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地震、雷、火事、重役
前回の記事に引き続き、インドネシア駐在時のゴルフ場での失敗体験をお届けします。
前回の記事はこちらから
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「サラリーマン人生最大の失敗」
https://note.com/stssiye/n/n2c3bead4dfb5
その日は、得意先のゴルフコンペでした。ゴルフ初心者の私にとって、コンペはとても緊張する場です。プレー中に不手際があってはいけないと、私は細心の注意を払ってコンペに望みました。
ロッカールームで着替えを終え、私は携帯電話に目をやりました。普段であれば、携帯電話を腰にたずさえてプレーをします。でもこの日は、あえて携帯電話をロッカーにしまい込みプレーをすることにしました。
それには理由がありました。この日の同伴競技者の中に得意先の社長さんが入っていたからです。
いつもお世話になっているこの社長は、大変厳格な性格です。プレー中になにか粗相でもしでかしたら、今後の取引にも影響しかねません。ですから、私は、余計な電話に振り回されないよう、とにかくプレーに集中することにしたのです。
しかし、この選択が後でとんでもない恐怖を招くことになるとは、思いもよりませんでした。
初心者の私は、とにかく周りに迷惑をかけてはいけないと思い、プレーを続けました。
・素振りは1回にとどめて、すぐにボールを打つ。
・同伴競技者のボールが無くなったら、一緒に探す。
・グリーン上では、素早くパットを打つ。
などなど、基本的なマナーを守りプレーしました。おかげで、スコアはさておいて、迷惑をかけることもなく、社長さんとも和気あいあいとプレーを終えることができました。
(よかったー!)
しかし、事件はロッカールームにもどってから起きました。
ロッカーの中の携帯電話を見た私は、愕然としました。なんと、日本から不在着信が30回近くも入っているのです。そして、電話の主は、本社の重役でした。前回の記事で紹介した重役と同一人物。そう、「顔に泥を塗ってしまった」重役、私が最も恐れている重役です。
30回もの不在着信って、ただ事ではありません。私の体は恐怖に包まれました。
(なぜ、30回も電話をしてきたのか?)
いろいろと考えを巡らせましたが、思い当たる節はありません。
(本社へ提出した会計書類に間違いがあったのか?)
(いや、もしそうだとしても、今日は土曜日。休みの日に電話をしてくるはずがない)
ホラー映画の主人公のように、自分の身に迫りくる得体のしれない恐怖を感じながら、私は折返しの電話をしました。
「もしもし」
重役の低い声が携帯電話に響きます。
私:「あっ、望月です。お、お電話をいただき、申し訳ございません」
重役:「・・・・・」
私:「あ、あのー」
重役「・・・・おまえ今どこにいる! 何回電話をかけたと思ってるんだ!」
私:「も、申し訳ございません。お客様のゴルフコンペに参加しておりまして・・・」
重役:「バカヤロー! 駐在員ならいつも携帯電話をもってろー! このボケがー! 今日、そっちで地震があったろー! 揺れたか! 避難しなくていいのか!」
私:「へっ? 地震???? こっちでですか? 外にいたもので、情報がまだ・・・」
重役:「バカヤロー! ラジオで確認しておけー! このタコがー! 状況をきちんと知らせろー!」
重役の説教は止まりません。ここでは文字にすることができないバイオレンスに満ちた言葉の数々を、まるでラッパーのように私に浴びせ、電話がプツリと切れました。
私は12ラウンドを戦いきったボクサーのように身も心もボロボロになりながら、インターネットで地震状況を調べました。すると、今朝、ジョグジャカルタで震度5強から6弱の地震があったことがわかりました。
ジョグジャカルタは、世界最大級の仏教遺跡(ボルブドゥール遺跡)がある場所として有名です。そして、私の住むジャカルタからは560kmほど離れている場所です。これは、東京から岡山ほどの距離です。
とはいえ、日本にいる重役からすれば、ジョグジャカルタとジャカルタは名前も似ているので、とても近い場所と思ったのでしょう。つまりは、単なる安否確認の電話だったのです。
(世界遺産ボルブドゥール遺跡)
安否確認の電話で、こんなにボロクソに言われるなんて・・・
私にとっては、地震よりも重役の方がはるかに恐ろしい存在でした。
私は、一緒にプレーした同年代のお客さんに、一部始終を話しました。こんなにも怒られ貶された私に同情をしてほしかったのです。
するとそのお客さんは、意外なことをおっしゃいました。
「望月さん、いい会社ですね。うちの会社なんか、日本から何の連絡もこないですよ」
(えっ!・・・そうか・・・)
私は、あの狂気のような重役の言葉の中に、わずかばかりの愛を感じ取ることができました。
失敗は発見への入り口である。
ジェイムズ・ジョイス