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YAXI「stPad2」でHPH-MT8が大化け!? ~イヤーパッドはヘッドフォンにおけるルームアコースティックだ!~
どうも、オーディオライター・音響エンジニアの橋爪徹です。
WEBを中心にオーディオ機器やハイレゾ音源、業務用音響機器のレビューをしています。時々、アーティストやクリエイターインタビューもやっています。
音響エンジニアとしては、自宅スタジオStudio 0.xを構え、音声録音を中心に、ネットテレビや公開録音の音声も担当しています。
MT8の標準パッドがボロボロ
長らくリファレンスとして使ってきた、YAMAHAのモニターヘッドフォンHPH-MT8のイヤーパッドがくたびれてきました。表面のプロテインレザーがだいぶ綻びてしまい、剥がれてきています。ちょっとベタ付いた感じもありますので、当時の快適さはなくなってしまいました。
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メーカーのサポートに連絡して、保守パーツを送ってもらう方法もあるでしょうが、ちょっと待って下さい。音楽制作を生業とする業界人に人気の、あのブランドがあるじゃ無いですか。そう、YAXIですよ。
以前、僕が新人ライターの頃、雑誌のレビューでYAXIを書かせてもらったことがありました。4種類くらいのイヤーパッドを装着したヘッドフォンを聞かせていただき、こういう世界があるんだと感動した記憶があります。
その前後くらいに、一緒にBeagle Kickをやっている作曲家でエンジニアでもある和田貴史がYAXIのイヤーパッドを絶賛していたのも印象に残っていた理由でもあります。
MT8に合うYAXIは?
当時のレビュー原稿を読み返して、MT8に合うパッドはどれか検討を付けていきます。何年も前のレビューなので、新製品も加わっていました。
自分のヘッドフォンに合うイヤーパッドを探すのは、このページから簡単にできます。実に多くのブランドに対応していますね。MT8は、4種類のイヤーパッドが対応していました。
私がイヤーパッド交換に当たって求める要素は以下の通りです。
・現状の音の解像度や中低域の見通しの良さ、クリアネスをなるべく変化させたくない
・高域のブライトな感じを少し緩和したい
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正直、今のMT8にはほとんど不満がありません。あえて言えば、少し高域がブライトなので、曲によっては若干刺さるかなという程度。サ行などのシビランスも曲によってはキツめですが、もっと極端な音のモニターヘッドフォンはたくさんあります。個人的には許容範囲です。
当時、ご挨拶していたYAXIの担当S氏に連絡を取り、要望をお伝えしたところ、stPad2かstPad Microfiberをお勧めしてもらえました。
stPad Microfiberの当時の原稿を読むと……
CD900STの特徴を色濃く残しながらも、立体感は向上し引き締まって無駄のない写実的なサウンド傾向だ。(中略)やや音が硬めだがCD900STの特色が大きく変わらないので純粋な音質向上のみを期待できる。
とあります。音が硬めというのは、CD900STのキツめの高域がほぼそのまま引き継がれたようにも読み取れます。これでは目的から逸れてしまいます。stPad2はレビューしていなかったため、記事はありませんでしたが、前世代モデル「stPad」のレビューは参考になりました。stPadは、プロテインレザーの表面に内部は低反発ウレタンを使用しています。
パッド無しの時の圧迫感や高域の刺さるような出音が大幅に緩和された。音像の立体感が増してディテールがより明瞭に聴こえてくる。各楽器の個別の音が聴き分けやすくなり、モニターとしてのチェック性能も向上した。
stPad2の特徴
stPad2は、表面はレザー素材をメインに、ドーム内側の一部のみアルカンターラ。内部はウレタンです。素材も近いので、音の傾向は似ていることを期待しました。
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表面の大部分は、抗菌レザーを採用。「聴きやすく疲れない自然な音」を再現するために内部空間を反射しやすいドーム状にカット加工しているそうです。
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内径部分はレザーとアルカンターラの半円ずつの2部構成。前方向にレザー素材を、後方部にアルカンターラを採用。こうすることで、スピーカーからの音を聞いているような比較的自然な鳴り方、前方に音の広がりを持たせることを目指しているんだとか。
アルカンターラはイタリア製の高級合成素材。自動車のシートやダッシュボードに使われており、通気性が高いのに密閉性にも長けていて、耐久性も高いとのこと。
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アルカンターラは、少しザラつきがあって、手触りが優しい感じです。レザー素材は、つるっとしていて滑らか。少し湿った感じがします(実際濡れてはいません)
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MT8へ取り付け
では、MT8に取り付けていきます。イヤーパッドは初めて外します。ちょっとドキドキでしたが、あっさり取れました。
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アルカンターラとレザー素材は前後を間違えないように取り付けます。とはいっても、向きはそんなに迷いません。
取り付けは「え? これ付けられるの?」ってくらい、最初は全然付けられませんでした。クルッと一周する頃には、反対側が外れているような有様。
ただ、不思議な物で、諦めずに2周くらい側面を引っかけていく内にちゃんとはまっていきます。仕上がりもご覧のとおり、とっても綺麗です。2つなので慣れるまでもなく終わっちゃいましたが、マジで簡単です!
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音の変化の程は……
さっそく試聴していきます。男性ボーカルと、民族音楽を取り入れたインストバンドのライブ音源、自宅で収録したボイスサンプル(女性)をチェックしました。
高域のブライトさはすっかり解消されました。ハイは自然に伸びていて、刺激分は皆無です。籠もってる感じもありませんので、悪影響はないようです。
鼓膜からの距離がイヤーパッドの厚さで少し長くなりました。音場の広がりはまずまずといったところ。「音が近い感じ」は、もともと純正イヤーパッドでもほぼ気になりませんでした。なので、気持ち改善されたかなという程度です。音が近くないとヤダって方には向かないかも。
中低域の解像感はそのまま。低域は雄大に鳴っている印象。元々のMT8は、とてもシャープで”見える低域”が魅力であり、好みによっては”あっさりし過ぎ”とも捉えられるような出音です。それがより空間を感じさせるような響きと共に、やや大仰に聞かせる感じに変化しました。中低域の聞こえ方の変化は、正直好みかなと思います。MT8の超絶クリアなボーカルのディテールや、ベースのクッキリとした音像、バスドラの引き締まった体格などを楽しむなら、相性はイマイチかもしれません。
装着感は、耳をすっぽり覆う余裕の空間が、窮屈さを感じさせないゆったりした心地を与えてくれます。標準パッドのプロテインスキンレザーは、しっとり感が気持ちよく、密着度も高めです。対して、stPad2は側圧が優しく長時間の装着でも疲労は和らぎそうです。首に近い下部の密着度は、標準パッドよりも甘いので、長さ調節のスライダーは微調整してなるべく頭の形にフィットする位置を探りたいですね。
前がレザー素材、後ろがアルカンターラの組み合わせは、想像より大きな影響がありました。確かに耳より前方に定位感があります。イメージで言うと、顔の前方にサウンドステージがずれている感じ。スピーカーで聴く感覚に近いとまではいえませんが、いわゆる頭内定位の不自然な感覚を緩和する効果があるといえるでしょう。頭内定位は脳にとって違和感でしかなく正直疲れますから、リラックスして聞ける「聴き疲れし難い音」といえると思います。「いや、そんなの必要ないよ!」という方はstPadの初代をお勧めします。
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stPad2は、左右が赤青で色分けされているレッド&ブルーと、両方が黒で統一された私が購入したブラックの2種類がラインナップされています。お持ちのヘッドフォンに合わせて好みで選ぶといいでしょう。他人が使うことが多いなら、一目で左右が分かるレッド&ブルーがお勧めです。
YAXIが気になってきましたか?
ぜひ、お手元のヘッドフォンで適合するパッドがあるか調べて見て下さい。
イヤーパッドは、耳に直接音を送るヘッドフォンにおいて、試聴室(部屋)の空間のようなもの。イヤーパッドを選ぶ=ルームアコースティックを調整することでもあるのです。同じヘッドフォンでもパッドを変えれば驚くほど音が変わります。スピーカーで聴くオーディオは、部屋の影響が50%を超えるとも言われます。ヘッドフォンにおけるイヤーパッドは、そこまでの影響力ないかもしれませんが、複数のイヤーパッドを試した私としては、好みの音作りの一貫としてイヤーパッドを交換するのはアリだといえます。
消耗品だから交換する……それだけじゃないイヤーパッド。なんだか面白く思えてきませんか。
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