「楽しい仕事」の見つけ方 〜やりがいだけでは満たされぬ〜
一定の裁量権もある。
社内の人間関係も良好。
得意なスキルを活かし、評価もされている。
なのに、何だか昔のように楽しく仕事に取り組めない。
時代が変わったからなのか。(ホワイト企業化の弊害?)
歳をとったからなのか。(ライフステージの変化?)
携わっている仕事が変わったからなのか。(目標の喪失?)
「楽しい仕事」をするためには何が必要なのか。
このページは何か
楽しい仕事をするためにはどうしたら良いか。
私自身をケーススタディに考察し、モチベーション理論を参照しながら、問題点の仮説を導出します。
もし、あなたが同じような悩みを抱えられていたら、その考え方を参考にしていただけるかもしれません。
また、誰か動機付けするためのコーチングやメンタリングを、なんとなく精神論や感覚でされていた方には、モチベーション理論としてざっくり俯瞰する用途にもお使いいただけるかもしれません。
ただ長いです。
ブクマなりして、章ごとに何回かに分けて読まれることをオススメします。
3人のレンガ職人(石工職人)の話
目の前の仕事が楽しくない。
そんなことを言っていると、お説教を受けるかもしれません。
「お前の仕事はレンガを積むこと(目の前の仕事をするだけ)なのか?」
有名なのでご存じの方も多いかと思いますが、簡単に触れておきます。
仕事に取り組むときには、3人目のようなマインドを持ちましょう。
意識ひとつで、モチベーションも高まり、成果も大きく変わります。
という教訓話です。
マインドを変えてモチベーションを高めれば、仕事が楽しくなる。
……本当でしょうか?
# この話はイソップ童話として紹介されることもあります。
# 私はドラッカーのマネジメントに書かれた内容が改変されて広まったと考えています。
# ドラッカーは、自己管理による目標管理において
# 組織が人を間違った方向に持っていく要因として4つの項目を挙げています。
#
# その中の1つ「技能の分化」において石切り工の話をだしつつ
# マネジャー人材の適格について言及した上で
# 組織には高度な技能が必要だが、組織の目的が技能自体になってはいけない
# と指摘しています。
仕事は楽しくなくて当然?
あるいは、仕事は楽しくなくて当然、という価値観があります。
何当たり前のことで悩んでいるのか、と。
そういうのは仕事の外で気晴らしするもんだ、と。
その価値観を正しいと受け止められている方がいることは知っています。
そして、無理にその価値観を変えるべきとも思っていません。
ただ、残念ながら私はその価値観に共感できない、というだけなのです。
理由は単純で、私は「楽しい仕事」で事業を成長させた経験を、過去にしてきたからです。
キャリア・アンカー
もう少し、理論的な話で諭されるかもしれません。
あなたの価値観と今の仕事内容は一致していますか?と。
キャリア・アンカーは、組織心理学者のエドガー・H.シャイン教授が提唱された概念で、個人がキャリアを選択するときに、自分にとって最も大切で犠牲にすることができない価値観を意味し、8種類の属性が示されています。
診断ツールを用いると、自分のキャリア・アンカーが8つのカテゴリーのどこに属するかを知ることができます。
ちなみに私は「奉仕・社会献身」でした。
語義の問題なのか、カテゴリー名だけを見るとピンと来ませんでしたが、商品・サービス開発という点を見ると当たっているような気もします。
なんとなく、占いや心理テストのような感じもしてしまいますが……
今の仕事はこの結果と特に相反していないので、「楽しい仕事」に直接的に関係するものではないと考えられます。
なお、この類の観念は、どれか一つに価値観を根ざすと言うより、複合的なものであって、突出するものがある方が珍しいものです。
ステレオタイプ的に結果を鵜呑みにするのではなく、同じ動機付けであっても、自分と同じように人がモチベートされるわけではない(人によってモチベートされる属性と度合いは異なる)と解釈した方が良いと思います。
本当は楽しく働きたい
私は、今の仕事が楽しくありません。
ただ、働く事そのものは嫌いではなく、過去にはむしろワーカホリックだったことすらあります。
転職経験は10年以上前に1度。
その時は、顧客本位ではなく自社都合の業務を遂行させられるという価値観相反の悩みが明確化しており、今の会社ではそれが解消されると確信して転職、問題は解消されました。
さらに「楽しい仕事」と呼べるものを幾度となく体験してきました。
しかし、当然ながら10年で事業環境も業務内容も変化します。
結果、今の仕事が楽しくないのですが、とはいえ、今の会社や業務において、「仕事が楽しくない」以上の具体的な問題点が言語化できず、転職や異動願いが出せません。
なぜなら、待遇・評価・人間関係はホワイト企業の上澄みと呼べるほど十二分で不満はなく、事業内容は興味分野にドンピシャではないものの包含されており、緩やかながらも事業成長していて、マネジャーとして組織への発言権・決裁権もあって自分の能力を一定発揮する場も成長機会もあり、自発的なモチベーションもないわけではなく、やりがいもあるにはあるという中途半端な状態なのです。
つまり、辞める理由があるとしたら、「仕事が楽しくない」以外に見当たらず、贅沢な悩みと非難されても仕方がない状況です。
そして、仮に辞める理由が「仕事が楽しくない」だけで十分だとしても、なぜ「仕事が楽しくない」のかが明確化しないと、最適な環境が見つけられません。
今の環境で好き勝手にやりたい放題やってみろという考え方もありましょう。しかし、転職にしろ何にしろ、場当たり的に動いて、結局そこでも「仕事が楽しくない」という問題に遭遇した時、何度もチャレンジを繰り返せるほど、肉体的・精神的なゆとりもないのです。
もちろん、それしか手がなかったり、それが最善手である可能性も考えられますが、それならそうという確信は得ておきたい。
そんなことをぼんやり考えながら、勢い副業で会社を設立するという逃避手段にでたりもしました。
本noteは、その思索の過程で生まれたものでもあります。
「やりがいのある仕事」は楽しいのか?
私たちは、仕事に「恵まれている」と言ったときに、無意識に2つの側面から物事を捉えています。
一つは、他と比較して条件が良い、などの客観的な側面です。
もう一つは、仮に他者に共感されなくても幸せを実感できている、などの主観的な側面です。
私たちは、主観に根ざして物事を見ているわけなので、「楽しい仕事」を実感するためには主観を通じて物事を捉える必要があります。
動機づけ・衛生理論
アメリカの心理学者、ハーズバーグは、職務満足および職務不満足を引き起こす要因に関する理論を提唱し、「衛生要因」と「動機付け要因」という2つの要因があると指摘しました。
「衛生要因」は不満足要因で、「会社の方針」「職場環境」「作業条件」「給与待遇」「人間関係」などが挙げられており、これらの要因を高めても不満は減りますが、積極的な動機付けにはならないものです。
一方、「動機付け要因」は満足要因で、「達成感」「承認」「やりがい」「責任」「昇進」「成長」などで、これを向上させると積極的な動機付けにつながるとするものです。
では、この満足要因を向上させる事ができれば、「楽しい仕事」は得られるでしょうか。
職務充実・職務拡大
マズローの欲求段階説というものがあります。
詳細は割愛しますが、要は衣食住に代表されるような低次の欲求が満たされると、高次の欲求を満たしたい動機付けが生まれるというものです。
マズローの高次の欲求には「自己実現の欲求」や「自己超越欲求」なんてものもありますが、ハーズバーグは、高次の欲求を追求するものには、動機付け要因を改善する必要があるとしました。
そして、その具体的な方法として職務充実(ジョブ・エンリッチメント)を挙げています。これは職務の垂直的な拡大と呼ばれていますが、仕事の責任と権限を拡大し、仕事を質的に充実させることを指します。
上位マネージャーへの昇格などがイメージされます。
似たような用語に、職務拡大(ジョブ・エンラージメント)があります。アージリス教授は、未成熟・成熟理論を提唱し、人間は未成熟の段階から成熟していくため、組織は人間の成長を妨げないようにする必要があると説き、その方法として職務拡大を挙げました。
これは仕事の範囲を水平的に拡大するもので、兼務のイメージが近いでしょうか。
やりがい
職務充実も職務拡大も、その主張は人間的な成長におかれています。
しかし、そこに仕事そのものの楽しさという観点はありません。
これはつまり、仕事を行うモチベーションを高めるためには、仕事そのものが「楽しい」必要はないことを意味します。
つまり、「やりがい」に代表される何らかの要因が、楽しさやモチベーションを引き起こすということです。
仮に今の私が職務充実や職務拡大することになったら、大変さは増し、「やりがい」は生まれるかもしれません。
「成長」は実感するかもしれません。
そして、「やりがい」や「成長」を感じた瞬間は、楽しかった・良かったと思うかもしれません。
が、主観として、仕事そのものに楽しさを見出せるとは想像できません。
「やった甲斐がある」という言葉には、努力や苦労を必要とした成果が無事に報われたというニュアンスが含まれています。
そのため、成果がなければ「やった甲斐がなかった」となるわけです。
「やりがい」は成果とワンセットです。
そのため、成果を得たら、次なる成果を目標に据えて「やりがい」を生み出していく必要があります。
しかし、その成果が働く本人にとっての価値を見失い始めると、会社としての成果が上がっていても「やりがい」を見失い始めます。
「やりがいのある仕事」と「楽しい仕事」とは似て非なるものです。
外発的動機付け・内発的動機付け
仕事に取り組むためにはモチベーション(動機付け)が必要です。
そして、仕事そのものではなく、外部から与えられる報酬や評価、あるいは懲罰などによる強制力を働かせることで、間接的に仕事に対するモチベーションを高めようとする手法は、「外発的動機付け」と呼ばれています。
「外発的動機付け」では仕事そのものを楽しんで行っているわけではなく、外発的な要因(例として報酬や評価、懲罰回避など)が目的となります。
マネジャーをしていると、メンバーのモチベーションコントロールが一つのテクニックとして重要視されてきます。
そのため、「外発的動機付け」も積極的に取り入れます。
「外発的動機付け」は、なんとなく小手先で本質的ではないイメージがありますが、実際はそんなことはありません。
おそらく、そのイメージがあるとしたら、「外発的動機付け」の一面しか見れていません。これについては後段の自己決定理論を参照ください。
「外発的動機付け」は比較的容易にメンバーのモチベーションを高められ、しかも「内発的動機付け」を誘因できる可能性もあります。
誰しも、最初から興味・関心を持った仕事に携われるとは限りません。
そして、そのような仕事に積極的に取り組めるとも限りません。
しかし、義務感から、あるいは報酬から、半ば嫌々ながらもやってみる。
すると意外と楽しくて、繰り返すうちに上手に業務をこなせるようになり、さらにもっと色々と挑戦したくなっていく。
最初は興味がなかったのに、気づいたら前のめりで仕事に取り組んでいた、という経験のある方もいらっしゃるかもしれません。
こうなると、仕事をすることそのものが楽しみになります。
これが「内発的動機付け」の状態です。
仕事が趣味です、と語る人がたまにいますが、基本的にこの「内発的動機付け」が生じている状態では「楽しい仕事」が実現できていると言えます。
自己決定理論
アメリカの心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンは、自己決定の度合いが動機付けや成果に影響するという自己決定理論において、「内発的動機付け」に至る心理的プロセスを理論化しました。
そこでは、人間が健康であるために満たされる必要がある、3つの基本的心理欲求として「autonomy(自己決定性(自律性))」「competence(有能感)」「relatedness(関係性)」があるとされます。
「内発的動機付け」は自己の価値観と深く結びついています。
そして自己決定理論の中の有機的統合理論において、「外発的動機付け」をさらに4つの段階に分け、自己決定性(自律性)が高くなるにつれて「内発的動機付け」に近づくと説明しました。
有機的統合理論
レンガ職人の話をベースに、具体的な例を挙げて説明してみました。
自己の内面から湧き上がるモチベーションであっても、「外発的動機付け」に分類されているものがあることがわかります。
そして、似ていてもそれぞれが異なる動機付け要因とされています。
3人のレンガ職人の動機
「外発的動機付け」は、外部からの要請と自己決定性の度合いによって生じていたものでした。
「同一化的調整」を見ればわかるように、目の前の仕事が楽しくなくても、「歴史に残る大聖堂をつくる」といったビジョン達成のために「やりがい」を見出し、自らモチベーションを高めて働くことは可能です。
これらが、3人のレンガ職人の動機であり、自己決定性が低ければ「仕事は楽しくなくて当然」という価値観になるわけです。
組織にとっての問題
組織は、MBO(目標管理)や人事考課などで「外発的動機付け」を用いていますが、ミッションやビジョンの提示といった形でも「外発的動機付け」を行なっています。
逆に言えば、それらで動機付けされないミッションやビジョン、目標設定になっているとしたら、それは「外発的動機付け」に失敗しているわけです。
また、組織にとって、従業員が「内発的動機付け」によって楽しく仕事をすることは大変結構なことですが、組織の目的を外れ、自分勝手に仕事をされては困ります。
レンガを積む作業が楽しいからといって、大聖堂の中まで勝手にレンガで埋め尽くされても全然嬉しくないわけです。
つまり、組織と個人の両方にとって望ましいのが、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」がうまく重ね合わされた状態です。
特に、「外発的動機付け」が「統合的調整」であったとき、組織は個人に高い成果とモチベーションを期待することができます。
しかし、ここに至るためには、組織が要求する行動の価値と、個人の目的や欲求とが一致している必要があります。
ところで、有機的統合理論によれば、自己決定性(自律性)が最も高いと「内発的動機付け」の状態にある、と考えられます。
これは自律性と訳されているautonomyの元の意味を辿った方が正しい理解を得られるのではないかと思います。
これは、必ずしも一人で働くことを意味していません。
デシとライアンは自律性と自立性を区別しており、自立している人は一人で仕事をすることを好むが、自律的な人は一人で働くことも他者に頼ることもでき、それでも仕事に取り組むことで内発的動機づけの感覚を得ることができるとしています。
「楽しい仕事」に関係した理論
ここまでで「楽しい仕事」を実現するには「内発的動機付け」の状態にあり、「外発的動機付け」の「統合的調整」がなされれば組織にとっても不満なし、ということが見えてきました。
ここからは、「楽しい仕事」に関係したモチベーション理論を見ていきます。
なんだか遠回りしたように思えますが、先に「内発的動機付け」と「外発的動機付け」を整理しておいたことで、モチベーションの源泉と楽しい仕事の違いを踏まえて理解することができます。
フロー心理学
心理学者のチクセントミハイは、「人が極度に集中している、没頭している状態」をフロー状態と呼び、この状態において人は充足感を得る事ができ、モチベーションが続くとしました。
そして、特定の作業に没頭する中で、自分や環境を完全にコントロールしている感覚をフロー経験と呼びました。
個人的には、プログラミング中・執筆活動中・ゲーム中・料理中において、よく経験します。
なお、私はこの中では唯一、料理に関してだけは始めるためにモチベーションが必要です。つまり、フロー経験が得られるからといって、いつでも前向きに取り組めるというわけではありません。
ただ、フロー経験は、「楽しい仕事」を構成する主要因だと感じます。
職務特性モデル
心理学者のJ・リチャード・ハックマンと経営学者のグレッグ・R・オルダムが、仕事自体が面白ければモチベーションが高まるとする「職務特性モデル」を提唱しました。
職務特性モデルには5つの中核的職務特性があります。
技能多様性:必要とされるスキルの多様性
完結性:仕事の流れの全体を理解した上で関与できること
重要性:他者や社会に重要な価値やインパクトをもたらす仕事であること
自律性:自分で工夫できる裁量が大きいこと
フィードバック:仕事そのものから結果をその都度知ることができること
そして、これらの要素が、次の3つの重要な心理状態を作り出します。
仕事の有意味感(技能多様性・完結性・重要性によって生まれる)
仕事の成果への責任感(自律性によって生まれる)
成果への知識(フィードバックによって生まれる)
個人的には、仕事の有意味感と事業全体に関与できることを重視しており、完結性・重要性・自律性が「楽しい仕事」を構成する要素だと感じます。
楽しい仕事
モチベーション理論をたどりながら自己分析を続けるモチベーションこそ「内発的動機付け」によるものでした。
そのプロセスで生じていた執筆作業においては、フロー状態が続いており、楽しさを感じることはあっても苦労を感じることはありませんでした。
ようやく、結論が見えてきました。
『重要性』があると感じたものについて、「考える」「調べる・知る」「企画する」「書く・作る」というフロー経験を伴う『完結性』と『自律性』を持った一連の作業の遂行。
これが私にとって「楽しい」のだと気づかされました。
このコアが、求められる仕事の成果にリンクした時、「楽しい仕事」が実現できそうです。
そして過去を振り返ってみれば、「楽しい仕事」をしていた時は、まさにこの工程によって成果を生み出していたのでした。
楽しい仕事の見つけ方
「内発的動機付け」が生じたら、そのモチベーションに身を委ねてみる。
「楽しい仕事」はきっとその中にあります。
そのためには、「内発的動機付け」を見逃さないよう、押し潰さないよう、慎重に心の声に耳を傾けるしかないのかもしれません。
終わりに
長文お付き合いありがとうございました。
楽しい仕事をするためにはどうしたら良いか。
その方法をモチベーション理論を辿ることで発見することができました。
ところで、実はもう一つ、自分の中にあるモヤモヤがありました。
今の仕事における「仕事が楽しくない」以上の具体的な問題点の言語化です。
本文中、あえてさらりと話を流した論点がありました。
「外発的動機付け」の「統合的調整」と、個人の目的や欲求との一致についてです。
私の夢と事業のビジョンは、やはり一致していませんでした。
もちろん、ここまで読んでいただいた方には、「外発的動機付け」の「統合的調整」に至らなくても、モチベーションを生む方法があることはご理解いただけたかと思います。
しかし、仕事は人生の大半の時間を費やして行っていく社会活動です。
幸せについて考えていくと、ここを避けて通ることはやはりできないと感じます。
実現するには、自分の成し遂げたい夢を明らかにする必要があります。その夢が会社や事業のビジョンと重なったとき、非常に強いモチベーションを生み出します。
残念ながら、私の夢は今の事業のビジョンと重なり合ってはいませんが、「楽しい仕事」を見出した次のステップは、やはりそこを重ね合わせることだろうとも思ったりしています。
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