ディストリビューターから見た音楽業界の今。【金子雄樹氏/第一期音楽マーケティングブートキャンプレポート vol.9】
9月26日
第九回は、The Orchard Japan ヴァイス・プレジデントの金子雄樹氏を講師にお迎えし、「Orchard Goを使ったデータ分析/世界に向けたマーケティングの最新事例」についてお話いただきました。リアル店舗での接客経験とデジタルの販売経験を持つご自身の経験は、現在のお仕事でもかなり活かされているとのことでした。
大まかな流れ
・ディストリビューターとは?
・The Orchard Japan様について
・なぜディストリビューターが重要か
・現状のまとめ
・今何が起きているか?
・今後の課題
〇ディストリビューターとは?
ディストリビューターとは、コンテンツ運搬の役割を担っています。
具体的には、コンテンツを預かり、販売していただけるところに届ける仕事です。
〇The Orchard Japan様について
The Orchardは、1997年にニューヨークで創業された老舗ディストリビューターです。日本では2019年にローンチされました。特徴として、Spotify、Apple Musicの推奨ディストリビューターであることが挙げられます。
最近では、セールス・マーケティング/クライアント管理を45カ所の市場で展開し、扱う局数は1400万曲にも上ります。各国特有のDSPを網羅しており、全世界配信が可能です。
〇なぜディストリビューターが重要か
ここから、ディストリビューターの重要性が高まっている6つの要因をThe Orchardの歴史と被せながらご説明いただきました。
1.ストリーミングの台頭
ストリーミングサービスは、2015年頃から大きく伸びてきています。
2.USのトップ・ジャンルの推移/3.R&B・Hip-Hopのストリーミングの比率
2016年は、フィジカル・デジタルをRockが牽引し、ストリーミングはR&B/Hip-Hopがトップシェアでした。ダウンロード数は際立って売り上げが減り、ストリーミング売上が支えているような状況でした。
2017年は、R&B/Hip-Hopがトップ・ジャンルに入ります。7月には、トップ10のうち9つをR&B/Hip-Hopアーティストが席巻しました。
2018年には、ラジオのTop20のうち6組がR&B/Hip-Hopアーティストとなります。R&B/Hip-Hopアーティストにとってデジタルリリースは基本であることから、リスナーもストリーミングなどのデジタルサービスを使用することが最近のトレンドとなったとのことです。
4.DTMによる制作予算の縮小
EDMなどの音楽はスタジオ録音が必要なく、素人からプロまでDTMソフトを使用でき、それが予算の引き下げに貢献しているとのことです。
5.制作バジェットも自ら捻出する時代に
音楽業界内でのクラウンドファンディングが当たり前に行われるようになってきており、メジャー契約がなくてもお金を集める手段が生まれてきたそうです。
6.セルフサービス環境、独立系向け環境の普及
Spotify for Artistsなど、DIY系のサービスが充実してきたといいます。
〇現状のまとめ
続いてはここから分かる「不要なもの」と「必要なもの」についてお話いただきました。
一言で言うならば、お金よりも、流通とデータが重要になってきているとのことです。
現状として、 ・プロレベルのスタジオを必要としない音楽ジャンルの台頭
・スタジオレベルの楽曲制作がPCでできる時代
・必要な予算は自分たちで調達できる時代
であることから、
・ユーザーへ届ける流通網
・各DSPにプロモーションを依頼する手立て
・細かな売上分析
・SNS時代特有の速度感
が必要になってきているとのことです。
このような時代の変化から、レーベル契約をせずに自分たちでやりたいと考えるアーティストが増え、ディストリビューターにフォーカスが当たってきているのではないかとおっしゃっていました。
〇今何が起きているか?
今日、SNS使用時間と音楽の聴取時間はどちらが長いでしょうか?現代では、前者が過半数ではないかと金子氏はおっしゃいます。
The Orchard Japan様のサービスとして、Insightという機能があります。これは、アーティストの各種ランキング情報を一括して参照することができます。また、SNSのフォロワー数を一括して把握することや、他のアーティストとのソーシャルの比較が可能です。例として、楽曲を連続リリースした場合に、複数楽曲の一定期間の動向を比較することができます。
トレンドをけん引するプラットフォームは日々変化し、“バズる”ことで有効なプロモーションとして認知されます。レーベルではなくディストリビューターとして、The Orchard Japanは上記のような分析データをユーザーにしっかり開示しているとのことです。
また、透明性をひとつのキーワードとしています。Insightでは、データに閲覧制限をかけて開示することで、多様なユーザーに使用してもらうことを可能にしています。
〇今後の課題
■コスト意識
デジタルシフトの意識はあるもののフィジカルの売り上げが大きい国内市場はまだまだ発展途上だといえます。
デジタルとフィジカルの両立が続く中、売上とシステム投資のバランスやデジタルインフラ(デジタルの流動性)への投資をどこまでするかが重要です。
■デジタルプロモーション実績が薄い
今行われているデジタル「先行」の考え方は、フィジカルを売るための施策です。今後、デジタルを主軸としたプロモーションが必要になり考え方が変わってくるのではないかと思われます。
■パッケージリリースのないアーティストの興隆
デジタル基盤のR&B/Hip-Hopアーティストをどう売っていくか、そのノウハウをどう身につけるかが重要です。
■低予算、ハイクオリティのアーティストの誕生
昔は低予算・低品質でしたが、今はハイクオリティな制作も可能となっています。
■ハッシュタグトレンド、検索などソーシャルの影響力。
トレンド動向をアーティストに意識してもらうことが重要です。起きた現象の次への活かし方をパターン化してプロモーションに活かす必要があります。
■プロトコル(お約束事)は同じでも、各DSPで運用フォーマットが異なる。
お預かりしたコンテンツをいかに最適に、スムーズに各DSPに届けるか、クライアントであるアーティストにどうフィードバックするかが重要です。
今回は敢えて明確な答えは出さず、受講生への問いかけとしてこの課題感を伝えたいとのことでした。受講生の皆さんには、試行錯誤しながら自分なりの答えを見出してほしいと思います。
〇次回予告
次回10月3日は、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント(REDエージェント部)の屋代陽平様/山本秀哉様を講師にお迎えし、「YOASOBIにおけるマーケティング戦略」についてお話いただきます。
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