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AIと人間、発見のかたち【今日の余録】
僕がかつて大学院で研究していたのは、異なる環境で動作するマルチエージェントシステム。簡単に言えば、ネット上を自動で動き回って情報を集める小さなAIプログラムたちのこと。これらのAIエージェントたちに、それぞれ固有の役割を与え、互いに協調しながら情報を集めていく。そんなシステム構築に取り組んでいた。今の生成AIとは環境こそ違えど、分散された情報を社会に活かそうとする方向性は同じだと感じる。
今回の脂肪肝研究の話を読んでるうちに、当時の記憶が蘇ってきた。イスラエルとパレスチナという異なる環境で見つかった症例、そこに関わる様々な国の研究者たち。まるで僕らが研究していた複数の環境をまたぐエージェントのように、互いに結びつきながら大きな発見へとつながっていく。
僕らの研究では、エージェント同士が協調して情報を集める仕組みを作っていた(情報を集めた先の役割もあるが、長くなるので割愛)。だが、今回の医学研究のように、予期せぬ発見から新たな知見を見出すような柔軟性は持ち合わせていなかった。当時はそこまで考えられなかったが、人間にしかできない直感的な気づきの大切さを今になって実感している。
中東の医療現場で見つかった症例が、日本人研究者の発見とつながり、現代の深刻な健康問題である脂肪肝の解明に結びついた。この壮大な偶然の連鎖に、人智を超えた何かを感じずにはいられない。そして、国境を超えた研究者たちの協力に、人類の持つ可能性を見る思いがする。
僕たちの周りには、まだ見ぬ発見が無数に転がっているはずだ。それは医学の分野かもしれないし、情報科学かもしれない。分野は違えど、発見の本質は同じだと思う。予期せぬことに出会った時、そこに何かを見出そうとする好奇心。それこそが、人間という存在の特権であり、同時に責任なのかもしれない。