『新しき世界』 感想
ヤクザの組織に潜入捜査していた刑事が、どんどん大変な目にあう映画。
『インファナル・アフェア』+『ゴッドファーザー』のような映画!
と、いう惹句を目にした時は、そんな都合の良い映画ありますかいな、とたかをくくっていたのですが、実際に観てみると、なるほど、言い得て妙だな、と感心したのでした。
表向きは巨大企業のゴールドムーン社。
その実態は、ヤクザの大組織だ。
幹部であるジャソンは、ある夜、港で一人の男を拷問している。
彼は、警察と繋がりのある疑惑があるのだった。
足をハンマーでバキャーンと割られた後、ドラム缶に入れられた男の口には漏斗が咥えさせられ、そこにドンドンとセメントが流し込まれていくではないか。
うげー恐ろしい。
しかしながら映画が始まって五分と経たないうちからのフレッシュな拷問描写に、やはり怖い韓国映画は本当に怖いな! と期待が高まる。
しかしながらそんな拷問を見届けるジャソンは、釣堀の廃墟に入っていくとそこで警察のカン課長と落ち合う。
ヤクザの幹部と警察が何の話を?
何のことはない、ジャソンこそが潜入捜査員だったのだ。
ジャソンは、
「もう八年も潜入捜査してるのに警察はいつまでも戻れと言ってくれない。もう嫌になった」
と、ブーブー文句を垂れるが、カン課長は、
「あとちょっとだけ頼むよ。ね、お願いこれで最後だから」
などと借金の無心に来る親戚のようなことを言うのでジャソンは呆れてしまう。
そんな中、ゴールドムーン社の大ボスが事故でドガシャーンと、派手に死んでしまい、一体誰がナンバーワンの座に就くのか?
といった生臭い組織内の派閥争いが立ち上がる。
実質ナンバーツーのおっさんは冴えないので相手にされない。
そこで候補の筆頭に上がるのがナンバースリーであり、ジャソンの兄弟分でもあるチョン・チョンだ。
チョン・チョンは変なタレ目サングラスをかけているし、白いスーツや個性的な髪型、チャラい言動などで、最初は「こんなのがトップになったら会社終わるぞ!」と一瞬心配になるのだが、きちんとチョン・チョンは立派なヤクザで、しっかりと頭も冴えて仕事もできるし容赦ない暴力も全然奮えるので安心なのだ。(何がだ)
しかし面白くないのはナンバーフォーのジュングなのである。
韓国のヤクザ社会は血筋社会。
「国産牛(韓国牛)こそが最高品!」という言葉が劇中に何度も出てくるように純潔の韓国人こそが一番であるべきだ、とジュングは考えている。
チョン・チョンとジャソンにはトップの座は相応しくない。
何故ならあいつらは、華僑出身だからである!
と、実に痛い妄想に取り憑かれたジュングは、チョン・チョンとジャソンを組織から追い出そうと考える。
一方その頃、チョン・チョンは警察であるカン課長と接触をし、
「これからは賄賂送りますんで仲良くしてくださいよ」
と、取引を持ちかけるのだがカン課長に
「舐めるなチンピラ」
と、お金を入れてわざわざ作らせた月餅餅を踏んづけられてしまうのであった。
チョン・チョンはもう怒ったぞ、と、自らのコネクションを利用し、中国のスーパーハッカー(ここで急に漫画ぽくなる)に依頼して、警察の極秘ファイルをゲットしようと企み、同時に延辺の殺し屋たちをも召喚する。
ジャソンは、そんな人たちに挟まれながら、いつ正体がバレるのか、胃の痛い日々を送るのだが……
最高に面白かったです!!!
「新しい世界」とは、警察のカン課長が発する言葉で、その内容を聞くと、なるほど、そういう作戦だったのか、と唸ってしまうのですが、その実、この物語が最後にたどり着いた場所こそが本当の意味での新世界でした。
感動で涙が。
延辺から呼ばれる殺し屋達ですが、彼らのいる延辺という土地は、『哀しき獣』の主人公と社長達がいた場所ですね。
中国人にも朝鮮人にもなれない、はみ出し者が住んでいる、と描写されていた場所です。
ジュングは純潔にこだわりますがそれは別にジュングがただ単にイタい奴なだけではなく、韓国の古くからの考え方なのだそうです。
だからこそ、華僑出身のジャソンとチョン・チョンはヤクザ社会にとって「新しき」者たちとなるのです。
更にラストで、チョン・チョンがとった行動と、彼の考えて目指した未来。
それこそが真の意味での「新世界」となりうるのでした。
そこに二人が足を踏み入れることが出来たのは、六年前に、血や組織や出身地などでは手にすることのできない「絆」があったからなのです。
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