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【小説】センター・ビット⑤

日曜日。グレープナインにてダーツのレッスンを受ける。
今日のレッスンには俺を含めて9人が来ていた。
「みなさん、初めまして。永福と申します。普段は天神の親不孝通りにある
『ダブルブル』というダーツバーのオーナーをしています。どうぞよろしくお願いします」
永福さんは軽く自己紹介をした。
「普段はダーツバーをやっている方なのか。そりゃあ上手なんだろうな」
とつぶやきながら、レッスンに参加した。
永福さんは、一人一人の投げ方を見て「こうするともっとよくなる」「ここをこうするとダーツの飛びが良くなる」などと指導をしていた。

順番が回ってきた。俺がレクチャーを受ける番だ。
「ヒロヨシです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
永福さんは俺がダーツを投げているのをじっくりと見ていた。
「君……センスあるね」
「え?」
「狙ったところに入ってはいないんだけれど、フォームがとてもきれい。スタンスもぐらつかない。そして、何よりもダーツの指離れが良い。君……いい感性持ってるよ。うちの店に遊びに来ないか?」
「本当ですか?まさか褒められるなんて思っていなかったです」
「君はね、もっと上手な人が集まる店で練習をしたら、確実に上手くなるよ。今の君に必要なことは、環境を変えること。それだけ。ダブルブルで待ってるから」
と熱いコメントを貰った。

その「センスがある」という言葉を聞いた次の日。仕事終わりに『ダブルブル』へ足を運んだ。
「いらっしゃいま……あぁ!昨日の!」
「こんばんは」
「来てくれてありがとう!」
永福さんはとてもニコニコしていた。
「とりあえず、コーラ下さい」とカウンターの一番右端に座った。
「あいよ。あぁ。ヨシヒロくん。君はノンアルプレイヤーなのかな」
「お酒は、全くダメです。下戸ですね」
「じゃあ、その分ダーツにお金を使えるじゃない」

店の中はとても広かった。
カウンターに席が8つ。テーブル席が5つ。
ダーツマシンが6台。お洒落な雰囲気を醸し出していた。
そして何よりもダーツを投げているお客さんで賑わっていた。
ダーツを投げる音がはっきり聞こえる。
「パーン」
「パーン」
「パーン」
「っしゃ!ハットトリック!」
投げているお客さんも上手な人ばかりだった。ブルに入ったときの音も良く聞こえる。
永福さんが言っていた「環境を変えろ」ということがすぐに理解できた。

「ヒロヨシくん」と永福さんが話しかける。
「はい」
「カウントアップでさ、500点を超えたらマイダーツとカードをプレゼントしているんだ。やってみるかい?」
「もちろんやります!」

こうして、俺はマイダーツとカードを手に入れるためにひたすらダーツを投げるのだった。


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