―突きに天国へ
ウィーンの1区にWipplingerstraßeとSalvatorgasseの間、長さ約50mくらいのStoß im Himmel(―突きに天国へ)という短い横町があります。昔々、この辺にそういう名前の建物があったそうです。そこに金持ちのやもめが住んでいました。まだ年取っていない魅力のある美女ですが、彼女の唯一の喜びは綺麗な洋服で外出して、見られたり賛美されたりすることでした。感嘆している男たちの目つきに気がつくと口では言えない快楽を感じました。そのために亡くなった旦那が遺したお金を使い尽くして洋服ばかりを買っていました。聖マリアの石像のそばを通り過ぎる度に、「まあ、あんたは貧乏女だよね」と横柄に考えるようになっていました。
ある夜遅く、ドアを叩く者が現れました。それはぼろぼろの服を着ていた老婆でした。横柄なやもめは「何の御用ですか」と聞いて、その老婆を追い出すつもりでしたが、老婆は「立派な洋服をもってきました」と答えました。それを聞くと我慢できなくなり、ぜひ見たくなったやもめがドアを開けました。
外で立っていた老婆は乞食のような格好で、やもめは騙された感じがしますが、老婆がせよっていた籠の中からきらきら輝くものが覗いていました。それ故、彼女は老婆を入らせ、見せてもらった洋服が絶対に欲しくなりました。それは今まで見たことがない、女王用にビーロドとシルクで仕立て、金、銀や宝石の飾りが付いていたドレスでした。
残念ながらそれを買うためにはお金が足りなかったのです。ほとんど毎日新しい洋服を着ていたやもめはお金を使いすぎ、すでに貧乏人になっていました。しかし、老婆の話によるとそれが実はお金で買えない服で、特別な条件があったそうです。それは三日間で着たい放題ですが、その後この服に覆われているものは悪魔のものになるという条件でした。
やもめにとってはそれは非常に簡単で、脱いでぼろぼろの椅子の上にかけば大丈夫だと思って、賛成しました。着せるとこの服が彼女のために仕立てられたようにぴったりと体にあっており、そして次の三日間にどこでも姿を現してほめられて何とも幸せなことでした。しかし、三日間後すこし心配になり、脱げばこの幸福感を失うことだけではなく、もしかしたらあの条件には特別な意味があったかもしれないという恐れでした。
やっぱり三日間後の真夜中が近づいてくると、この立派な洋服は体に付いているようで脱ぐことができなく、いくら頑張っても引き裂くことさえも不可能でした。侍女等もいなく、彼女は助けてもらえなかったのです。無駄な努力で疲れて一瞬諦めた時、突然ドアがパッと開き、老婆は「よくお似合いですね」と言いながら入ってきました。「それで褒賞をもらいに来たんですが、服を覆うのはあなたの身体で、幸運にあなたが私のものになりますよね」というと老婆は悪魔に化け、彼女の体がいきなりあの洋服の代わりに松脂に塗られていたようでした。服の飾りは赤熱した蛇のように体の上でとぐろを巻き、鬼の愛撫をしていました。
彼女の体はもう火が付いたようで、もう立つこともできませんでした。無意識に、今まで感じたことのない感覚で倒れてしまいました。しかし、最後の瞬間で自分のネックレスに付いていた十字を触ると身体が中心に強い突きを受けて、すでに爪が長い指を伸ばしていた悪魔は空を掴んで諦めざるを得なかったのです。
その後、長い間意識不明で横たわっていましたが、翌日、意識が戻ってくると彼女は自分が素裸で床にいるのがわかり体は松脂塗れのようでした。その日からこの世のことは全てが空虚な幻影だと反省して深く後悔し、修道院に入って貞淑な尼になりました。それで一突きに天国へということであったと言われています。