『パグマガ』より。 その2
10年前に関西で発行されていたフリーマガジン『パグマガ』に連載していた自分の奇文を再掲載するという企画。
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フリーマガジン『パグマガ』連載コラム
『俺はお前の噛ませ犬じゃい!』
プロレスと総合格闘技の違いの大きな部分として、プロレスには「相手の技を受けきる」というものがある。
ロープに投げられても走って戻ってくる、という現象はそのお約束に則っているからである。
さて、いわゆる「シナリオがある」と黙認されているエンターテイメントプロレスの場合、特にWWEの世界ではそのお約束はもっと多彩で楽しいものになる。
「対戦相手の家族を人質に取る」「対戦相手の恋人を寝取る」「対戦相手の車を破壊する」など、思わず「そんな馬鹿な」とか「法律的に問題は?」「何故その現場にカメラが?」と唸ってしまうが、冷静にそんなことを考えながらプロレスを見たってちっとも面白くないので、そんなこと考えるのはやめにしてしまいましょう。
さて、そんなお約束の中でももっとも私が好きなのが、「レフェリーを騙す」というものである。
例えば、「レフェリーを失神させておいてそのスキに反則行為をする」というものである。
ヒールレスラーがこれを行ったときの楽しさはたまらないものがある。その瞬間からリング上はまさにそいつの時間になるのだ。
エディ・ゲレロというレスラーが実にそれらのムーブが巧みで、多彩で、なおかつ楽しかった。そして憎めないキャラクターであった。
過去形で書いているのは、もう既にエディがこの世にはいないからである。
2005年11月13日、彼は天に召されてしまった。
もはや彼の「ズルしてイタダキ」プロレスは見れないのである。実に残念で悲しいことだが、私は彼のためにも、もっと多彩でもっと盛り上がれるようなお約束を、「ズルしてイタダキ」な勝利プランを日々考えている。
「対戦相手の家族にレフェリーを失神させる」
「対戦相手の恋人にレフェリーを失神させる」
「対戦相手の車でレフェリーをはねる」
「レフェリーの家族を人質にとる」
「レフェリーの恋人と対戦相手を戦わせる」
「対戦相手の車にレフェリーの恋人を乗せてドライブ」
「レフェリーとドライブ」
「レフェリーの車を破壊」
「対戦相手の家族を人質にとったスキにレフェリーをはねる」
「対戦相手を失神させておいてそのスキにレフェリーを寝取る」
「対戦相手の車を破壊しておいてさらにいい車をプレゼント(誕生日に)」
「対戦相手の恋人を寝取っておいてさらにいいレフェリーの恋人をプレゼント(誕生日に)」
「レフェリーを失神させておいてそのスキに対戦相手も失神させて、さらに自分も失神」
「レフェリーと対戦」
「対戦相手の家族と自分の家族とでレフェリーを囲む」
「自分の車を破壊してレフェリーの車よりいい車ばかり購入」
「対戦相手の家族を人質に取ったレフェリーをはねる」
「レフェリーを失神させておいてそのスキに全員で帰ってしまう」
「目を覚ましたレフェリーが寂しい気持ちになり、泣きながら帰宅」
「玄関を開けると全員でハッピーバースデイを熱唱」
「みんな…そういうわけだったのか?ありがとう…」
「その瞬間レフェリーを失神させる」
こうして真面目にいろいろ考えてみたが、どれもエディの足元にはとても及ばない。ありがとう、エディ。
2006年 9月