夫婦制度があるNRC
「金魚ちゃんオレと夫婦になって♡」
「何度も言っているが、絶対にキミだけはお断りだ!!」
「えー」
すげなく断られたというのにフロイドに全く懲りた様子はない。そう簡単に懲りるような男ならば、一年以上もパートナーを作らずリドルに求婚し続けないだろう。
魔法士養成学校であるNRCには、他の学校にはないような不思議な制度やルールがある。その一つに、在学中誰かと夫婦にならなければいけないというものがある。……夫婦といっても本当に結婚する訳ではない。夫婦のような密な関係になるだけだ。
NRCは全寮制の男子校だ。それなのにそんな制度があるのは、卒業後パートナーと上手くやっていく為らしい。全く理解できない理由であったが、学園の制度でそれがあるのならば従わなくてはいけない。そんな風に思っていたリドルであったが、既に二年生へとなっているというのに誰とも夫婦になることができずにいる。
その原因は、入学式翌日にリドルに一目惚れをしたと言って夫婦になって欲しいと申し込んで来たフロイドだ。だらしなく着こなした制服に軽い口調。この名門NRCの生徒だとは思えないような男であるフロイドは、リドルが最も我慢ならないタイプだ。そんな男の申し出を受け入れる筈がない。
きっぱりとリドルは断ったのだが、その翌日まるで断られた事などすっかり忘れてしまったかのような態度で彼から再び結婚を申し込まれた。
どんなに断ってもフロイドが諦めようとしなかったことにより、ローズハートに結婚を申し込んだらフロイドを敵に回すことになる。皆からそう言われるようになってしまい、フロイド以外の相手からリドルは結婚を申し込まれたことが無い。
(ボクから申し込めば良いのかもしれないけど、夫婦になっても良いと思うような相手が見つからないんだから仕方ないじゃないか!)
誰よりもルールを重んじているというのに未だに誰とも夫婦になる事ができずにいる事を気にしていたリドルは、溜息を吐くとその場を歩き出す。フロイドを置いて行くつもりであったというのに、彼に付いて来られるだけでなく話しかけられる。
「ねーねー金魚ちゃん。どうしたらオレと夫婦になってくれんの〜?」
「その服装と態度をまず改めるところからスタートするんだね」
絶対にフロイドにそれができる筈がないことが分かっていてリドルは言っていた。
「そんなんぜってー嫌だ」
「それならばボクと夫婦になるのは諦めるんだね」
「それも嫌だ」
聞き分けのない我儘な子供の相手でもしているかのような気持ちになり苛々しながら足を止めたリドルは、勢いよく体をフロイドの方に向ける。
「キミのせいでボクは未だに誰とも夫婦になる事ができないんだぞ! いい加減諦めてくれないかいっ!」
「金魚ちゃんを誰かに取られるとか絶対嫌だ。金魚ちゃんと夫婦になんのはオレじゃなきゃ嫌だ」
感情的になり大きな声を出したリドルに対してそう言ったフロイドの姿は、捨てられそうになっている仔犬を思わせるようなものであった。
相手は百九十センチを超えているリドルよりもずっと大きな男だ。そして、彼が食えない性格をしている事をよく知っている。それなのに、何故なのかフロイドを見て胸が締め付けられた。こんな気持ちになったのは初めてだ。
「ねえ、だからオレと夫婦になってよ?」
今まで何度も聞いた台詞であるというのに、まるで初めて聞いたかのような気持ちへとなる。そして、口から勝手に言葉が出ていた。
「そんなに言うなら仕方ない。キミと夫婦になってあげても良いよ」
「本当! やったー!」
リドルと夫婦になれたことを全身で喜んでいるフロイドを見て、リドルは小さく笑みを浮かべる。絶対に選ばない相手だと今まで思っていたというのに、今は悪くはないのかもしれないと思っていた。
夫婦といっても実際に夫婦になる訳じゃない。そう聞いていたリドルは、夫婦になった二人には性交渉が認められている事を全く知らなかった。それを知ったのは、フロイドと夫婦になった翌日のことだ。