しめやかに

義父はもうすぐ退院する予定だった。

いくつかの大病を経験していたため体調を崩すことも多く入退院を繰り返してはいたが、帰ってきたときのために義母は室内のバリアフリーを整えて待っていたし、私も義父の好きな料理を振るまうつもりでいた。

義父が亡くなった日は雨だった。そろそろ夕飯を作ろうかとしていたとき、病院から容態が急変したとの電話。義母と夫の二人が病院へ向かい、私と子どもたちが自宅で待機していると、しばらくして死去の知らせを受けた。こんなに急に逝ってしまうなんて思ってもみなかった。翌日から仮通夜、本通夜、葬儀と、慌ただしい連休になった。

同じ家に暮らしていたのに、義父と言葉を交わすことはあまりなかった。
お互い口下手だったし。
少々捻くれた性格も、酒好きなところも食べ物の好みも、なぜか血の繋がらない私とよく似ていた。

通夜に集まった昔馴染みの方々の話を聞くに、義父の人生はなかなかに波乱万丈で武勇伝も数知れず。もっといろんな話をすればよかった。聞いておけばよかった。そんな思いもなくはないが、生き返った義父が目の前にいたとしてもきっと私は何も聞けないんだろうな。

そして、いつも朗らかな義母は葬儀が終わるまでいつもと変わらない優しい表情で義父の亡骸に話しかけていた。
きっと葬儀が終わったあとも、毎日話しかけているに違いない。

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