【小説】センター・ビット⑦
森山くんと301をプレイする。賭ける金額は300円。
もちろん、勝った方が総取り。
そして、全く勝てない。森山君は301を早くて3ラウンド、遅くても5ラウンドで必ず上がる。
今日だけでもう7000円を使ってしまった。
普通ならここで「こんな無駄な遊びなんてやめてしまおう」と思うところだが、この散々な負け方が俺の心に火をつけた。
「いつか全員、ボコボコにする」と心に誓った。
「そういや、レーティングは出たかな」と永福さんから話しかけられた。
「……Cですね」
「まぁ。はじめたばかりの頃ははみんなそんな感じだから」
「頑張ります」
とりあえず、店で投げている人はみんなAフライトを目指して投げているようだ。
店を後にした。家に帰る頃には日付が変わってしまうだろう。
だから、急ぎ足で帰った。
俺はこの悔しさから、毎日ダブルブルに通うようになった。
当たり前だけれど、全く勝てない。
しかし、勝ちたいという気持ちを切らすことはなかった。
手元のお金をたくさん使う日々だった。
給料の8割くらいはダーツに使っている気がした。
強い人たちと対戦を繰り返したおかげで、少しずつ上達している気がした。
2003年。6月。初夏を迎えたころ。
ダブルブルに通い続けて半年が経った。気づけばダーツを始めて7か月が経っていた。
いつも通りにダブルブルで投げていると、永福さんからこんな提案をされた。
「ヒロヨシくん、ハウストーナメントに出てみない?」
「ハウストーナメントですか。そういえば毎月なんかイベントやってましたよね。それがハウストーナメントですか」
「そうそう。毎月の第3日曜日にハウストーナメントをやってるんよ。少なからず賞金も出るし、出てみない?」
「もちろん。出ます」
「分かった。エントリーしておくね。フライトは?」
「Bフラです。でもそろそろBBフラになりそうですが」
「いい感じだね」
「ありがとうございます」
「じゃあ第3日曜日。よろしくね」
「はい」
店を後にする前に、少しだけカウントアップをしようと財布を開いた。
「あぁ。もうお金がないな」
毎日のようにお金を使うので、財布の中は火の車だった。
「もっと練習したかったな」
とつぶやいた時、ふとこんなことを思った。
「家の近くに、こんな感じでダーツを投げられるお店が欲しいな。グレープナインは隣町だし、ダブルブルはかなり離れているしな。地元にこんな遊び場があればなぁ」と。
「ハウストーナメントで優勝」
「カウントアップで1000点」
これができたら、俺は会社を辞めて
……自分の店を出す。
初夏のとある平日の夜に、そう誓うのだった。