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AIの落としどころは「物知り」か。
2022年に画像生成AIやChatGPTが公開されて以来、「AI」はある種のバズワードとなりました。書店コーナーでは「ChatGPTを使いこなす」といった名目の本を多く見かけます。
国会図書館で蔵書検索したところ、「ChatGPT」を含む書籍は2023年に451冊出版されており、「AI」を含む書籍も2022年から2023年にかけて出版数が400冊以上増加しています。
これはAIに対する期待のあらわれである一方で、AIをどう使えば良いか分からない戸惑いの裏返しでもあります。実際、ChatGPTの認知度72%に対して利用は20%に留まっています。
私は情報学科の学生であり、ChatGPTをはじめとした生成AIを頻繁に利用します。利用を通じて、このテクノロジーに高いポテンシャルを感じる一方で、システムとしての組み込みづらさも痛感します。同じことを尋ねても違う答えが返ることがある、入出力が従量課金制である…こんなじゃじゃ馬テクノロジー扱いづらいにもほどがあります。
また、高い汎用性も使いづらさにつながります。ChatGPTは開いたとたんに自由入力を求めます。レコメンドでユーザーに魅力的な作品を並べるNetflixやTikTokのようなプロダクトとは大違いで、ユーザーに求める思考カロリーが高すぎます。
ここまでを踏まえると、ChatGPTのような生成AIを有効活用するためには「用途を絞る事」が必須だと感じますね。
ということで「用途を絞った」実際の活用事例について調査してみましょう。今回は東京ガスグループのコールセンター効率化の取り組みについて掘り下げます。
このコールセンターでは、対応事例を蓄積して学習したAIによる音声認識と検索アシストによってオペレーターの業務をアシストを実現しました。このAIツールによって、オペレーターの単独解決率が14%向上し、情報の検索が平均10秒短縮したそうです。
オペレーターは喋って対応するだけで、顧客情報や対応事例がサジェストされます。対応困難に思えるケースでも、過去に誰かが上司にエスカレーションした事例をその場で参照して対応できるようになります。まさに痒い所に手が届くAIアシストが実現しています。
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このシステムは「用途を絞る」(というより具体化する)ことによって実のあるAI実装を実現した模範例のようです。用途を絞ることのメリットはいくつもありますが、コストのメリットは特に大きいでしょう。
このシステムによるIT化の主な点は
・顧客対応データを保存
・保存されたデータをAIでタグ付け
・音声を文字起こししてAIで検索アシスト
です。この中でAIが使われている部分はいずれもタグ付けにとどまっており、自由文章生成ではありません。であればもしかすれば、このシステムに用いられているのはChatGPTのようなLLM(Large Language Model)ではなく、もっと簡単な形態素解析などで実装されているかもしれません。そうであれば利用コストは大幅に削減されます。よく見ると、このシステムの導入は2022年8月4日で、ChatGPTのリリース前です。さらに言えばこの時期は4oというかなり安めのLLMが公開される前ですので、現実的にこの用途ならLLM以外の技術の可能性が高そうですね。
だとすれば「ChatGPTのような生成AIの使い道」から出発したこの話が「生成AIではないシステムの使い道」に着地してしまったことになります。切ないですね。とはいえ、東京ガスカスタマーサポートは今後の展望としてAIによる問い合わせ対応を目指しているそうで、今度こそ生成AIが活躍できそうです。
その時活躍する生成AIは、過去の対応データや業務情報をインプットしている「物知り」として、顧客の悩みを解決するでしょう。生成AIの悩みどころはハルシネーションと呼ばれる誤情報であり、これは不確かな新出語句などにみられます。これを避けるには、対応範囲で確かな専門情報を学習させた専用AIを作るのが妥当です。その意味で、このような活用法は非常に理にかなっています。かなっているのですが、個人的には物足りなさを感じます。
なぜならば、過去の事例や顧客情報と業務情報の組み合わせで対応可能ならば、極論、AIのような不確かさを介在せずとも場合分けの連続で実現可能だからです。現在でも、サポートセンターに連絡したら自動音声ガイダンスで番号入力を促されます。その要領でよりユーザーフレンドリーにしていけば、AIによるオペレーションは一定可能だと感じます。逆に、AIを使ったオペレーションシステムでも、その程度が関の山になりそうな懸念もあります。
生成AIの魅力はやはり「生成」であり、新たなアウトプットです。プログラミングでは大活躍しますし、要約や翻訳、記事作成など、新しい文章を生成することにこそ本領があります。AIをきっかけに「物知り」なシステムを構築することは今後の拡張性含めて大きな価値がありますが、生成AIのポテンシャルを完全に引き出すシステム,プロダクトは「物知り」を超えたものであってほしいと思います。
参考: