おいしい理由
昔からある台所道具には不思議な力があります。
土鍋、羽釜、すり鉢、おひつ、鬼おろし、鉄フライパン...。
こんな道具たちが廃れないのは理由があります。それは、
土を練って、土鍋やすり鉢を、
木を削り曲げて、木工製品を、
鉱物を叩いて、鉄フライパンを造りだす…。
人は手と知恵を使い、昔から’自然’という素材で台所道具を造ってきました。そんな道具には不思議な力があります。私は「土の不思議」「木の不思議」「鉱物の不思議」と言っています。
不思議さ。それは、土の遠赤外線の働きであるとか、呼吸している木の働きとか、素材の「性質」が料理をおいしくするわけで、説明はつくのですが、そもそも、どうしてそういう働きが自然に備わっているのか...。
「おひつ」はごはんの余分な水分を吸収することで、ごはんをおいしくさせることは知られています。が、実はもうひとつ大切な仕事があるんです。それは「水分を吐き出すこと」。
おひつに入れたごはんは時間が経つと乾燥してきます。それをおひつが察して、いったん吸収した水分を今度は放出し、ごはんを乾燥から防ぐのです。
不思議ですよねぇ、誰も教えていないのに。
鉄フライパンは台所道具の王様みたいな存在。この道具を使い出したら、ほかのフライパンはもう使えなくなるほど魅力的です。
鉄フライパンで焼くと、どうしてこんなにおいしくなるのか...。
我が家には鉄フライパンのほかに、ダイアモンドコートのフライパンがあります。豆腐を焼くと、ダイヤモンドコートは焼くと水分が出るばかりで、焼き終わるのに時間がかかるのに対し、鉄フライパンは中はふんわり、外はカリッと焼けます。しかも短時間で。
「銅製卵焼き器」で卵焼きを作ると、高さのあるふわふわの卵焼きができます。同じ卵でもまるで違う味! 自分の腕が上がった錯覚に陥るほどです。
これは銅の熱伝導率の高さによるものですが、これも自然界にある「銅」という金属の性質がそうさせています。人為的に造り出されたものではない。
ちなみに銅は鉄よりもさらに古くから使われていたようで、紀元前7000年の銅器がイラクで出土されている鉱物です。
中華セイロは「蒸す」名人。野菜は茹でるよりセイロで蒸した方が甘みが出て、色も褪せにくくなります。また、冷ごはんをセイロで蒸すと、炊きたての状態に戻ります。
以前、我が家にはフランス製の電気蒸し器があったのですが、中華セイロに替えたら、その味が違いにびっくり。味も旨みも数段上がっていました。
木の不思議です。
土も木も鉱物も、私たちより遥か昔から存在している’長老’のような存在です。ですから道具と良い関係になるには道具を敬うことが何より大切かなぁと思います。上から目線はダメ。少し下から「よろしくお願いします」と頭を下げるぐらいが丁度いい。
乱暴に扱うなということです。人との関係と同じですね。道具=人。
人も道具も丁寧な付き合いをすると、その分はちゃんと返ってきますから。
道具(相手)の気持ちを分かるには、道具(相手)を知ることからだと思います。
道具が嫌うことをしない。
道具が喜ぶことを知る。
それが台所に立つ人と道具とのまっとうな付き合い方かなと思います。
「用の美」
この言葉は台所道具のためにあります。
大切な道具がひとつでも身の回りにあると、自分の生き方さえ変わってくることに気がつくでしょう。
そんな暮らしがあることが、おいしいものを高級レストランで食べに行くことよりも、私にとっては遥かに大事なのです。
最後に、拙著「台所にこの道具」(アノニマ・スタジオ)をご紹介します。どうしてこの道具なのか。この道具を愛する理由…。
道具への純粋な想いを綴りました。
各道具のエッセイ、使い方、レシピを掲載しています。