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余興、そして余興

二十数年前。石垣島で暮らしていたころ。働いていたガソリンスタンドの同僚のSさんが結婚することになった。Sさんは内地で暮らしていた時期があったようで、島の人には珍しく、流暢な関西弁をしゃべる人だった。自分も三重県の西側に位置する地域出身だったのでイントネーションは関西よりだった。そのような経緯もあってSさんとは仲良くさせてもらっていた。

結婚式には是非来てくれ。Sさんがそう言ってくれたことが嬉しかった。しかしスーツをもっていなかったので、他の同僚に借りて式に出席した。まだ二十歳そこそこで、結婚式というものに関わること自体はじめての経験だった。

結婚式当日。大きな円卓の席につくと、名前もわからない料理が運ばれてくる。慣れないフォークとナイフでちまちまと食べていると余興が始まった。Sさんの友人の皆さんがコントチックな。いや、まるっきりのコントをやって会場を沸かせる。

そして式が進行して新郎新婦の挨拶、そして次にまた余興が始まった。その余興が終わると式が進行し、次にまた余興がスタート。

えっまた?結婚式ってそういうものなの?と、世間知らずの俺は思った。しかし周りはみんな楽しそうにしている。島酒を飲みながら笑っている。はあ、結婚式というのはやたら余興を挟むものなのだなと、独り納得していた。しかしこの余興のひとつひとつの熱量がすごかった。数回練習しただけでは出来ないであろう仕上がりだった。

楽しい結婚式は終わり。その帰路の途中で興奮気味に、同席していた上司に、結婚式って余興がたくさんで楽しいですねと話した。すると、「ああ、島の結婚式はやたら余興が多いんだよ。内地ではあそこまでやらんよ」と言われた。その上司は若いころに東京に住んでいたらしく、島と内地の違いを理解している人だった。

あとで聞くとあの盛りだくさんの余興は、新郎の友人たちが自主的にやっているものらしく、練習になかなかの時間をかけて練り上げるらしい。

島の人の、祝い事に関する情熱というものは本当に凄い。もう、当の主役よりも熱い入れ込みようで。なぜそこまでするのかちょっと理解に苦しむほどに全力で祝おうとする。

見習うべきなのか、いやちょっとやりすぎなのではないか、と。思ったりもする。

数年後、地元に帰り二十代後半になったころ。中学の同級生から連絡があった。

今度結婚することになった。だから約束通りスピーチを頼む、と。

そういえば昔、お互いの結婚式でスピーチをしようと約束していたのだった。

俺は気合をいれて、スピーチ関連の書籍を買って読みこんだ。しかし式当日、緊張のあまり出番前にビールを飲み過ぎてしまった。名前を呼ばれてマイクの前に立った時には頭が真っ白になってしまい、変にウケを狙って言った言葉が大スベリして大恥をかいた。

そのとき、ああ、島に帰りたい。と、ちょっと思った。

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