女の子として裏垢やってるカントボーイリドル
裏垢というものの存在をリドルが知ったのは、NRCに入ってマジカメを始めてからだ。
ケイトに強引に誘われて始めたのだが全く投稿をしていなかったマジカメを見ていると、フォローしているうちの誰かがRTした裏垢の投稿が流れて来た。こんな恥知らずな真似をするなんてどうかしていると、RTした相手に憤慨しながら名前も素性も隠して卑猥な自撮りを上げているアカウントを見ると、リプ欄には餌を求める豚のような男たちが集まっていた。
最高です。
もっと写真をお恵みください。
そんなコメントを見ているうちに、リドルは自分もやってみたくなった。きっと彼らを見下ろすのは気分が良い筈だ。
「これで良しと」
来週裏垢にアップする分の写真を撮り終えたリドルは、画像フォルダにある写真を確認していく。撮った写真をいつも一度にはアップせず、観覧数の多い時間に毎日数枚ずつアップするように設定している。
写真の中でリドルは、黒と赤のレースとリボンと刺繍をたっぷり使ったベビードールに、ベルベット生地のリボン型のチョーカー。それに、ガーターベルトと面積の狭い黒の下着という格好をして、マスクで顔を隠してディルドを踏みつけたり挑発的な顔で自慰をしている。
リドルは女王様キャラで裏垢をやっている。その為、痛めつけるような写真や挑発的な顔で見せつけるような格好のものが多い。
一部の人間にしか受けないだろうと思っていたというのに、リドルのアカウントは現在ポムフィオーレの寮長であるヴィル並みのフォロワーがいる。勿論、真面目にマジカメをやっているヴィルとフォロワー数を争うつもりはない。それに、この垢が自分の垢だという事を誰かに話すつもりはない。
きっとこの写真をアップしたらいつものように賞賛のコメントがフォロワーから来るだろう。自分の写真を見て興奮しているフォロワーを想像すると、気分が良くなるだけでなく興奮して足の奥が熱くなる。
「これがボクだなんて思う人間はいないだろうね」
これだけフォロワー数がいて、マスクをしているとはいえ顔の一部を出しているというのに、この裏垢の少女がリドルだと気付いた者は誰もいない。それは、リドルの事を皆ちゃんとした男だと思っているからだ。
産まれた時からリドルは、局部だけが女性で他の部分は男という体だ。普通の男性よりも小柄で女性的な顔立ちなのは、それが理由なのかもしれない。普段は女の部分がある事を隠して生活しているのだが、反対に裏垢では男の部分を隠している。
寮長という名前でやっている裏垢の中にいる自分は、自分ではない別の自分。リドルにとって、裏垢の自分はそんな存在であった。
「この寮長って金魚ちゃんだよねぇ。金魚ちゃん雌だったの?」
スマホで裏垢を見せながら大きな声でそうフロイドからリドルが言われたのは、寮生と食事をしていた大食堂だ。
「フロイド!」
「でも前に見た時金魚ちゃんおっぱい無かったよね?」
「フロイド、ちょっと来てくれるかい!」
このまま更に話を続けそうなフロイドを無理矢理大食堂から連れ出したリドルは、彼をハーツラビュルに連れて行きながら同席していた寮生たちにどんな言い訳をするか考える。
特にハーツラビュルの寮生には、あんな垢をやっている事を知られたく無い。寮長としての威厳を失ってしまう。
「何がお望みだい?」
リドルは部屋に入り鍵を閉めると同時に、先に部屋へと入っていたフロイドにそう言った。
ハーツラビュルの寮生の部屋に入るのが初めてであったので物珍しそうに部屋の中を見ていたフロイドの顔がこちらに向く。
「望み?」
「あんな事をしてるボクを脅しに来たんだろ?」
感情的な声でそう言って、リドルは大股でフロイドの元まで行く。
「あはっ。そーいうんじゃ無かったのに。やっぱアレ金魚ちゃんなんだ〜。金魚ちゃん下だけ雌なの? 面白いね」
新しい玩具を目の前にした子供のような顔にフロイドはなっている。
やってしまった。あの垢をやっているのが自分だという事を黙っていて欲しい気持ちが先走り、まだ確信をもっていなかったフロイドに確信させるような真似をしてしまった。
顔を歪めてこめかみを黒い革の手袋をした手で押さえていたリドルは、顔から手を離すと共に伏せていた顔を上げる。
「あんな垢をやっている事を知られたくないんだ。だから、このことは黙っていてくれないかい?」
フロイドの顔に悪い笑みが浮かぶ。
「そんな面白いことただで黙っててあげる訳ないじゃん」
フロイドの反対からそう言い出す事を予想していた。そして彼ならばそう言い出すと思い、部屋に入って直ぐ何が望みなのか聞いた。それでもリドルは、フロイドの発言に顔を顰める。
「この垢の金魚ちゃんちょー綺麗だよねぇ」
「そうかい」
ポケットから取り出したスマホでリドルの裏垢の写真を見ながらフロイドに褒められ動揺した。
「オレも金魚ちゃんと遊んでみたいな?」
そう言ってスマホからこちらに視線を移したフロイドの顔には、無邪気な子供みたいな笑顔が浮かんでいた。しかし、その顔を見る事によって、彼が写真のような事を自分としたいのだということが分かる。
(虐められたいだなんて意外だ。いつもボクを揶揄って喜んでるから、てっきり虐めたい方だと思ってたんだけど)
虐められたいのならば、今までの鬱憤を存分に晴らさせてもらおう。
「いいよ」
「やったー♡」
どうやってフロイドを虐めるか考えていたリドルは、この直ぐあと女王様なリドルをフロイドが虐めたいと思っていた事を知る。