理解が早い人の頭の使い方

会員数100万人超の「スタディサプリ」で絶大な人気を誇るNo1現代文・小論文講師が、早く正確に文章を読み、シンプルでわかりやすい説明ができる頭の使い方を『対比思考──最もシンプルで万能な頭の使い方』にまとめた。学生から大人まで「読む・書く・話す」が一気にロジカルになる画期的な方法で、仕事や勉強に使える実践的なものだ。本稿では、特別に本書から一部を抜粋・編集して紹介する。

 相手の言語表現を受け取る技術は、ことばのキャッチングの技術です。キャッチボールでも受ける技術が高いとやり取りは楽しくスムーズです。

 プロレベルでもキャッチャーが信頼できる技術をもっていれば、ピッチャーは最大のパフォーマンスを発揮できます。ゴールデングラブ賞を獲得するような優れた野手はバッターが打った瞬間にしかるべき方向に体が動いています(catchには語源的に「追う・追いかける」という意味があります)。それにより多くの人が取り逃がすようなものを捕球できます。

 これを言葉の理解に置き換えてみましょう。やはり巧拙、上手・下手の差が生じます。

 最もまずい聞き取り方・読み方は、話されたもの・書かれたものが、すべてその話者・筆者の意見ととらえる誤解です。対比でとらえていないということです。

 テレビの報道番組やワイドショーへのクレーム電話のかなりの部分がこのレベルの誤解だそうです。アナウンサーやコメンテーターが引き合いに出したもの、つまり対比相手を本人の意見と受け取ってしまうケースです。

 「だって、そう言ったじゃないか」というわけです。

 言ってもそのすべてが話者の意見ではない。説明や解説は、説得的なものほど対比でなされると知っていないと恥ずかしいほどの誤解をします。

 もちろん、自説と前フリが曖昧な話者もいます。私たちはこれを反面教師としましょう。

 誤読というものもあります。福澤諭吉(1835~1901)の『学問のすすめ』(岩波書店)も有名なわりには誤解の方が多いくらいの本です。

発刊から1世紀以上が経過していますが、過去に読んだ人々のかなりが「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」を福澤諭吉の見解と理解しているようです。

 例によって、「だって書いてあるじゃないか」というわけです。しかし、これは対比相手です。

 これを福澤諭吉の意見ととって、「学問しようとしまいと平等だぜ、イエイ!」では、「学問のすすめ」が理解できません。

 福澤諭吉自身、自説の説得化のためにあえて、冒頭に世間一般の考え方をふっているのです。

 「『天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず』と言えり」の「言えり」は世間じゃ言われているねということです。「されども」で乗り越えるための前フリです。

 その後、賢い人もいれば、愚かな人もいるし、裕福な人もいれば、貧乏な人もいる現実が語られます。さらに、その雲泥の差が何によってもたらされるのかという核心部分にいたります。その理由は、学んだか学ばなかったかの違いだということを『実語教』にふれつつ語られます。

 『実語教』は、庶民向けの道徳や教訓の書として用いられたものです。一説によれば起源は平安時代末期で、江戸時代の寺子屋で広く使われたようです。

 加えて、学問をして難しい仕事のできる人が身分の重い人で、学問しなくても簡単にできてしまう仕事をする人を身分の軽い人と対比させています。「身分」を血統や世襲的身分制度としていない点が近代的です。

 こうした、単純ですが深刻な誤解に陥らないために対比をおさえることがまず重要です。さらには、ことの本質的理解においても、話者・筆者が何と戦っているのか対比をふまえることが実はきわめて重要です。

会議での発言やゼミでの発言レベルでは、対比的には語られないことが一般的でしょう。だからこそ、そこで対比で聞く技術が活かされます。

 明示されなかったけれど、その発言は何との対比になっているのか、そういう構えで聞くことで発見や発展を導くことが聞く技術です。

 隠れた対比をくみとることもこれと似ています。ただし、発言で語られなかったものをキャッチできるのは、そのような対比が存在しないのではなく、話者が無意識に前提としていたり、暗黙の了解だったりするからです。

 そうした類推ができたら、「今の発言は〇〇をふまえた(対比させた)ものではありませんか」という問いを発し、応答を重ね、対話を進行させることもできます。

 さらには「その対比をふまえれば、こういうことも言えるのでは」という追加もできます。第3章で見たとおり、対極的対比もあれば、似て非なる対比もあり、中間を行くこともできましたよね。

 形式的な会議でないなら、隠れた前提を明示し、ことばを重ねていくことには意義があるはずです。

優れた論文は、もともと精緻な対比で構築されていますから、ことばが難しくても、抽象度が高くても、主役メッセージと敵役メッセージとの区別、対比によって読解することができます。

 また、実のある講演や講義も、書いた原稿を基にしていることが多いため、対比を追うことができます。対比の軸線を意識することで講演や講義の理解が正確になります。

(本原稿は、『対比思考──最もシンプルで万能な頭の使い方』からの抜粋・編集したものです)

by強め女子会

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