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【小説】センター・ビット⑧
6月の第3日曜日。午後2時。今日はダブルブルのハウストーナメントの日だ。
ハウストーナメントに参加する機会は今まであったはずなのに、どうして参加しなかったのだろうか。
店内には20人程度いて、みんなウォーミングアップを行っている。
今日は試しに……とシングルスに出てみることにした。
カウンターからコーラを注文した。
待っている間、永福さんに尋ねてみた。
「どうして、今までハウストーナメントに誘ってくれなかったんですか」
「たくさんお金を使っていたのに、勝てなかったから。誘いにくかったんだ」
「でも、誘ってくれても良かったじゃないですか」
「本当にごめん。これ以上、ヒロヨシくんからお金を取るのは申し訳ないと思っていたからね」
「そう思っていたんですか……」
「うん。今日はね、ヒロヨシくんが最近勝てるようになってきたから誘ってみた。今までここでお金を使った分、少しずつ取り戻して欲しいなと」
これは永福さんなりの優しさなのかと思った。
でも、普通ならお店に通い始めた時点ですぐにイベントごとに誘うはずだ。
えこひいきをしてるんじゃないかと思った。
そんなこんなでウォーミングアップを始めた。
とりあえず力を抜いて投げることを意識してみた。
「パーン」
「パーン」
「パーン」
初っ端からハットトリックを出す。調子が良さそうだ。
15分ほど投げた後、試合がスタートした。
今日、このハウストーナメントに参加している人は大体の人がBフライト。
ちょっと上手なBBフライトからAフライトの人は少なかった。
まずはBフライトのシングルスからスタートした。
1セット目は501。2セット目も501。3セット目はチョイス(コークの末、先攻かゲームを選ぶ)
1回戦。
「よろしくお願いします」と相手プレイヤーに挨拶をし、ゲームを始めた。
1レグ目。501。コークで先攻を取ることができた。1ラウンド目。俺が投げた。
「パーン」シングルブル。
「カチッ」5シングル。
「カチッ」10シングル。ワンブルで幸先の良いスタートだ。
続いて相手が投げた。
「カチッ」7シングル。
「カチッ」11シングル。
「カチッ」3シングル。
相手のダーツの飛びは、弓矢のようにまっすぐだった。しかし狙ったところには入っていないようだ。
2ラウンド目。俺が投げた。
「パーン」シングルブル。
「カチッ」4シングル。
「カチッ」11シングル。まずまずだ。
続いて相手が投げた。
「パーン」シングルブル。
「パーン」シングルブル。
「カチッ」6シングル。追いつかれた。次のラウンドでロートンを出して、相手にプレッシャーを与えたいところだ。
3ラウンド目。俺が投げた。
「カチッ」1シングル。
「カチッ」7シングル。
「カチッ」20シングル。ノーブルだった。逆に自分にプレッシャーをかけてしまった。
果たして、初勝利を手にすることができるのだろうか。