孕ませの淫紋
「はー孕ませたい。ねぇ、金魚ちゃん、オレの稚魚産んでよ」
「ボクは男だっ……あんっ」
「男でもこんだけ出したらできるって。ねぇ、だからオレの稚魚産んでよ」
男の自分が同性の恋人の子供を孕むというのは絶対にあり得ない事なのだが、こうも言い切られると本当にできてしまうかもしれないと思えて来る。
「分かった。分かったから」
「じゃあいっぱい奥で出してあげるからね♡」
体の奥で熱いものが爆発でもしたかのように感じ体を撓ませたリドルは、追い立てられるようにして上り詰める。
「――っ!」
行為の最中にフロイドはよく孕ませたいと言う。男相手に普通そんなことを本気で言わないので冗談なのだろうと最初は思っていたのだが、飽きることなく言うことから本気で言っているのだという事が分かった。
男として産まれたので、当然子供を産みたいなどと思った事は無い。本気で言っている事が分かったばかりの時はその事に困惑したのだが、……いつからだろう。フロイドへの気持ちが一層強くなった頃かもしれない。リドルも産めるものならばこのどうしようもない程に愛しい男の子供をこの胎内で育て産みたいと思うようになった。
それが実現になる日を何もせずただ待っているような人間で、このリドル・ローズハートがある筈がない。
「……これで理論は完璧だ」
学園内の図書室の奥にある机に様々な魔術書を積み上げてノートにペンを走らせていたリドルは、自分の作り上げた魔法陣をうっとりした顔で見詰めていた。
寮長としての仕事が山のようにあるだけでなく、一番の成績であり続けなければいけないので勉強の手を抜くことは絶対にできない。部活をサボるだなどという真似も絶対にするつもりはない。そんな忙しい日々の時間の合間を縫って先日から作っていた魔法がとうとう完成した。
これで、フロイドだけでなく自分の望みを叶える事ができる。
フロイドとの子供ならば、間違いなく可愛いに決まっている。髪は、瞳は、顔はどちらに似るんだろうか。どちらだって良い。早くフロイドとの子供に逢いたい。
「金魚ちゃんこれどうしたの?」
リドルの服を剥いた事によって露わとなった腹部の魔法陣を見て、フロイドは怪訝な顔へとなっている。リドルがフロイドに押し倒されているのは、自室にあるベッドだ。
モストロ・ラウンジのシフトが夜入ってない日はフロイドは必ず夜になるとリドルの部屋に姿を現す。そして、意外に思われるかもしれないがリドルがやらなくてはいけない事を終わらせるのをいつも大人しく待っている。
今日中にやらなくてはいけない事を終わらせたリドルは、ベッドで大人しく自分を待っていた恋人の元まで行き話を始めた。友達同士のような会話は直ぐに恋人同士のものへとなり、どちらからとも無く唇を重ねた。
愛情を確かめあうものであったキスがセックスの最中にするものへと変わっても抵抗せずにいると、フロイドにベッドに押し倒されて服を剥かれた。かくして、昨日完成したばかりの魔法を発動させる為の魔法陣が彼の眼下に現れた。
「ふふふ。キミがボクを孕ませたいと言うから、男であるボクがキミの子供を産める体になる魔法を作り出したんだよ」
偉大な研究の発表をしているような気持ちでそう告げたリドルは、自分の台詞にフロイドは感動するだろうと思っていた。しかし、リドルの台詞を聞くフロイドはぽかんとした顔になっている。
そんな魔法をリドルが完成させたことに恐れ慄いているのかもしれない。そんな風に思っていたリドルであったのだが、直ぐに全く理由が違っていたことを知る。
「孕まセックスを本気にして、オレの稚魚産める体になる魔法をわざわざ作ったの?」
あれ?
フロイドの反応は、リドルの行動を喜んでいるものではなく呆れているものであった。予想外の反応にリドルは狼狽える。
「だってキミはいつもボクを孕ませたいとか、子供を産んで欲しいって言ってたじゃないか……」
「あんなんプレイの一つに決まってんじゃん」
全くフロイドが本気で無かった事を知りリドルはショックを受けた。
「フロイドとの子供が欲しいって思ってたのはボクだけだったのかい……」
それを言葉に出した事により瞳に滲んだ涙が今にも頬に溢れ落ちそうになる。呆れたような顔をこちらに向けたままになっていたフロイドがため息を吐いたと思うと、体を引き寄せられる。
まだフロイドの言葉が冗談であったことにショックを受けたままのリドルは、フロイドの体を押し退けようとした。しかし、フロイドの発言によってその手が止まる。
「金魚ちゃんとの稚魚欲しいってのは本当だけど、今本当にできたら困るじゃん。オレたちまだ学生だし、金魚ちゃんにはお医者様になるって夢があるんだし」
「フロイド……」
ショックを受けているリドルを落ち着かせようと心にもないような事を言うような男ではフロイドはない。フロイドの声が真摯なものであったことからも、その言葉が本心なのだという事が分かる。
フロイドの言う通りだ。まだ学生だというのに子供ができたら困るだろう。子供をちゃんと育てられる自信もないし、魔法医術士になるという夢を諦めなくてはいけなくなってしまう。フロイドとの子供が欲しいという事ばかり考えていて、その後の事を自分は少しも考えていなかった。
「だから、大人になってお互いにちゃんとしたらオレの稚魚産んでくれる?」
顔を覗き込まれた事によりフロイドと目があう。左右の色が違う金色の瞳を眇めたフロイドの顔は、リドルを慈しんでいるようなものであった。
「分かった……」
いつも煩く気分屋なフロイドよりも自分の方がずっと大人だと今まで思っていたのだが、そうでは無かったのかもしれない。それが分かった事により悔しくなるだけでなく、何故か誇らしい気持ちになる。
「でもー、そんな魔法完成させるとかやっぱ金魚ちゃんはすごいね」
「これぐらいボクが本気を出したらできない筈がないよ」
フロイドに手放しで褒められた事により、先程までの沈んだ気持ちが吹き飛んだ。そして、尊大な気持ちへとなっていた。
「うんうん。でも、お腹の下ら辺にあると淫紋にしか見えないよね」
にこにことしているフロイドに、腹部にある魔法陣を撫でられる。それは何かで書いているのではなく魔法によって浮き上がっているものであるので、フロイドが触っても消える事はない。
「い、淫紋!」
「エッチな金魚ちゃん見てたらやりたくなって来ちゃった」
自分の作った魔法を淫紋扱いされ憤慨していたリドルは、フロイドの顔が欲情したものへとなっている事に気付く。いつの間にかそんな彼の股間は大きくなっていた。
「さっきまだ子供を作る気はないって言ったじゃないか!」
「エッチは子作りのためだけにするもんじゃないじゃん。それに、ちゃんと避妊するから心配しなくても大丈夫だよ♡」
「だったら魔法の効果を無くしてからっ」
リドルはちゃんとその効果を無くす魔法も一緒に作っていた。
「ダーメ。今日は妊娠できる体の金魚ちゃんとヤるって決めたから。淫紋プレイと孕まセックスしよっか」
馬鹿な事を言っているフロイドから逃れようとじたばたと暴れたのだが、体格差を利用して体を押さえつけられてしまう。逃げられなくなってしまったリドルは、欲情に瞳を染めたフロイドに見下ろされながら、自分よりもずっとフロイドの方が大人だと思ったのだがやはりそんな事は無かったと思い直した。