フロイドに妊娠する薬を盛られるリドル
「人間って卵から産まれてくんじゃないんだね」
「何を当たり前な事を」
そんなこと幼子でも知っていることだ。魔法で人間の姿に今はなっているが実際には人魚であるといっても、まさかその事を知らないとは思ってもいなかった。
「オレの子供金魚ちゃんに産んで欲しいな〜」
「馬鹿なことをお言いでないよ。ボクは男だよ」
ベッドに転がっているフロイドから言われた内容にリドルが憤慨しなかったのは、彼が恋人であるからだ。
リドルを見るとちょっかいをかけてしまうのは好きだから。それをアズールに言われることにより自覚した彼に、好きだとしつこく言われるうちに根負けして恋人になった。そして更に、うっかり絆されて彼の事が好きになってしまった。
自室に遊びに来ている彼と先程までベッドで愛し合っていたリドルは、まだシャツ一枚という格好だ。フロイドなど下着だけという格好だ。フロイドは兄弟であるジェイドと同室なので、もっぱら会うのは寮長であるので一人部屋を使っているリドルの部屋だ。
「産めるなら産んでくれるってこと?」
「どうしてそうなるんだい。まあ、産めるなら産んであげても良いよ」
自分に都合良くリドルの返事を解釈したフロイドに呆れるだけで強く否定する事をしなかったのは、彼の考えはあながち間違っていないからだ。
「やったー」
絶対にあり得ない話だというのに無邪気な顔で喜んでいるフロイドを見て、悪い気がする筈がない。フロイドを見ながら小さく笑っていると、腰に彼の腕が絡み付いて来る。
「もう一回良いよね?」
「仕方ないね」
最近回数が増えている気がする。よくない。そう思いながらも、恋人からの甘い誘いを断る事ができる筈がない。
「確かに産めるなら産んであげても良いとは言ったけど、ボクに何も言わず薬を盛るのはどうかと思うよ?」
まだ見た目は殆ど変化がないのだが、リドルは妊娠中である。お腹の中にいるのは、男のリドルが孕む原因になった恋人であるフロイドの子供だ。
先日体調がおかしくなり病院に行った事により、妊娠していることが分かった。リドルが男でありながら妊娠する事になったのは魔法薬が原因である可能性が高い事が分かった事により、即座に犯人が分かった。自分にそんなものを飲ませたのは、フロイドだとしか思えない。
問い詰めると、あっさりアズールから貰った薬を何度かリドルに盛ったことをフロイドは認めた。
「だって、聞いたら駄目だって言われちゃうかもしれないじゃん」
「ボクは約束は守る男だよ。……何気持ち悪い顔をしているんだい?」
怒られている最中だというのにフロイドは全く反省した様子になっていないどころか、目尻を下げてリドルの話を聞いていた。
「へへへ、金魚ちゃんオレのこと大好きなんだなーって思って」
「なにを言い出すんだい! そんな馬鹿な真似をするキミに付き合えるのは、ボクぐらいだよ」
「それはオレも一緒だと思うけど」
どういう意味だとそれに対して言いたくなったのだが、融通が効かないうえに感情的になりやすい性格をしている事と、そんな性格が原因で友達と呼べるような相手がいない事を自覚しているのでリドルはその言葉を飲み込む。
「お母様になんて言えば良いんだろうね……」
男でありながら妊娠しただけでなく、まだ在学中だ。リドルが妊娠していることを知った母親の反応など容易に想像できる。
「じゃあ許してもらえなかったら海に逃げよっか?」
「それも悪く無いね」
母親を説得するというのではなく、そんな事を言った彼に対してフロイドらしい答えだ。不安な気持ちが吹き飛んでしまったのを感じながら、リドルは小さく笑う。