ホリデーに母親の前でモブレされてしまうリドルの話し
「嫌だ……やだ……っ!」
「まだ諦めて無かったのかよ」
重い手足をもがくように動かして逃げようとしたのだが、太い腕に体を押さえ付けられ引き戻される。そして、衣服を剥ぎ取られ無防備になっている体を男たちに好きにされてしまう。
怖い。痛い。怖い。気持ち悪い。
助けて。
確かに座学の方が得意であるが、実践も得意だ。その証拠に、実践魔法の授業で負けた事は一度もない。しかし、実際に闘うのと授業とでは全く違うのだという事を、リドルはその日知った。
ナイトレイブンカレッジに入学してから何度目かのホリデー。
前回のホリデーでは、母親にルールに縛ることだけが正しい訳ではないという事を話し考えを改めてもらおうとした。しかし、自分のしている事が間違ったものであると少しも思っていない母親を、激怒させるだけであった。
自分が何を言っても母親は変わってくれないのかもしれない。いや、根気よく説得すればいつか理解してくれる筈だ。彼女は誰よりも優秀なのだから。
母親の考えを変える事を諦められず、再び実家に戻ったリドルはもう一度その事を話した。その結果、前回以上に彼女を怒らせてしまった。
甲高い声で母親から責め立てられていると、部屋に見知らぬ男たちが入って来る。勝手に家に上がった彼らの目的が金である事が分かると、リドルは先程まで母親に叱責されていた事も忘れて彼女を守る為に前に出た。
家に押し入っているのは自分よりもずっと体格の良い男たちであったが、リドルは彼らに負けるつもりは全く無い。それどころか、相手にすらならないとさえ思っていた。
しかし、それから数分後リドルは床に沈み身動きを取る事ができなくなっていた。卑怯な真似をされ魔法を使うタイミングが遅れた事により、男たちの中の一人のユニーク魔法を受けてしまったからだ。
その男のユニーク魔法は、相手の動きを一定時間鈍らせるというもの。全く動くことができないという訳ではないのだが、まるで重い枷でもつけているかのように体を自由に動かせなくなっている。
「やっぱ若い子はいいよな」
「お前若い子好きだもんな」
「ついでに面食いだけどな。これで女だったらもっと楽しめたのにな」
「いや、男もなかなか良いもんだぜ。嫌がってるのを押さえ付けんのって最高に興奮すんだよな」
変態と笑いながら言っている男たちの声を聞きながら、リドルは恐怖と屈辱によって顔を歪める。
ユニーク魔法によって床から起き上がる事が出来ずにいると、無法者たちの中の一人がのしかかって来た。殴られるのだと思っていたのだが、男の目的は全く違っていた事をリドルは直ぐに知る。
小柄で中性的。いいや、少女めいた顔立ちをしているリドルで男は「遊ぶ」事にしたのだ。それに他の男たちも加担することになり、リドルは自分よりもずっと体格の良い男たちに周りを取り囲まれている。
このままでは男たちに乱暴されてしまう事になる。
怖い。自分ではもうどうする事もできない状況になってしまった。
誰か。誰でもいいから助けて欲しい。
先程庇おうとした母親の存在を思い出したリドルは、彼女の姿を探す。彼女は部屋の端で小さくなっていた。そんな母親と不意に目が合う。
「助けて……お母様……」
絞り出すようにしてそう言うと、厄介ごとから逃げるように母親はリドルから目を離す。
リドルが男たちから乱暴されようとしている事に、母親が気付いていない筈がない。彼女は息子であるリドルを犠牲にして、難を逃れようとしているのだ。
母親から見捨てられてしまった事に絶望していたリドルは、その後更なる絶望を味わう事になった。母親の前で複数の男たちに代わる代わる犯された。肉体的にも精神的にもボロボロになり、現実から逃げるように意識を失ったリドルが目を覚ましたのは、父親の病院だ。
男たちが去った後母親がここに連れてきてくれたのだと思っていたのだが違っていた。仕事を終え自宅に戻った父親が乱暴され意識を失っているリドルを見つけ、病院に連れて来たのであった。
助けてくれなかっただけでなく彼女が自分を病院にすらも連れて行ってくれなかった事に愕然としていたリドルは、母親と父親の口論。いいや、母親が感情的な声で父親を怒鳴り付けているのを聞いてしまう。
「男に乱暴されてしまうような息子なんて私にはいないわ! 穢らわしい! あんな子私の息子じゃないわ」
男に乱暴されるような息子なんていない。
穢らわしい。
私の息子じゃない。
母親の言葉が頭の中で繰り返される。
男たちに乱暴されてしまった事により、母親から見限られてしまった。
あれは望んでしたことなどではない。それを母親は見ている筈だ。それでも駄目なのだ。
「金魚ちゃんどうしたの?」
独特の響きのある甘い声を聞き我に返ったリドルは、側までフロイドがやって来ていた事を知る。図書室で勉強をしていたのだが、いつの間にかぼんやり考えごとをしてしまっていた。それは、前回のホリデーで起きた件だ。
男たちに乱暴された事によって負った傷はホリデーの間では治らず、リドルは皆より一週間近く遅れて学園に戻った。
その間、あれだけリドルを束縛していた母親は、一度も病院に見舞いにやって来る事も無かった。学園に戻る前に自宅に戻り会っても、リドルのことを心配しないどころか興味を失った存在のような態度であった。
それは、男たちに乱暴されてしまった事により、リドルが自分の望む存在では無くなったからだ。
もうどんなにルールを守っても勉強しても母親に認めて。愛してもらう事はできないというのに、それしか生き方を知らないリドルは、今まで通りルールに縛られ勉学に勤しむ毎日を送っている。
「少し考え事をしていたんだ」
また自分を揶揄いにやって来たのか。腰を屈め机の上に両腕を置いているフロイドに対してリドルがそう思ったのは、彼によく揶揄われているからだ。
フロイドに邪魔をされてしまう前に勉強に戻ろうとしたリドルであったが、彼の台詞に手が止まってしまう。
「金魚ちゃんもしかして最近寝てない?」
フロイドの言う通りあの日からよく眠れない毎日が続いており寝不足になっている。
「おうちで何かあったの?」
「キミには関係ないよ」
内心ぎくりとしながらリドルは否定した。
何も考えていないいい加減な男に見える彼なのだが、時々驚いてしまうぐらい鋭い。それは、リドルとは違い彼が所謂天才肌という存在だからなのだろう。
素っ気ない態度をリドルに取られたというのに、ここから全く立ち去ろうという気配が彼にはない。ここからフロイドが離れないのならば、自分が離れるしかないだろう。
忘却の魔法でも自分にかけてしまって全て忘れてしまおうか。
いいや、それは駄目だ。あの魔法を許可されてない者が使うのは禁じられている。
「オレが慰めてあげよっか?」
机を片付けようとしていたリドルにそう言ったフロイドの顔には、微笑が浮かんでいる。
フロイドからそんな事を言われるのはこれが初めてではない。何度もベッドに誘うような事を言われている。ずっと揶揄っているのだと思っていたのだが、フロイドの瞳に欲望が滲んでいる事に気付いたことにより、そうではなかった事が分かる。
急にフロイドの言葉が甘い誘惑のように思える。
これに頷けばフロイドに慰めてもらえる。そんな事を思ってしまったのは、母親から見限られてしまいやけっぱちになっていたからなのかもしれない。
「そうだね、慰めてもらおうかな」
ずっとそれに返事すらしなかったのに急にそんな事をリドルが言ったからなのか、自分から誘っておきながらフロイドが目を丸くする。
その反応がおかしくてリドルは小さく笑った。
「それとも、冗談だったのかい?」
「まさか。いっぱい慰めてあげんね」
「期待しているよ」
口角を上げたリドルはテーブルを片付けると、フロイドは兄弟であるジェイドと一緒に部屋を使っているようなので彼とハーツラビュルに向かう。