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台所の儀・食卓の儀

土台レシピ16・野菜焼き


「儀」という字は「儀式、礼儀、祝儀、流儀」など、日常ではあまり使わない言葉が多く、あらたまったときによく使われるので、少し硬いイメージがあります。 日本の伝統文化である武道や茶道でかかせない「礼儀作法」が比較的イメージしやすいでしょうか。
 
「儀」を辞書で引くと、
・    美しく形のととのっているもの。
・    基準となるもの。お手本。
・    正しい筋道(物事を行うときに踏む順序)という意味合いの「義」に「人(にんべん)」を付けて、人に関わる筋道のこと。

とあります。背筋を伸ばしたく意味合いが多いですね。
 
普段の生活の中で「儀」を行う機会はあまりありませんが、例えば、仏壇や神棚に手を合わせることも儀のひとつと考えてよいでしょうし、柔道や剣道などの武道に少しでも触れていれば、「礼節」という儀を体感で知っているでしょう。
 
拙著「台所にこの道具」(アノニマ・スタジオ)のあとがきで、こんなことを書きました。

「残心」という言葉をご存知でしょうか。武道や茶道で用いられる言葉で、心途切れず、気を抜かず、相手に礼を尽くす心構えのことを言います。台所仕事はこの残心を要する仕事。「台所道」と言っても過言ではないと思います。

台所にこの道具(アノニマ・スタジオ)から

私は料理や食卓にも「儀」があると思っています。それは「残心」という言葉が示すように
礼を尽くすこと」
ではないかと思うのです。

ではいったい何に礼を尽くすのか。
4つ、考えてみました。

儀1 - 道具 -
台所に入ればまず、様々な道具が目に入ります。ごはんを炊く道具、焼く道具、煮る道具、手で混ぜる道具、食材を切る道具など、道具たちに囲まれているのが台所です。道具がなければ料理することができませんから、道具はいわば、私たちの「目上」の存在です。「目下」の私たちは道具を下から目線で見るぐらいで丁度いいのです。

土もの、鉱物もの、木工製品など、道具にはそれぞれの‘儀’があります。
乱暴な扱いをしない。道具が嫌がることはしない。つまり道具の特性を知って、道具たちが気持ちよく働けるようにするのです。扱いが面倒と言う人がいますが、いえいえ、使い方を心得ていれば、長い間ずっと働いてくれる良き相棒になります。
たとえば鉄フライパンの底を焦がしてしまうのは、儀を知らないから。 毎時、油を入れたら煙が出るまで火を入れれば焦げ付きません。 土鍋は使い始めが肝心で、お粥炊きをしたり、強火にしなければどんどん丈夫になりますし、木工製品は湿気に弱く、水のつけ置きは厳禁ですが、手のあたりがやわらかく、金属を使えなくなるほど心地よい道具です。

このように道具を使うときにはちゃんと儀があります。人間の扱いひとつで、道具の寿命は短くも長くもなるのです。

儀2 - 食材 -
食材の質が悪いからといってぞんざいに扱わず、上等だからと特別扱いもせず、野菜の切れ端でもおいしく活かしてあげることが、礼を尽くす、ということです。
我が家は週に1回しか買い物に行かないので、冷蔵庫がすっからかんになることもあります。 5日目ぐらいからは野菜室がガラガラになりますが、そんなときこそ素描料理でシンプルな食卓にしたり、少ない食材で新しい料理が生まれたり、冷蔵庫もすっきりして、身も心も晴れ晴れするのです。 礼を尽くし終えた瞬間です。

食材は最後まで命があります。それが私たちの胃に入り、消化してからだ中を駆け巡り、私たちを生かしてくれます。 このことを忘れずに料理したいものです。

儀3 - 人 -
毎日料理していると、つい食べる人のことを忘れてしまいがちです。 馴れ合いでつい「料理してやった。面倒だけれど仕方なく作った」という気持ちになることもあるでしょう。 けれど一事が万事。 その「思い」は必ず料理に入りますから、残心を持って台所に立つべきではないでしょうか。
食事を共にする人に礼を尽くすことは結局、自分にも礼を尽くすことで、料理だけではなく、すべてのことにおいて、そうではないかとさえ、今は思っています。

儀4– 食卓 -
食卓に座り、手を合わせ「いただきます」をする。そして食事を共にする人と「おいしいね」と喜び合う。これが食卓の儀であります。
台所に立つ人に儀があるように、食卓では食べる人にも儀があります。食べっぱなしではいけないと思います。「おいしい」の一言が料理する人の支えになりますし、あと片付けを一緒にすることも大事ですね。
台所に立つ人に礼を尽くすこと。それが食べる人の儀であると思います。


野菜焼き

土台レシピ16・野菜焼き

「野菜焼き」という料理をご紹介します。

お好み焼きxチヂミ。
2つの料理をかけ合わせたような料理です。
私は野菜室にある半端な野菜をかき集めて作ることも多く、残飯整理料理として重宝しています。基本、野菜で作りますが、もちろん魚介や肉を使っても構いません。

我が家では季節の野菜を使って一年を通して作ります。
秋から冬にかけてはレンコン、きのこ、人参、玉ねぎ、九条ネギなど、春は菜の花、アスパラガス、新玉ねぎ、春キャベツ、夏はじゃがいもやズッキーニを千切りにして焼いても。ニラはいつでも手に入る野菜です。

「野菜焼き」の作り方
卵 1個
【材料A】
 だし汁 60ml
 牛乳 小1
 塩 小1/4
 砂糖 小1/2
【材料B】
 薄力粉 大5
 コーンスターチ 大1(なければ片栗粉大さじ1)
【材料C(中身)】
 カットした野菜3〜3・1/2カップ(長ねぎ、細ねぎ、玉ねぎなどのネギ類、人参、レンコンなど根菜類、きのこ、ニラ、ピーマン、パプリカ、キャベツ…好きな野菜を細切りまたは薄切りにする)
【材料Cと混ぜるタレ】
 コチュジャン 小1(入れなくてもOK)
 醤油 小1
 生姜のすり下ろし 小1
 にんにくのすり下ろし 少々
 塩 小1/4

1.ボウルに材料Aを入れて混ぜる。
2.材料Bを1.に入れ、ダマがなくなるまで泡立て器で混ぜる。

3.生地を15分ほど寝かしておく。
そのあいだに野菜を切る。切るときは’細長く’をイメージして。お好み焼きのようなみじん切りにはしない。

今回使った野菜
細ねぎ
人参
しめじ
カラーピーマン
れんこん

4.材料C(カットした野菜)を別のボウルに入れ、タレを加えて手で混ぜる。


5.野菜を3に入れて大きめのスプーンでザックリ混ぜる。
スプーンで生地を混ぜるときは、底から上に向かって大きく回すように混ぜる。

スプーンを大きく回しながら10回ほど混ぜる


6.卵を割り入れ、スプーンで黄身を崩し、ザックリと7,8回ほど混ぜる(混ぜ方は5と同じ)。
卵の白身と黄身がきれいに混ざっていなくてもよい。卵をあまり混ぜないことで、仕上がりがふんわりする。

7.フライパン(今回は銅製卵焼きを使用)を熱し、油を多めに入れて生地を入れ、中火で片面焼き、裏返しにしたら火を少し弱めにして焼き上げる。
生地を裏返すときは、
・卵焼き器→皿の上で裏返し、そのままスライドさせながら卵焼き器に戻し、片側を焼く。
・フライパン→平たい皿を野菜焼きにのせて、フライパンごと裏返し、スライドさせてフライパンに入れる。
*タレは酢醤油で。

卵焼き器を使うと便利


底の直径が18cmぐらいのフライパンで1枚、卵焼き器(一般的な長方形サイズ)で2枚作れます。

形はお好みで、鉄フライパンで小さな円形にしてもよし、大きな1枚にしてカットしてもよし。今回のように卵焼き器を使っても!

ふんわりと焼き上げるため、生地に砂糖を入れたり(グルテンを出さない)、卵の混ぜ方などを工夫しています。 食べたときにソフトな食感を目指していますので、’モッチリタイプ’ではありません。

油の量はお好みで。
チヂミはカリッとさせるために「揚げ焼き」しますが、野菜焼きはカリッとした食感にはフォーカスしていません。 私は銅製卵焼き器でその都度、大さじ1の太白ごま油を入れて焼いています。

ごはんに合う一品料理として、酒の肴として、ささっと作れるお惣菜です。


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