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【小説】センター・ビット⑥

カウントアップで500点を取るために、俺は1000円札を100円玉に両替した。
しかし、投げても投げても500点には届かない。
「せめて20のトリプルにでも入ってくれたらなぁ」
心の底では落胆に声が聞こえてくる。
「ヒロヨシ君、とっても良いことを教えるよ」と永福さんが言う。
「何ですか」
「ヒロヨシ君が投げたダーツがね、このトリプルリングの内側にちゃんとダーツが刺さっているんよ」
「はい」
「ダーツっていうのは、上手になればなるほどだんだん真ん中に近づくようになっていくんだよね。つまり……今、ヒロヨシ君は上手になる前触れを目の当たりにしているたいね」
「そうだったんですね。どうりで点数が上がっていかないわけですよ」
「でも、諦めないで。絶対君は上手くなる。そして、強くなる日が来るはずだよ」

永福さんに励まされて、一生懸命にカウントアップを続けた。
気づけば、3000円も使っていた。
「あちゃー。使いすぎちゃった」と独り言をつぶやく。
「ダーツはお金使ってナンボ。向こうのテーブルにいる彼は10000円を全部100円に両替しているよ」
「えぇ」
向こうのテーブルにいる男の人を見る。投げ方が荒々しい。まるで剣を突き刺すように投げている。お世辞にも綺麗に投げているとは言えないが、狙ったところにほとんど入っている。
「あんな投げ方でも上手くなるんだなぁ」
「そうだね。ダーツの投げ方、構え方、グリップ、スタンス。リズム。フォロースルー。千差万別だよ。集中力とリラックスできる策があれば、狙ったところに入りやすくなるさ」

ひたすらカウントアップを行う。もうすでに35回は行っただろうか。
36回目。コインをマシンに入れて、カウントアップを行う。
1ラウンド目。
「パン」5シングル。
「パン」10シングル。
「バキューン」シングルブル。
2ラウンド目。
「パン」4シングル。
「バキューン」シングルブル。
「バキューン」シングルブル。104点のロートン。
3ラウンド目。
「パン」7シングル。
「パン」7シングル。
「パン」18シングル。ノーブル。
4ラウンド目。
「パン」20シングル。
「パン」1シングル。
「パン」2シングル。またしてもノーブル。少し焦ってきた。
5ラウンド目。
「バキュン」ダブルブル。
「バキューン」シングルブル。
「ふぅ……」落ち着いて投げた。
「バキューン」シングルブル。
ダーツは綺麗な放物線を描き、ブルに入った。初めてハットトリックを出した。両手を挙げて喜んだ。
「やるねぇ、上手だねぇ」と永福さんも喜んでいた。
6ラウンド目。
「パン」11シングル。
「パン」5シングル。
「パン」8シングル。ノーブル。さすがに連続でハットトリックは難しいか。
7ラウンド目。
「パン」15シングル。
「パン」14シングル。
「パン」1シングル。苦しい状況だ。
8ラウンド目。最終ラウンドだ。残り86点を超えたら、マイダーツとカードをゲットできる。
「パン」20シングル。点数が高い。
「パン」17シングル。また点数が高い。
ここでブルに入れば、500点オーバー。
落ち着いて投げる。
「……バキューン」シングルブル。
ラウンドオーバー。合計点数は501点だった。
「やった!」まるで俺は子供のように喜んでいた。

「ヒロヨシ君、おめでとう」
永福さんから、マイダーツとカードを貰った。
「このマイダーツに使われているバレルの素材はね、タングステンっていうレアメタルの一種なんだよ。投げやすいよ」
早速マイダーツをセッティングし、投げてみる。
「何だこれ、めちゃくちゃ投げやすいぞ」
俺はマイダーツの投げやすさにとても感動していた。
「永福さん、ちなみにこのカードっていうのは?」
「あぁ、これはね。プレイデータを保存するためのカードだね。カウントアップの点数とか、ゼロワンやクリケットのスタッツとかね。あと、自分のレベルを計るためのレーティングも出せるよ」
「レーティング?」
「そうそう。フライトって言ってね。ランク分けされるんだ。Cフライト、Bフライト、Aフライトっていう感じでね」
「なるほど」
「早速レーティング出してみたらどうかな」
「出してみますね」
「森山君、ちょっと相手してあげて」
先ほど荒々しいダーツを投げていた青年がやってきた。
強面で身長が高く、金髪のロン毛だった。
「よろしくお願いします。お手柔らかに」と森山くんが挨拶をした。
見た目とは裏腹に、発言は物腰柔らかだった。
「よろしくお願いします」
「ヒロヨシさん。賭けましょうよ」
「分かりました」

こうして、2人でお金をかけてゼロワンを始めた。


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