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【小説】センター・ビット④

気づけば、俺のビリヤードの腕はかなり上達していた。
自分に合ったスタンスを見つけられたのが幸いだった。
21世紀に差し掛かったとき、全国大会の代表として、グレープナインから出場するくらいのレベルになっていた。

2002年の秋。
いつも通りビリヤードを楽しんでいた。
しかし、目の前に不思議な光景が広がっていた。
なぜかダーツマシンに人だかりができていたのだ。
「あれ、ダーツをしている人が多いな」
「ヒロヨシさん、最近はダーツブームなんですよ」とグレープナインの店長が話しかけた。
「へぇ。でもダーツはやりませんね」
「まぁまぁ」

「ヒロヨシさん、ダーツやりましょうよ」
とショウ、ケイイチロウ、トモユキが誘ってくれた。
「でもなぁ」
「俺たちやったことないんで、楽しみなんですよ」
「じゃあ、一回だけなら」
俺は嫌々ダーツを投げようとしていた。
「じゃあ、賭けましょうよ。一人300円」とトモユキが提案した。
「やろうじゃんか」とショウとケイイチロウも乗り気だった。
雰囲気にのまれて、俺も賭けてダーツをすることになった。
勝った人が総取りというルールで、4人で301をする。

「じゃんけんほい」とじゃんけんで順番を決める。
ハウスダーツを握って、ボードに投げていく。
「パーン」
「よし、俺の勝ち―」とショウが言う。
負けじとみんなは賭けダーツを続ける。
5回ほど301をやったが、俺は一勝もできなかった。
手元にあった2000円はすぐになくなってしまった。
「ダーツって意外とお金かかるんだな……。でも、悔しいな。ビリヤードは負けなしだったのに」
あれだけ頑なにダーツをするのを断っていたが、これを機にダーツを極めようと思った。
この負け方が導線に火をつけた。

それから俺はビリヤードをやる時間を減らし、ダーツを投げる時間を増やした。
一人でこそこそとやっていたが、ちっとも上達しなかった。
「ビリヤードとはまた別モノだな」
一人でダーツを投げていると、店長から話しかけられた。
「今度、日曜日の昼間にですね。ダーツのインストラクターが来るんですよ」
「ほぉ」
「永福さんという方なんですが」
「プロの方ですか?」
「いいえ、プロではないんですが。かなり上手な方です。良かったら練習会に参加しませんか?」
「……参加させてください」

ふとしたきっかけで俺はダーツを投げるようになった。
何を隠そう「悔しい」という感情があったからだ。

ダーツにハマるようになるのは、ずっと先の話である。

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