは少なそうだ。
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植物名一覧
いわゆる紫雲木
マメ科 キリモドキ属
ジャカランダ Jacaranda mimosifolia(ジャカランダ ミモシフォリア)
ジャカランダ アクティフォリア(矮性ジャカランダ) Jacaranda acutifolia
誰も言わない別名キリモドキの本家
キリ科 キリ属
キリ Paulownia tomentosa(パウロウニア トメントーサ)
葉が開くより先に咲く
バラ科 サクラ属
ソメイヨシノ Cerasus x yedoensis(ケラスス イエドエンシス)
世界三大花木、他の2つと、ラスボス
ノウゼンカズラ科 カエンボク属
カエンボク Spathodea campanulata(スパトデア カンパヌラタ)
マメ科 ホウオウボク属
ホウオウボク Delonix regia(デロニクス レギア)
マメ科 ヨウラクボク属
ヨウラクボク Amherstia nobilis(アムヘルスティア ノビリス)
マメ科 ネムノキ属
ネムノキ Albizia julibrissin(アルビジア ジュリブリッシン)
参考Webサイト
海外観光名所
ジャカランダ・フェスティバル オーストラリアに春を告げる花のお祭り|JTB
国内植栽事例
宮崎県 日南海岸 世界三大花木「ジャカランダ」日本で唯一!約1,000本の青紫花南米の情熱を秘めた高貴なパープルが雅を演出|JTB
栽培
貴重な情報
文中に登場
参考文献
全般、栽培
最終更新日 2025年2月1日
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