味噌汁を作ろう
今から37年ほど前、ヒマラヤ・トレッキングに2週間の日程で、標高4000mのアンナプルナベースキャンプまで登ったことがあります。山の中での食べ物は限られていて、ダルバート(豆のスープ)、中国製のインスタントラーメン、チャーハンなど、質素な食べ物でトレッキングをし、やせ細ってカトマンズに戻った私が真っ先に向かったのが「富士」という日本料理レストランでした。
注文した「富士定食」は、天ぷら、小鉢、沢庵、ごはん、味噌汁の組み合わせで、ガリガリ、ボロボロの私には天にも登るような食事でした。豆腐入りの赤だし味噌汁が体中の血液を巡っていく...。ほとほと私は日本人だということを思い知った瞬間でした。
だし汁と味噌で作るスープ、味噌汁。
世界中に「SOUP」はあるけれど、たった2つの材料でスープが作れるのは味噌汁だけかもしれません。
それにしても「味噌汁」と「おむすび」はどこか似ている...。
おむすび=ごはん+塩(+具)
味噌汁=だし汁と味噌。(+具)
どちらも具材は自由で、基本2種の食材で作ることができるシンプルな食べ物です。誰でも作れるけれど、ごまかしが効かない食べ物ですね。
本のレシピの真似すればおいしくなるってわけではないし、作る人の素が出てしまう。ピンもキリも自分次第というところがあります。
何を選ぶか。どう作るか。具材は?
この選択だけでずいぶん違ったものが出来上がってしまうのが、この2つの共通するところ。
台所は実験室であり、砂場みたいなところだから、自由に作りながら自分で探っていくしかないのではないでしょうか。
前回は「羽釜でごはん・おむすび編」でおむすびを素描しましたが、今回は味噌汁を素描してみます。
あくまでこれは私の味噌汁で「みんなの正解」ではありません。
それぞれが「わたしの味噌汁」にしていくことが大事で、昨日より今日、今日より明日、少しずつゆっくりと、舌と心が喜ぶ味噌汁にしていくことです。焦らずに、1日1mm動かせばいい。
まず「だし」 のこと。
だしはそもそも何で作られているのか。
そこを素描してみましょう。
それじゃ「だし」の本質は何だろう。
だしの軸になるものは?
そんなことを観ていくと、答えはおのずと出てくるはずです。
「素材」です。
私は「いりこ」や「あご」が苦手なので、「昆布」「カツオ」「干し椎茸」を普段使っています。味噌汁には味噌に負けない「濃いだし」を使ったほうがおいしい。
最近は無添加の「だしパック」も手に入るようになりましたね。私も普段使っていますし、少し「だしパック」について書いておきます。
正直、うまみ調味料(=アミノ酸等=味の素)の入っただしパックや顆粒には手を出さないほうが無難だと、個人的には思います。
最近では「無添加だしパック」と称して「たん白加水分解物」や「酵母エキス」という、得体の知れない調味料が入っただしパックが多いのも事実です。この2種が入った「無添加だしパック」を私も使ったことがあるのですが、後味がうま味調味料にとても似ていて、舌に違和感を感じたので、使うのをやめてしまいました。実際にこの2つがどうだかは分かりませんけれど、身体が「やめたほうがいい」って言っているんだから、そこは素直に自分を信じます。
いくら無添加と言われても、何かのエキスを人工的に取り出し→化学的に処理し→精製して→副原料や成分を加える「旨み」ってそもそも何?って思うんです。うまみ調味料とさして作り方に違いがない。
考え方は人それぞれですから、自分で納得して何でも使えばいいと思います。私は納得できないので使わないだけ。
いちから昆布と鰹節でだしを引く場合は、長時間煮出すと雑味が出るので、短時間で終えるようにしています。
昆布はいつも「羅臼昆布」を使っています。
昆布を1時間ほど水に浸し、
弱めの中火で80度ぐらいまで上げて火を止め、
10分ほど置いて取り出します。
再び火にかけて、沸騰寸前に火を止めて鰹節を入れ、
1分経ったらすぐ濾します。
昆布を水に入れてから完了まで、1時間半ぐらいでしょうか。
最近のマイブームは土瓶だし。
土瓶に水、羅臼昆布、干し椎茸少々、カツオと昆布のだしパックを入れ、小さい五徳で、弱火で火にかけて静かに2〜3時間、沸騰しないように注意しながらゆっくりと火を入れます。
時間も量も適当。なのに長時間煮出した雑味までまろやかになり、もはや雑味ではなくなっているのが土瓶だしの魅力です。遠赤外線効果のおかげでしょうか...。
冬は土瓶を薪ストーブの上に置いて放ったらかしにしてだしを作ります。一番簡単な方法ですね。土瓶だしは少し複雑な味がするので、味噌汁や煮物などの惣菜に使っています。
土瓶だしをおちょこに注ぎ、
醤油を垂らして飲む幸せ。
やっぱり「素」はおいしいねぇ。
さて、次は「味噌」。
星の数ほどある味噌の中で、どれを選んだら良いか分からないのが正直なところですが、ひとつ言えるのは、
味噌汁を作るときには、1種類の味噌よりも、2〜3種類を混ぜたほうがおいしいということ。
2種類を混ぜた味噌を
「袱紗|《ふくさ》味噌」(赤味噌と白味噌を混ぜる)
3種類を混ぜた味噌を
「合わせ味噌」(3種類の味噌を混ぜる)
と言います。
私は違う地域の3種類を揃えています。
遠く離れた味噌同士が結婚したら、美人やイケメンが生まれるんじゃないかっていう、単なる思い込みですけれど。
今は、
白味噌は九州や和歌山県。
赤味噌は長野県の三年醸造。
中辛味噌は福井県です。
3種の味噌を昆布で囲ってホーロー容器へ。
味噌汁の味を決めるときは、
まず中辛味噌を7,8割の量を入れ、それを軸にして白や赤で決めています。逆に赤味噌や白味噌をベースにすることもあります。
味噌の割合はあってないようなもの。難しく考えず、好きなように使えばいい。思いがけない組み合わせが抜群においしいことがあって、味噌汁も一期一会ですね。
よくレシピに、味噌何グラムとか書かれていますが、いちいち計る人はあまりいないと思うし、だし汁の濃さや味噌の味よって全然変わってくるので、味噌の量は自分で素描するしかないと思います。正解はありませんので。
最後に「具材」の話。
以前、こんな話を聞いたことがあります。
男性は味噌汁を「飲む」派で、具材は少なめ。
女性は味噌汁を「食べる」派だから、たくさん具材を入れて、栄養を汁で取りたい。
ちなみに私は「飲む」派です。
時間がないときはワカメ+青ネギだし、なめこ+油揚げ+豆腐は一番好きな組み合わせ。
時間に余裕があれば、季節の食材を焼き網で焼いたり茹でたりして、調理済の食材を椀に入れて汁を注ぐこともあります。
ミシュランの星を取った、ある美術館内のレストランで出している味噌汁がたまらぬおいしさで、そこのシェフに作り方を尋ねたところ、具材は季節の野菜を数種類入れ、味噌は「合わせ味噌」にしているということでした。
だし汁+玉ねぎを30分煮出した汁を使っているそうです。
今の時期、我が家では薪ストーブで「焼き芋」を作り、味噌汁の具にすることもあります。白味噌メインに赤味噌と中辛味噌少々。おろし生姜をのせたり、細ねぎを結んんだものをのせたり。
夏は焼き茄子を入れることもあります。
椀に青ネギ、スプラウツ、みょうがなどの刻み薬味を入れ、汁を注ぐ「薬味味噌汁」も好き。
昔、母は味噌汁を仕上げるときに「ネギは煮えばなに入れないとダメよ」と口を酸っぱくして言ってました。
味噌汁は沸騰させたらダメ。ネギは沸騰寸前に入れて、間髪入れずに火を止めます。さぁ、できあがり。
味噌汁をまとめると、
最後に、
台所に立つということは「自分が自分で自分する」ということ。
このスタンスは「素描料理」という言葉の中にも含まれています。レシピや、誰かの言ったことを鵜呑みにする必要はなく、むしろ疑問を持って、自ら「小さな改革」をし続けることで、結果「わたしの料理」になるんじゃないかと思います。
これは料理に限らないことだけれど。
料理は立派な「モノづくり」。台所に立つ人はみんな職人です。台所という小宇宙の中で、自由にモノづくりに励んでください。失敗を恐れずにね。
おむすびについてはこちらをお読みください。
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