大人フロリドで孕ませ契約
待ち合わせ場所に派手な柄シャツの上に黒いコートを羽織った人物がやって来た。いかにも真っ当な仕事をしていなさそうな風貌をした彼は、リドルの姿を見付けると目尻が垂れた左右の色が違う瞳を眇めながらこちらにやって来る。
「金魚ちゃんから呼び出すとか珍しいじゃん」
NRCを卒業してから十年近くが経過しているというのに、全く縁の無い筈の相手である彼。フロイドとの付き合いが今も続いているのは、リドルの前に何かある度に彼が現れるからだ。
その為、連絡先は知っているが。強引に彼から教えられていたが、リドルからフロイドを呼び出したのはこれが初めてだ。リドルがフロイドを呼び出したのは、どこにでもあるカフェだ。平日であるので、そんなカフェは比較的空いている。
「キミに頼みがあるんだ」
「オレに頼み?」
意外だという様子にフロイドがなったのは、今まで一度もそんなことを言った事がないからだけではない。フロイドに弱みなど絶対に見せたくないとリドルが思っていることを知っていたからという理由もあるだろう。
「そうだよ。キミにしか頼めないことだ」
「へーオレにどんな頼みがあんの?」
面白い出来事を目の前にした子供のような顔へとフロイドはなっている。すっかり大人の外見になっているというのに、フロイドは我が儘な子供の部分を今も持ったままだ。
そんな男を選んだことを後悔したが、別の相手を今更探すつもりはない。それは、フロイドが適任であることが間違いないからだ。
「キミにボクを孕ませて欲しいんだ」
「へぇっ?」
どんな時もふざけた態度のフロイドであっても、この話を聞けば驚くだろうと思っていた。しかし、こんなに驚くとは思っていなかった。間抜けな顔へとなっているフロイドを見てリドルは思わず吹き出す。
「あははっ。なんて顔をしてるんだい」
「そんなこと言われたら当たり前じゃん」
リドルに笑われた事に対して不服そうな様子でそう言ったフロイドの態度は、すっかりいつものものに戻っている。
「それもそうだね」
「なんでいきりそんなこと言い出したの?」
何か無ければそんな事は言い出さない筈だとフロイドは思っているようだ。勿論、何の理由もなくそんなことを、付き合ってもいない更に同性の彼にに頼まない。
「ボクの家のことはキミも知ってるだろ?」
フロイドに家のことや母親のことを話したことがないというのにリドルがそう言ったのは、オーバーブロットした後学園でその理由が話題になっていたことを知っていたからだ。過干渉で支配的な母親が原因でリドルがオーバーブロットしたことを、当時同じ学園にいたフロイドが知らない筈がない。
「まーね」
フロイドには全く関係のないことであるというのに、歯切れの悪い返事をした事が不思議だ。その理由を問い質していると話が逸れてしまうので、今は続きを話す事にした。
「お母様がああだったから、ボクは結婚するつもりも恋人を作るつもりも無かったんだけど、自分の遺伝子をこの世に残したくなったんだ。でも、やっぱり女性と付き合うのも結婚するのも遠慮したかったから考えた結果、それならばボクが産めば良いんだって気付いたんだ。まだまだ一般的とは言えないが、それでも今は男でも同性の子供を産むことができるようになっているからね。ふふふ」
名案をフロイドに話す事によって笑い声が溢れてしまった。
「だからってなんでその相手がオレな訳なの?」
フロイドがそれを疑問に思うのは当然だろう。何故フロイドを子供の父親として選んだのかという理由はできれば本人である彼には教えたく無かったのだが、それを秘密にしたままにはできそうにないので正直に答える事にする。
「悔しいけどキミは、ボクの欠けてる部分を持っている男だからだよ」
それは身体的な特徴だけではない。性格や能力に関してもリドルの足りない部分を持っている男でフロイドはある。そんな彼と自分との子供は、間違いなく優秀で理想的な子供である筈だ。
「それだけが理由なの……?」
納得ができないという態度でフロイドはあった。
勿論他にも理由がある。それも話すしかないようだ。
「キミならば確実にボクを孕ませてくれそうだというのも理由だよ。キミは派手に遊んでいるようだからね」
「何でその事を金魚ちゃんが……!」
リドルにその事をフロイドは隠していたつもりだったらしい。
「モストロ・ラウンジに行った時に、キミと以前付き合っていたという女性から教えられたんだよ」
堅気には全く見えない風貌をしたフロイドであったが、彼の仕事はアズールが経営しているカフェバーのモストロ・ラウンジの店員だ。勿論それだけが仕事ではないようだが。他にもアズールが飲食店経営の裏でしている仕事も手伝っているようだ。
学生時代にアズールが寮で経営していたのと同じ名前の職場にフロイドに強引に連れて行かれた時、彼が席を外したのを見計らうようにしてリドルの元に美人であるが派手な女性がやって来た。そして、彼女からフロイドが複数の女性と派手に遊んでいる事を教えられた。
リドルにそんな事をわざわざ彼女が教えに来たのも不思議であったが、まるで敵でも相手にしているような態度で終始彼女があったことも不思議だ。
「クソ、どいつだよっ。よけーなこと言いやがって」
誰なのか話を聞いても分からなかったのは、心当たりがあり過ぎるからなのだろう。その事からだけでなくフロイドの発言からも、彼女の話が本当だったのだということが分かる。少しもその事に驚かなかったのは、彼がモテる事をよく知っていたからだ。
「勿論、ただでボクを孕ませてくれなんて言うつもりはないよ。それなりの報酬は支払う」
一人で子供を育てることにリドルが何の不安も持っていなかったのは、魔法医術士になりそれなりの収入があったからだ。そして、全く浪費をせずに来たので、まだ二十代だとは思えない程貯金があったからだ。そんな中からフロイドに謝礼を支払うつもりだ。
「金魚ちゃんって昔から頭は良いけど馬鹿だよね?」
フロイドの発言にリドルはむっとする。
「喧嘩をボクに売っているのかい? それならば魔法でキミと勝負してあげても良いよ」
リドルはジャケットのポケットに手を伸ばす。そこにはマジカルペンを入れてある。今日は仕事は休みであるが、ラフな服装が苦手なリドルは、スラックスにシャツ。そして、その上から紺色のジャケットを羽織るという格好でここに来ていた。
「そんなこと言ってねーし。分かった。金魚ちゃんの頼みを聞いてあげる」
「そう。それなら良いんだ」
フロイドが頼みを聞いてくれることになったので、これで自分の遺伝子を引き継いだ子供を手に入れる事ができる。もう子供ができたような気持ちへとなりながらリドルはポケットに伸ばしていた手を下ろす。
「じゃあ、子供ができるまで一緒に住もっか。お互いに忙しいから、一緒に住んだ方が効率的だと思うんだよね」
何故フロイドとわざわざ一緒に住まなければいけないのだと思っていたリドルなのだが、理由を聞いたことにより納得する。
「確かにその方が効率的だね。一緒に住むのは、ボクの家でいいかい? 子供が産まれた時のことを考えて最近広い部屋に引っ越したんだ。子供部屋にするつもりの部屋を、その間キミは使ったらいいよ」
「それでいーよ」
「それじゃあ決まりだ」
斯くしてフロイドと一緒に暫く暮らすことになったリドルは、子作りのための性行為は義務的なものだと思っていた。しかし、そうではなかったことをシーツを蜜でぐしょぐしょにした後知る事となる。