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2024.02/29(木) TKWO Presents 課題曲コンサート2024

「東京佼成ウインドオーケストラPresents 課題曲コンサート2024」が、府中の森芸術劇場・どりーむホールにて開催された。「東京佼成ウインドオーケストラ」は、以下、略称の「TKWO」を用いて表記する。

はじめに

毎年恒例の課題曲コンサート

昨年も行った課題曲コンサート。今年で2回目となった。実際の所来ている学生は多く、課題曲の「勉強会」のようになりがちだが、個人的には「勉強会」ではなく「演奏会」として楽しめたらいいなと常々感じる。
前置きはこれくらいにして、本題に入ることとしたい。


コンサート概要

東京佼成ウインドオーケストラPresents 課題曲コンサート2024

曲目

【プレトーク】
・大井剛史&酒井格によるプレトーク
【初めの1曲】
・ポップ・ステップ・マーチ/森田一浩(1985年度)
【2024年度全日本吹奏楽コンクール課題曲】
Ⅰ 行進曲「勇気の旗を掲げて」/渡口公康(第33回朝日作曲賞受賞作品)
Ⅱ 風がきらめくとき/近藤礼隆
Ⅳ フロンティア・スピリット/伊藤宏武
Ⅲ メルヘン/酒井格(2024年度全日本吹奏楽連盟委嘱作品)
ーー休憩ーー

【課題曲、北から南から】
・北海の大漁歌/岩河三郎(1980年度)
・アイヌの輪舞/早川博二(1982年度)
・吹奏楽のための序曲 北の国から/服部公一(1967年度)
・吹奏楽のための序曲 南の島から ー沖繩旋律によるー/服部公一(1980年度)
・吹奏楽のための民謡「うちなーのてぃだ」/長野雄行(2010年度)
・コーラル・ブルー 沖繩民謡「谷茶前」の主題による交響的印象/真島俊夫(1991年度)

【アンコール】
吹奏楽のためのシンフォニック・ポップスへの指標/河辺浩市(1975年度)

出演者

指揮とお話:大井剛史
プレトーク:大井剛史&酒井格
客席にて:2024年度全日本吹奏楽コンクール課題曲・各作曲者

会場

府中の森芸術劇場 どりーむホール

座席

1階 12列 28番

感想

※2024年度課題曲について、曲順がⅠ→Ⅱ→Ⅳ→Ⅲとなっていることに留意されたい。

大井剛史&酒井格によるプレトーク

開演を迎えると、大井剛史氏がステージに登場。簡単な挨拶の後、酒井格氏がステージに登場し、盛大な拍手が沸き起こる。
このプレトークは、会場が都心から少し離れた「府中の森芸術劇場」であることを考慮し、都心で働くサラリーマンたちが19:00には間に合わずとも曲の演奏開始に間に合うようにという配慮があって行われている。
プレトークの最初は、「CDの宣伝」から始まった。
タイトルは「酒井格作品集」。TKWOと正指揮者(2024年4月より常任指揮者就任予定)の大井剛史氏による演奏で、「たなばた」をはじめとする酒井格氏の名曲たちが詰まっている。3月6日発売開始予定だが、会場にてその先行販売が行われた。「現代はストリーミングサービスが羽振りを利かせているものの、CDにしかない良さも是非味わってほしい」という話や、他にも大井氏の"CD愛"が印象的だった。

引用:TKWO公式HP

曲については、当然のことながら「メルヘン」の話がメインであった。
以下、Q&Aの形で大まかな内容を示したい。

Q. 今回の「メルヘン」は委嘱作品(連盟の依頼があって作曲したもの)だが、どの程度細かい指定があったのか。
A. 編成・時間(3分~3分半)・音域の指定のみ。比較的自由にやりたいことをやらせてもらった。

Q. 目指したところは?
A. 連盟からの電話で切り際に「みんな『たなばた』が好きです」と言われた。自分にとって「たなばた」は、自分のやりたいことをかなり自由に書いた曲なので、今回もそのようなつもりで書いた。

また、2つの主題があるという話が出た際には、それが2人の人物を表していて、その2人の関係性で進んでいく1つのストーリーのようだ、と大井氏は語った。

Q.「メルヘン」というタイトルの由来は?
A.委嘱を受けることが決まった際、昨年の委嘱作品「レトロ」にちなんで「メトロ」にでもしようかと思ったけどさすがにやめた。
「メ」から始まる言葉で何かいいのはないかと探していたとき、「メルヘン」という言葉を思い付いた。
そしてその「メルヘン」という言葉をイメージして曲を書いた。

つまり、曲よりもタイトルが先だったらしい。また、「酒井さんの音楽自体が『メルヘン』のようですよね」と大井氏は語った。

Q.「メルヘン」というタイトルが、具体的にどのように作曲に影響したのか。
A.「メルヘン」とは日本語で「おとぎ話」。
色々な場面を想像できるような曲を書いた。またコンクールの曲であるから、スクールバンドの人たちのモチベーションを上げられるように、というのも考えながら書いた。
また、ただメロディーに注目するだけでなくハーモニーの移り変わりなどにも興味を持ってもらえたら嬉しい。

Q.他の3曲についてどのように見ているか。
A.
Ⅰ:いつでも使えそうな明るいマーチだと感じた。
Ⅳ:Ⅰと同じくマーチであるものの、こちらは式典的でゆったりした部分もあり、色々な工夫で印象を変えられそう。
Ⅱ:非常に美しい旋律。「管楽器の良さ」が磨ける曲。

【感想】
去年の天野正道氏とのプレトークに比べ、各課題曲についての話が少なかったように思うが、「課題曲コンサート」は演奏会であって別に勉強会ではないのだから、各曲の分析などよりも、大井先生のCD愛や、酒井先生の作曲に至るまでの裏話などが聞けた今回のプレトークはとても楽しかった。

ポップ・ステップ・マーチ(1985年度D)

以前、式典の入退場用に課題曲マーチを演奏する機会があり、その選曲の際に耳にしたことがあった。作曲は、森田一浩先生。2021年に惜しくも亡くなった、日本の吹奏楽界の名作曲・編曲家だ。大井先生は、数年前に1度だけ森田先生に会われたことがあるようだ。ちょうどこの「府中の森芸術劇場 どりーむホール」の2階前方で、吹奏楽コンクールの審査員として対面されたようだ。「お会いするのは初めてだったのですが、非常に優しく、温かい方で~~」と故人を偲んでいた。

久々の大井先生の指揮。生で見るのは1年前の課題曲コンサート2023以来となった。メリハリが非常にはっきりとしていて分かりやすく、素敵な指揮だ。

【2024年度全日本吹奏楽コンクール課題曲】

行進曲「勇気の旗を掲げて」(2024年度Ⅰ)

オーソドックスな課題曲マーチ。作曲は渡口公康氏。同氏は2011年の課題曲「南風のマーチ」の作曲者でもあり、「南風」のほうは自分の所属する団体でも近々演奏機会がある。

風がきらめくとき(2024年度Ⅱ)

何と言っても美しい旋律が特徴的で、全体的にゆったりした曲という印象ではあった。その中でもメリハリがはっきりしているのは流石だなと感じた。

フロンティア・スピリット(2024年度Ⅳ)

Ⅰ番のマーチとはまた異なった曲調のマーチ。コンサートマーチの色合いが強く、単調でなくて非常に面白みがある。

メルヘン(2024年度Ⅲ)

「The Seventh Night of July」(たなばた)でお馴染みの酒井格先生の作曲。今年の委嘱作品である。序盤から現れる酒井節。指揮者も奏者も抜群に楽しそうで、大井先生も跳んだり踊ったりしていたのが非常に印象的だった。

【課題曲、北から南から】

北海の大漁歌/岩河三郎(1980年度C)

この1980年は全作品が委嘱作品という異色の年である。また4曲中3曲が和物という年だった。
Aが小山清茂氏(「木挽歌」で有名)作曲の「吹奏楽のための『花祭り』」、Bがが服部公一氏作曲の「吹奏楽のための序曲『南の島から』」(後に登場)、そしてCがこの岩河三郎氏作曲の「北海の大漁歌」だ。

この曲ではソーラン節などの有名なフレーズが登場し、また大井先生も語った通り「1,2/1,2」という2拍子進行が非常に分かりやすく、取っ掛かりやすく客側も楽しめる曲調になっている。良い課題曲は、40年経っても良い課題曲だ。

アイヌの輪舞/早川博二(1982年度C)

こちらも北海道、中でもアイヌの民謡を基にした一曲である。
前半で現れる主題「レーラー/ソーラシ♭ラーソー/」はどこか伊福部昭氏「シンフォニア・タプカーラ」の第1楽章を彷彿とさせる。「シンフォニア・タプカーラ」もまた、アイヌの踊りを基にした作品であり、というより"タプカーラ"という言葉自体が"踊り"という意味を持つアイヌ語なのだ。
アイヌ民族系の音楽は個人的にかなり好みかもしれない。

吹奏楽のための序曲 北の国から/服部公一(1967年度中学校の部)

前半、高音木管「レッレドラッラド/レッレドラドラド」の連符を続けるところでハーモニーがD-MollとG-Durで行き来するところが好き。同じDの音を吹いていても"D-Mollの根音"と"G-Durの5音"と立場が変わるのだ。

それはそうとして、これほど昔の課題曲は1曲も聴いたことがなかった。1967年と言えばもう55年以上前になる。やはり曲調も何となく古さを感じさせるものの非常に乗れる曲調だった。

スコアの方で「太鼓という太鼓はとにかく叩け」みたいなことが書かれているらしく、そればかりか「指揮者がそれに加わるのも良い」という記載まであったようだ。大井先生もその指示に従って、前でバスドラを叩くという貴重な機会を見ることが出来た。そのために大井先生が指揮代を離れる少しの間は、Clパート新人の方が代理で指揮を務められた。なかなか聴き応え&見応えのある曲だった。

吹奏楽のための序曲 南の島から ー沖繩旋律によるー/服部公一(1980年度B)

「北の国から」と同じく服部氏による作。この曲にもまた面白い要素がある。それは何かというと、曲の途中に"掛け声"が入るということだ。
実は今回のプログラム、コロナの影響を受けて当初の予定から延期されてようやく今回実施できたようなのだが、コロナ禍でこのプログラムを実施できなかった理由が、この"掛け声"の存在であったそうだ。
同じ作曲者でありながら、また同じ日本国内を描写していながら、北海道と沖縄で曲調から音階の使い方からまるで違うということに、非常に驚いた。2曲連続で聴いたので尚更であった。

吹奏楽のための民謡「うちなーのてぃだ」/長野雄行(2010年度Ⅲ)

TKWO課題曲コンサートにて大井先生は、演奏する曲の作曲者に可能な限り連絡した上で、なるべく会場で聴いてもらうように心掛けているらしい。
その年度の課題曲の作曲者は基本的に全員揃うことになっているが、過去の課題曲の作曲者もなるべく呼ぶようにしているらしい。
先述の「ポップ・ステップ・マーチ」作曲者の森田一浩氏は故人、また「北の国から」「南の島から」の服部公一氏はご存命であるものの卒寿を迎えており、来るのは厳しかったとのことだった。

この「うちなーのてぃだ」の長野雄行氏については連絡先が分からず、諦めていたらしい。そんな中で大井先生が、本番前日に長野氏の下の名前の読み方が分からず検索したところ、なんとTwitterに行き着き、その上「課題曲コンサート、当日券を購入すればいいのか」というようなツイートを発見したそうなのだ。そこで大井先生が「長野さんいらっしゃいましたらお立ち頂けますか」と言うと、なんと1階中央ブロック後方で1人の男性が立ち上がったのだ。そして彼こそが「うちなーのてぃだ」の作曲者・長野氏だった。非常にアツい出来事だった。

非常に南の方の雰囲気にふさわしく、陽気で楽しい曲だった。作曲者ご本人がトロンボーン吹きということもあり、金管がカッコいい印象が強いが、木管の軽快な響きも素晴らしく、非常に気に入ってしまった。
Cbパートの方が沖縄の出身だそうで、フレーズの作り方なども厳しく指導を受けたと大井氏が語った。

コーラル・ブルー 沖繩民謡「谷茶前」の主題による交響的印象/真島俊夫(1991年度B)

この曲は、本番では参加しなかったものの合奏に参加した経験があったので比較的よく知っており曲に入り込むことが出来た。
途中にあるDes-Durのところのオーボエのフレーズが前から本当に大好きで、今回も本当に素敵だった。
流石、真島俊夫先生。

【アンコール】

吹奏楽のためのシンフォニック・ポップスへの指標/河辺浩市(1975年度D)

「高度な技術への指標」に比べると知名度は落ちるが、本当に素晴らしい曲だった。「高度」とはまた違った曲調で、特に中間部は舞曲のような雰囲気だった。
アンコールにしてはゆったりした曲調の作品を持ってきたな、と思いつつも華やかで楽しめる曲だった。

おわりに

休憩時間に撮らせて頂いた酒井格先生とのツーショットは一生ものですな。
もちろん今年の課題曲を聴けたのは良かったが、それ以上に「北から南から」というコンセプトが非常に面白かったですね。これを機に様々な民族音楽にもっと触れたいと感じました。それぞれの国や地域に、それぞれの民族性があり、文化や風習、宗教があって。そういうものが音楽にも現れるというのはとても面白いことだし、逆に音楽を聴くことでその国・地域の文化を感じることができるというのもすごく素敵なことだと感じます。そんな民族音楽にもっと触れていけたらなと改めて感じさせられた、最高の2時間でした。

ちなみに当団では様々な話し合いの結果、今年はⅣ「フロンティア・スピリット」を演奏することになりました。頑張っていきたいですね。

※大部分は1カ月前に書き終えておりましたが色々あって公開が遅くなりました……。

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