急に生理になったリドル♀の世話を甲斐甲斐しくするフロイド(付き合ってない)
「やぁ、いらっしゃい。ご機嫌いかが?」
学園内にあるミステリーショップにやって来ると、店主であるサムが陽気な態度で迎えてくれる。
最初は彼のテンションに気圧されてしまっていたのだが、この学園に入学して二年目であるのですっかり慣れた。それは、このミステリーショップに毎日必ずやって来ていることも原因だろう。
品揃えには自信がある。そうサムが言っているだけあって、学園内の購買部だとは思えない品揃えでミステリーショップはあった。
NRCの二年生のモブ男がこのミステリーショップに今日やって来たのは、おやつを買う為だ。食べ盛りの男子校生なので、晩御飯の時間まで我慢することができずよく放課後ミステリーショップでおやつを買っている。
昨日はジャムパンを買ったので、今日はスナック菓子にしよう。そう思いスナック菓子のコーナーまで行くと、SNSで見かけたばかりの新商品が置いてあった。
さすがミステリーショップだ。本当に何でも置いてあるんだな。ここに置いてない物はないんじゃないか。まあ、そんな訳はないんだろうけど。
派手な色のパッケージに入ったスナック菓子を手に取ると、ドアが開き誰か中に入って来た。
「ようこそMr.Sのミステリーショップへ」
サムからそう言われた人物の姿を見てモブ男が硬直したのは、やって来ていたのが同じ学年の有名人の一人であるフロイド・リーチであったからだ。
本来の姿は人魚だというのに天才肌で、バスケだけでなくパンクールすらもできてしまう。しかし、気分屋でやる気に左右され、機嫌が悪いとめちゃくちゃ厄介な男。そんなフロイドに見つかってしまうと面倒な事になりそうで。実際にフロイドに関わってしまったせいで大変なことになった友達もいる。モブ男は、咄嗟に店の中に並んでいる棚の影に隠れた。
「今日はお使いで来たんだけど」
「何をお求め? 小鬼ちゃん」
お使いということはモストロ・ラウンジでバイト中なのだろうか。オクタヴィネルの寮生になると強制的にアズールがラウンジで経営しているモストロ・ラウンジで働かされるらしい。
「痛み止めとナプキンある?」
え?
思わず声が出てしまいそうになるほど驚くような発言であった。ここは男子校だ。痛み止めは必要になることがあっても生理用品であるナプキンなど絶対に必要にならない。何故そんな物をフロイドは買いに来たのだろうか。
「オーケー! 昼用と夜用があるけど、どっちが必要なんだい?」
あるのかよ!
フロイドの発言にも驚いたが、教師も男しかいない全寮制の男子校の購買部にナプキンが置いてあることにも驚いた。しかも、複数の種類を取り扱っているらしい。本当にこのミステリーショップは何でも置いてあるのかもしれない。
「夜用と昼用とかあんだ」
「羽付きと羽なしもあるよ」
「どれ買ったら良いのか分かんないから全種類くれる?」
「センキュー、小鬼ちゃん」
元気よく返事をしたサムが、棚から取り出した物を次々に茶色の紙袋の中に入れる。代金を支払いそんな紙袋をサムから受け取ると、フロイドは店から出て行った。
それを見てやっと息を吐くことができたのだが、男子校の購買部に何故彼が生理用品を買いにやって来たのかは分からぬままだ。
(うちの学校に実は女の子が……まさかな……)
同じ学年で女の子でも通用しそうな外見の生徒というと、フロイドがよくからかって遊んでいる姿を見かける赤髪の生徒しか浮かばない。しかし、学年主席の成績である彼が、実は女の子だったという事はないだろう。……多分。
それに、彼が女の子だったとしても、フロイドが生理用品を彼の為に買いに行かないだろう。普通、付き合っていてもなかなかしないようなことだ。
生理の腹痛と倦怠感で起きていることができずベッドにぐったり横たわっていると、ドアが開き部屋から出て行っていたフロイドが中に入って来た。
「何処に行ってたんだい?」
「購買部。痛み止めとナプキン買って来たよ」
「キミが……?」
飲み物でも買って来たかのような態度でフロイドが告げた内容にリドルは一瞬痛みを忘れてしまうほど驚いた。
「オレが買って来たらダメだった?」
「ダメじゃないけど……。恥ずかしくなかったのかい?」
男は生理用品を購入するのを恥ずかしがるものだと思っていたのだが、フロイドにそんな様子は全く無かった。
「何で恥ずかしいの?」
何故そんなことをリドルが言ったのか分からないという様子でフロイドがそう言ったことから、見た通り全く恥ずかしいと思っていないのだということが分かる。それは、彼が人間とは常識が違う人魚だからなのかもしれない。
「恥ずかしくなかったのならいいよ。キミが買ってきてくれたおかげで助かったよ。まさか急になるなんて」
生理不順であるので、急に来る事は珍しいことではない。それなのにリドルが生理用品や痛み止めなどの準備を怠っていたのは、数ヶ月来ていなかったので油断していたからだ。
しかも数ヶ月振りであるからなのか、いつも酷い痛みが更に今日は酷い。フロイドに顔色が悪いので自分の部屋で少し休んで行った方が良いと言われてしまったぐらいだ。フロイドに誘われてモストロ・ラウンジで食事をしている最中、リドルは生理になってしまった。そのせいで折角の食事を残してしまった。
(急に生理になってしまったのが、ボクが女だって事を知ってるフロイドがいる店だったから、まだ良かったのかもしれない。痛み止めとナプキンも買って来てくれたし)
後継の男の子が欲しかった母親の方針で男として育てられたリドルが女の子だとこの学園で知っているのは、学園長とフロイドだけだ。女だということを他の生徒に知られないことを条件に、リドルはこの男子校に入学を許可された。
それなのにフロイドが知っているのは、入学して直ぐに「金魚ちゃん雌みたいな匂いがするね」と言われ女だという事を彼に気付かれてしまったからだ。フロイドにはその事を秘密にしてもらっている。
「はい、これ」
「随分と量があるね」
フロイドが差し出して来た紙袋が大きいことに驚きながらリドルはそれを受け取る。
「どれ買ったら良いのか分かんなくて全部買って来たから」
「キミが分からないのは当然だね。幾らだったんだい?」
「お金はいーよ」
「そんな訳にはいかないよ」
フロイドが素直に代金を受け取ろうとしないことに苛ついてしまった。普段はそんなことに苛つかないというのに苛ついてしまったのは、生理で気が立っているからだ。
生理痛が重い方であるので、生理中はいつも以上に寮生の首をはねていた。
「金魚ちゃんが早くいつも通りになってくれたらいーからさ。スマホで調べたらお腹あっためたら良いって書いてあったから、後で毛布出してあげるね」
わざわざフロイドがそんなことを調べたことだけでなく、心配してくれているのだという事が分かりリドルは驚いた。
「キミが心配してくれるなんて」
「だって辛そうな金魚ちゃん見てると、なんか嫌な気持ちになんだもん」
何故そんな気持ちになってしまったのか分からないという様子だ。
「そうかい」
悪い気はしない。フロイドの発言に対してそう思ったリドルは、痛み止めを飲みフロイドが買って来てくれたナプキンを持ってトイレに行く。
戻ってくると、フロイドは先程言っていた通り毛布を用意してくれていた。痛みがましになったら帰るつもりであったのだが、もう少しだけここにいても良いかもしれない。フロイドに毛布の上からお腹を撫でられながらリドルはそんなことを思った。