サラリーマン人生最大の失敗
今から15年ほど前、インドネシア現地法人(ジャカルタ)へ赴任したときの話です。
海外駐在するビジネスマンとして、最初にやらなければならないことは、何でしょうか?
私にとって、それはゴルフの練習でした。なぜなら、ジャカルタに駐在するビジネスマンが人間関係を構築するには、休日のゴルフが最も確実な方法だからです。
しかし、私はもともとゴルフが大嫌いで、日本では一度もやったことがありません。そのため、お客様主催のゴルフコンペに参加するためには、打ちっぱなしの練習が必須でした。
練習を始めて2ヶ月くらい経った頃、日本の本社から重役が出張でジャカルタへ来ることになりました。その重役はゴルフが大好きで、私のコースデビューに付き合ってくれることになったのです。
しかしながら、まだドライバーの練習をしていなかった私は、7番アイアンよりも長いクラブを使うことができません。この7番アイアンが、あとで身の毛もよだつ惨劇を引き起こすことになろうとは・・・
スタート前、1番ホールのティーグランド付近で素振りをしていたときです。私の振った7番アイアンのヘッドが、グランドの土を深くえぐり取ったのです。
(解説:クラブで土をえぐることを、ゴルフの専門用語で「ダフる」という。また素振りをするとき、前に人がいないことを確認することはゴルファーの常識)
運の悪いことに、私がえぐり取った土は重役の顔面めがけて、一直線に飛んでいきました。またたく間に、重役の顔面は砂のシャワーを浴びる羽目になったのです。
さらに運の悪いことに、前日は大雨が降ったらしく、その砂は水分をたっぷり含んでいたのです。(つまり泥)
鼻の穴や口の中に吸い込んだ泥を「ペッペッ」と吐き出す重役。
慌てふためきオロオロする私。
純白のポロシャツが茶色の水玉模様に変わったことに気づいた重役。
頭が真白になってオロオロする私。
顔がユデダコのように真っ赤に変色していく重役。
血の気が引いて顔が真っ青に変色していく私。
「顔に泥を塗る」という比喩がございますが、実際にその言葉通りに、上司の顔に泥を塗るという行為はなかなかできるものではありません。もしもこれが戦国時代であったなら、私は迷うことなく切腹をしていたことでしょう。
(泥まみれのマーティーン・シーン。『地獄の黙示録』より。ある意味、この映画に匹敵するほどの恐怖でした)
プレー開始前からサラリーマン人生最大の失敗を犯してしまった私。
当然のことながら、初ラウンドのスコアはボロボロでした。
この事件から1年の月日が経ち、私はスコア100を切ることができるようになりました。そしてまたあの重役とゴルフをすることになったのです。
ドライバーを握り、1番ホールでティーショットを打つ私。我ながら会心の当たり。
「おっ! おまえ上手くなったなあ!」
重役が驚きの声を上げました。
その時私は、ゴルフを諦めずに続けて本当によかったと思いました。
「失敗とは転ぶことではなく、そのまま起き上がらないことなのです」
メアリー・ピックフォード(女優・プロデューサー)