契約結婚大学生フロリド
「まさかリドルがフロイドと付き合ってたとはな」
「本当全然気付かなかった」
そう言われる事を予想して用意していた言葉を、白いタキシード姿のリドルは同じ寮であったトレイとケイトに告げる。
「彼とは節度あるお付き合いをしていたからね」
「そーそー」
同じく白いタキシード姿のフロイドが余計な事を言わなかった事にリドルは安心する。
「それならリドルを任せられるな」
「トレイくんそれ父親の台詞」
透かさずケイトが突っ込むと、確かにと言ってトレイが笑う。それを見て、ケイトだけでなくリドルも笑った。
先程結婚式を行った教会の庭で行われている立食パーティーで、リドルは結婚相手であるフロイドと共に招待客をもてなしていた。招待客には、勿論リドルと同じ寮であった者たちだけでなくフロイドと同じ寮であった者たちもいる。
NRCを先日卒業したばかりのリドルは、在学中からお付き合いをしていた同級生のフロイドと結婚をした。フロイドと付き合っている事を皆に秘密にしていたので、彼と結婚をする事になった事を告げた時は皆から驚かれた。しかし、皆リドルとフロイドを祝福してくれた。特にフロイドの兄弟と幼馴染みの二人は、不思議なぐらい喜んでいた。
シャワーを浴び終えると、結婚を機に引っ越しをした時に買った新しいパジャマに着替える。紺色に白いラインの入ったシンプルであるが質の良いパジャマ姿になると、リドルはまだ引っ越して来たばかりであるので慣れることができずにいる新居のバスルームを出る。
フロイドと一緒に暮らしているこのアパートメントの家賃は、半分をフロイドが出し半分をリドルが出している。しかし、実際にその家賃を出しているのは自分たちの両親だ。それは、結婚しているがリドルもフロイドもまだ学生だからだ。
リドルは魔法医術士の学校に通い、フロイドはアズールたちと同じ大学に通っている。リドルは魔法医術士になるつもりであるのだが、フロイドはまだ決めていないそうだ。
バスルームからベッドのある寝室までやって来たリドルは、先に寝室にやって来ていたフロイドがベッドでスマホを弄っていた事を知る。
引っ越しの片付けがやっと終わり今日から彼とこの寝室で一緒に寝る。結婚しているというのに寝室が別々だというのは不自然だという理由で一緒にしたのだが、誰かと一緒に寝た事がないのでちゃんと眠れるか不安だ。
「ボクは先に寝るから、寝る時はちゃんと電気を消すんだよ」
フロイドに話しかけながらベッドに入ったリドルは瞼を閉じて眠ろうとする。しかし、眠る事が出来なかった。それは、同じベッドにいるフロイドに体を弄られたからだ。
「フロイド!」
彼が何故そんな事をしているのか分からずパニックになっていたリドルであったが、直ぐに彼が自分を抱こうとしている事に気付く。性的な経験が全く無くとも、ここまであからさまなことをされてまで気付けない筈がない。
「止めろ! フロイド」
「やーだ。だって金魚ちゃんとオレ結婚してんだからいいじゃん」
フロイドがこんな真似をしたのは、結婚をしたからだったらしい。
「キミとの結婚はただの契約だろ!」
大きな声を出すとフロイドの手が止まる。
皆に秘密にしていたが学生時代から恋人同士であった。それは、結婚することが決まった後にリドルが考えた設定だ。
フロイドと恋人同士などではない。全く恋愛感情すらもないというのにフロイドとリドルが結婚をしたのは、母親が決めた相手との結婚を回避する為だ。母親が決めた事に今まで従って来たリドルであったが、それだけは従う事ができなかった。
フロイドと結婚したのはそれだけの理由からであるので、母親から独立したら別れる予定になっている。
「だったら、金魚ちゃんと結婚してるのに他で雌抱いても良いの?」
「それは……」
フロイドの行為は不倫というものだ。そんな事をさせらる訳がないし、それを許せる筈がない。
「オレに性欲ないと思った?」
「そんなこと……」
自分が性欲とは無縁であるので、全くそんな事を考えた事も無かった。そんな風に思いながらもそれを言えずにいると、フロイドが目を眇める。
「全然考えてなかったんだ。オレ性欲は強い方だから、浮気しちゃダメなら金魚ちゃんがオレの相手するべきだと思うんだよね。だって、金魚ちゃんはオレの番なんだから」
好きあって結婚した訳ではないので、確かに結婚しているが番という言葉に違和感がする。だからといって、わざわざそれを否定する事はしなかった。いいや、今はできなかった。
左右の色が違うフロイドの瞳を見つめたまま一頻り悩んだリドルは、結論を出す。
「……分かった。その代わり、ボクと結婚をしてる間は絶対にボク以外とするんじゃないよ」
「金魚ちゃんがさせてくれんのに、他の雌抱く訳ねーじゃん」
「……そうかい……?」
何故そんな風に言ったのか分からずにいると、フロイドの顔が近付いて来る。キスしようとしているのだということが分かったが、フロイドに抱かれる事を決めたのでもう嫌がるつもりはない。
少しの間我慢すれば終わる。性行為なんて大したことでは無い。そんな風に思っていたリドルであったが、この後今まで経験したことがないような快感を味わう事になった。それは、そう簡単に忘れる事ができないようなものであった。
何とも思っていない相手をそんな風に抱かないという事に、性行為どころか恋愛の経験すらも無いリドルは気が付く事ができなかった。