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クラッシック音楽にはまったく不案内だが。

もう数十年ほど前の話だ。

たいして面白くもない高校時代だったけれど、放課後聞こえてくる吹奏楽部の演奏は学校での数少ない楽しみの一つだった。高校入学して間もない4月、特に音楽に造詣が深いわけでもない私でさえ、「なるほど高校生ともなるとこんなに凄い演奏ができるようになるのか」と感動するほど、迫力のある音。

でももしかしたら、あの音はどこの高校でも聞ける音ではなかったのかもしれないと気づいたのは、卒業して十数年経ってからだった。当時、吹奏楽部でタクトを振り「我が校のカラヤン」とも呼ばれていた一つ上の高校生は、その後、プロの指揮者になっていたのだ。

教師になるはずだったその人が指揮者への思いを捨てきれず大学に入り直し、フランスの国際指揮者コンクールで優勝したとの新聞記事を読んだとき、私のくすんだ高校生活の中にも確かに青春っぽい瞬間があったことを思い出した。

あのとき聞いていた曲の名前も、いやどんな曲だったかさえ憶えていなくて、相変わらずクラッシック音楽にはまったく不案内な私だが、時々メディアでその人を見かけるたびに、やけに埃っぽい教室や歩くとギシギシ鳴る薄暗い廊下を思い出し、懐かしい気持ちになる。

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