久しぶりに仕事に行った話

 今日は久しぶりに仕事に行った。
 数か月ぶりに行く、見慣れていたけど微妙に変わった職場。自分の業務用パソコンにログインする指が、頭では忘れたパスワードを覚えていてくれた。


 数か月前に、自分は育児休業、いわゆる育休というものを取得した。今年は仕事が忙しい年度ではあったが、それでも初めてできた我が子と、出産で体力を失った妻と過ごす時間を確保したい思いがあった。職場の皆様にはご迷惑をお掛けしつつも、育休が認められつつある情勢を最大限に活用させてもらった。

 育休は取って正解だった。

 もちろん、仕事に行かないわけだから給料は出ないし、子どもは24時間見なければならないのだから楽なことばかりではない。
 それを差し引いても、我が子の成長を密着して見届けることができ、出産後の不安定な精神状態に陥りやすい母親のサポートを行えたことは、きっと自分にとっての大きなメリットになると確信できた。
 自分も育児に参加できた体験は、今後の生活にも大きく役立つだろう。我が子や妻を愛おしく思うことで、今後の仕事に対する熱意も増すと思えた。

 ずっと夫が家にいることで仲が悪くなる家庭というのもこの世にはあるようだが、幸いなことにうちはそのようなことがなかった。自分で言うのもおかしいが、妻からは家事をよくしていると評価されており、職場復帰されることを悲しまれた。
 とは言いつつも夫婦喧嘩をすることもあった。結構激しい喧嘩をしたこともあったが、仲直りでき、二人の絆はより深まったように思えた(あくまで夫目線の話。もちろん妻もそう思ってくれていると信じてはいる)。


 で、職場復帰だ。
 自分の机の上は埃っぽく、湿気のせいかビニールシートはベタベタとしていた。ウェットシートを何枚か使いながら、埃を拭き取るがベタベタした感じは拭えなかった。多分、湿気のせいなのだろう。
 自分の仕事はどのくらいあるのか不安ではあったが、復帰早々にやるべきことは係の打合せに参加することだった。
 打合せの内容は割愛するが、自分はほとんど同僚たちの意見、考えを聞くことが多かった。というよりそれしかできなかった。自分が口を開く場面が全く無いわけではなかったが、疑問を口にしたり、同意を求められてそれに応えることくらいしかできなかった。ほとんどお客さん状態だったわけだ。
 家に長くいたせいか、職場の空調の悪さを実感できた。打合せの最初のうちは風通しが良かったものの、午後は一転して、汗が、止まらなかった。

 打合せの合間の休憩時間中に、職場の人たちに「今日から復帰しました。またよろしくお願いします」と挨拶に回ったりもした。全員にできたわけではなかったが、他の係との関係はそこまで濃くないのでいいかなと勝手に自己完結している(できる社会人とはいえない思想ではある)。

 職場でそういう諸々のことがあり、簡潔にまとめるととても疲れた。
 帰り道は、以前クリーニングに出していたものを受け取りに寄り、スーパーで夕食の食材に足りないものを買って帰った。
 夕食のリクエストを事前に聞かれていたので、自分は「爆弾丼が食べたい」答えた。

爆弾丼とは、白米の上にオクラ、納豆、めかぶ、長芋、マグロを載せた丼ご飯のことである。大戸屋のメニューに由来して、我が家庭内では呼んでいる。

 家に帰ると、あとはマグロを載せるだけという状態で夕食の準備が整っていた。妻一人で我が子の面倒を見て、初めての離乳食に挑戦していたというのに実に大したものだ。

 野菜サラダや長芋と大根の炒め物、自分が好きな海鮮の刺身まで用意しており盛りだくさんだ。
「疲れて帰ってくると思ったからたくさん用意しちゃった」と笑いながら妻が言う。

 ありがとう。

 ふとテーブルに目を向けると封筒があった。

メルカードと謎の封筒

 中にはママとなった妻からのメッセージが入っていた。そこには自分への感謝が綴られていた。
 違うよ、感謝を伝えたいのは自分だよ。
 仕事で今日は何の役にも立てなかったと打ちひしがれていた自分を、全力で肯定してくれる貴女が、本当に本当に素晴らしい存在だよ。

 我が子の笑顔も素敵だけど、やっぱり僕は貴女の笑顔には敵うものはないと思っているよ。

 そんなとある日の出来事。

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