付き合ってないけどNRCで最も迷惑なカップルのフロリド
「今年のNRCで最も迷惑なカップルに選ばれたのは、フロイド・リーチくんとローズハートくんです。このカップルは生徒の投票によって選ばれるんですが、二人は去年も様々な意見と共に優勝してます」
二人の痴話喧嘩に巻き込まれた。そのせいで酷い目にあった。絶対に許さないや、リドルに気があるとフロイドに勘違いされて恐ろしいめにあった。確かに顔は可愛いが、あの性格を可愛いと思うのはお前ぐらいだということが投票用紙には書かれていた。
「また選ばれちゃったね、金魚ちゃん」
「なんでボクがこんなバカげたものに選ばれないといけないのか、全く理解できないんだけど。何度も言うけど、ボクはフロイドとなんて付き合ってないからね!」
「二回も選ばれたんですから、そろそろ付き合ったらどうですか?」
プリプリ怒りながらリドルが言った台詞は照れ隠しなどではない。フロイドとリドル。略してフロリドは、どう見ても付き合っているようにしか見えないが付き合っていない。
「学園長! 何故ボクがこんな男なんかと!」
「金魚ちゃんひで〜。オレは金魚ちゃんだったらいいけど。そうだ、今から付き合わない?」
「そういう冗談は不快だから止めてくれないかい!」
フロイドの台詞を全く本気にせずピシャリとリドルはそう言い切った。フロイドの台詞を冗談だと思っているのはリドルぐらいだ。皆、フロイドが本気で言っていることは分かっていた。
入学して直ぐにリドルを好きになったフロイドからアピールされ続けているのだが、リドルは全くそのことに気付いていなかった。そして、フロイドに揶揄われていると思い憤慨していた。
「そうですか。それでも今回も選ばれたお二人には、豪華な商品を贈らせていただきます」
豪華な商品と学園長は言っているが、またくだらない物をくれるのだろう。そうリドルだけでなくフロイドも思っていたのは、去年選ばれた際に貰ったのが購買部で使える大した額ではない金券であったからだ。
二人でそれを分け、リドルはそれで参考書を買いフロイドはお菓子を幾つか買っていた。それぐらいで無くなってしまうような額だ。子供のお小遣いだってもっとある。
「二人とも本気にしていないでしょ! 今年は本当に豪華商品を用意したんですよ。ペア温泉旅行券です!」
「ペア温泉旅行券……?」
「はあ?」
リドルとフロイドの声が重なった。
商品を聞き驚いている二人を見て学園長は満足そうな様子になる。
「今年はアルアジームくんがスポンサーになってくれましたからね」
そう言って学園長が従者であるジャミルと一緒にいるカリムを見たことにより、フロイドとリドルの視線もカリムに向かう。
「おう、すげーカップルを選ぶ企画があるって聞いたから、豪華商品を用意させてもらったぜ!」
「また余計なことを……」
同じ部活のフロイドにリドル絡みで多大な迷惑をかけられているジャミルは、カリムとの隣で頭を抱えていた。
「そういうことなんで、二人は温泉旅行券に行ってさっさと収まるように収まってください。二人が付き合えば、フロリド絡みの苦情が減る筈ですから……。あ、いえ。それはこちらの話です」
(今フロリドって言った)
(フロリドって言った)
学園長は誤魔化していたが、フロリドと言ったことだけでなく思わず溢してしまった本音をこの場に集まっている者が聞き逃す筈が無い。そして、わざわざカリムにスポンサーになってもらい豪華商品を何故用意したのか納得していた。
しかし、恋愛経験値がマイナスであるリドルだけは、そんな学園長の呟きを偶然にも聞き逃していた。その為、皆が何故ざわざわしているのか分からずにいた。
「……?」
「なんでボクがキミと旅行なんて」
白いシャツにブラウンのカーディガン。それに黒いスラックという私服姿のリドルは、小さな旅行バックを持って温泉街の中を同じく私服姿のフロイドと歩いていた。
「そんなこと言ってるけど、旅行楽しみだったんでしょ?」
「そんなことはないよ!」
家族とも旅行などしたことがないのだから、仕方ないじゃないか。フロイドの言葉が図星であったので狼狽えながら否定をしたリドルは、友達ですらもないフロイドと旅行をすることになった事を改めて不思議に思う。
NRCで最も迷惑なカップルなどというふざけたものに選ばれたことにより旅行券をプレゼントされた時には全く旅行に行くつもりはなかったのだが、同じ寮のケイトやエースなどに折角もらったんだから行った方が良いと背中を押されてフロイドと旅行に行くことになった。しかし、副寮長であるトレイだけは旅行に何故か反対していた。そして、「リドルに何かあったらどうするつもりだ!」と言っていた。
魔法さえ使えれば、フロイドに自分が負けることは絶対にない。それなのにトレイが心配している事が不思議だ。顔を顰めながら、リドルは鞄から電車のチケットと一緒に入れていた地図を取り出す。それは、今日泊まる旅館までの地図だ。今日泊まるのはホテルではなく温泉が有名な旅館だそうだ。
「金魚ちゃんわざわざ地図プリントして来たんだ」
「迷子になったら困るだろ」
「そうだね♡」
今日はフロイドはずっとこんな調子だ。いつも以上に機嫌が良い。フロイドも旅行が楽しみだったのかもしれない。
人のことは言えないじゃないかと思いながら地図を見たリドルは、フロイドと共に温泉街の中を進んでいく。暫くお土産屋さんなどが並んでいる温泉街を歩くことによって、旅館までやって来た。
「随分立派な旅館だね」
「ラッコちゃんが用意してくれた旅行券だしね」
「確かにそうだね」
今日泊まる旅館が学生が二人で泊まるには立派過ぎるものである事に納得しリドルは、フロイドと共に建物の中に入る。直ぐに着物を来たスタッフが出迎えてくれ、荷物を渡し部屋まで案内された。
立派なのは旅館だけではなかった。フロイドと泊まる部屋も立派であった。そんな部屋の窓からは、ここに来るまでに見えた川だけでなくその奥にある山が綺麗に見える。この部屋には露天風呂が付いており、そこからの眺めも最高だそうだ。
大浴場も気になるが、部屋に付いている露天風呂も気になる。温泉に入った事が今まで無いので温泉を楽しみにしながらスタッフが部屋まで運んでくれた荷物を片付けていると、部屋の中を探索するように見て行っていたフロイドの大きな声が聞こえて来る。
「うわっ、すげっ」
何かあったのだということが分かりフロイドの元まで行ったリドルは、今日使う布団が用意された部屋を見て目を丸くする。
「これは……」
畳の部屋に敷かれた二組の布団は、透き間無くぴったりとくっ付けられていた。
「金魚ちゃん意味分かってるんだ?」
「意味って……? キミと仲がいいんだと勘違いされただけじゃ……」
二つの布団をわざわざぴったりとくっ付けてあるのは、フロイドと仲が良いのだと勘違いされてしまったからだ。一緒に旅行に来ていればそんな勘違いをされてしまうのは仕方が無い事だ。それでもその事に困惑していたのだが、フロイドは全く違う理由から驚いていたのかもしれない。
「そうだと思った~。金魚ちゃんがこの意味分かる訳ないよね」
「バカにするのはおよし!」
肩を怒らせて怒ったのだが、フロイドの言っている意味は分からぬままだ。
ぴったりとくっ付いている布団には、何か意味があるらしいのだがどんなに考えても全く分からない。その意味をリドルがやっと知ったのは、旅行最後の晩、フロイドに押し倒されてしまった時だ。