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【小説】センター・ビット⑩

ハウストーナメントに負けた後、俺は試合を後ろから眺めていた。
「どうしたら強くなれるんだろうな」とつぶやいた。
「勝つことじゃないよ。プレーに集中すること」
と永福さんが返す。引き続き話をする。
「勝ち負けはコントロールできないからね。だから、プレーに集中することだね。集中できなかったときは大体負けるから」
「勝ちたい気持ちが優先してしまうとダメなんでしょうか」
「うん。楽しまないと。だからみんな酒ばっかり飲んでるでしょ」
「確かに」
そんなこんなで永福さんと話していると、Bフライトの決勝が始まった。

午後8時。ハウストーナメントはお開きになり、みんな店から出て行った。
俺は残ってダーツの練習をしていた。
森山くんやケイイチロウと対戦したおかげで、BBフライトまでレーティングを上げることができた。
「最後にカウントアップをやって帰りますね」と俺は永福さんに伝えた。
「あいよ」
マシンのコイン投入口に100円玉を入れ、カウントアップをする。
1ラウンド目。
「パーン」
「パーン」
「パーン」ハットトリック。
2ラウンド目。
「パーン」
「バンッ」
「バンッ」ハットトリック。
3ラウンド目。
「カチッ」11シングル。
「パーン」
「パーン」111点でロートン。
「あれ。もしかして」と小声でつぶやいた。
4ラウンド目。
「カチッ」10シングル。
「パーン」
「パーン」110点でロートン。
5ラウンド目。
「カチッ」7シングル。
「パーン」
「バンッ」107点でロートン。
「おかしいな……」とつぶやく。気を取り直して
6ラウンド目。
「バンッ」
「バンッ」
「パーン」ハットトリック。
7ラウンド目。
「パーン」
「パーン」
「パーン」ハットトリック。ここまでで928点。
8ラウンド目。
「カチッ」20シングル。
落ち着け。
落ち着けばきっと。
深呼吸をして構え直す。
「カチッ」6シングル。
ブルに入れば……1000点オーバー。
身体が少しだけ震えている。自分に負けるな。
「ヒロヨシさん。集中」と森山さんが声を掛ける。
「はい」
俺はダブルブルの真ん中のセンター・ビットを見てダーツを投げた。
「……バンッ」
カウントアップの合計は1004点だった。
BBフライトになって、初めてカウントアップで1000点を出すことができた。
大きな自信になった。
「おめでと!これから強くなる人は違うね」と永福さんが言った。
「ありがとうございます。ようやく1000点出せました」
周りのお客さんも拍手をしていた。

帰り際。俺は永福さんに来月のハウストーナメントに出る旨を伝える。
「永福さん」
「ん」
「来月のハウストーナメント……出させてください」
「いいよ。大歓迎」

俺はこのカウントアップの点数を見て「いける」と心の底から信じた。
「俺ならできる」と。ハウストーナメントでも優勝できると。

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