見出し画像

不確実な世界で求められるアート思考 -エピソードゼロ-

現在の社会環境や個人のキャリアを取り巻く状況を説明するキーワードとして「VUCA」というキーワードがよく聞かれます。実際、VUCAという言葉が示す不確実な時代に突入しているわけですが、闇雲に「不確実な時代がやってきた」という不安を煽る言葉に振り回されてはいけませんし、確実なものは無いのだからどうしようもないのだ、と思考停止してはいけないのです。
不確実な世界を生きるためには、何がどう不確実なのかを分解して理解し、どう対処すべきかを考えて、周りに振り回されない自分の軸を作りましょう。

■何が不確実なのか?

さて、ではまず、「VUCA」という言葉を分解しましょう。
VUCAは変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、そして曖昧性(Ambiguity)の頭文字からきています。VUCA(ブーカ)という言葉は、2016年頃から世界の経済議論で使われはじめ、ここ数年ではあらゆるビジネスや生活シーンでも今の世の中の現状を表現するために登場し、企業や個人のこれからの生きかたを考えるためのキーワードとなっています。
技術の発展によってあらゆる情報がものすごい速さでぶつかりあって複雑性を持ち、便利な移動手段によってあらゆる人やモノ(ウィルスさえも)が入り乱れ、地球温暖化による気候変動によって想定以上の災害に見舞われていることは誰もが身をもって実感しています。この状況が「VUCA」という表現に籠められているのです。

■不確実性のレベルを知る

その中で特に「不確実性」とは、例えばコロナウィルスなどの未知の事態、過去最大と言われる豪雨や大地震による自然災害、在宅勤務や終身雇用制の崩壊など、「想定外」な状況のことで、根本的な解決策は見いだせないまま今目の前にある事態に対処療法を施すのが精いっぱいとなってしまっています。
そして今、不確実性の高い事象が増えてきています。この不確実性について、段階的に整理をしてみましょう。

【不確実性の第1段階:シンプルな課題】
まず、問題の因果関係・構造が明確なもの。例えば「突然電気がつかなくなった」というような事象を指し、原因と解決策がわかります。こういった課題は、例えばブレーカーを上げたり蛍光灯交換したりすることで解決し、頻出するようなら電気利用料や契約内容を見直す、など課題を改善・解消をすることができます。
解決までの行動は、問題に気づく(電気が消えた)→分類する(蛍光灯ランプの寿命?他の電気も消えていたらブレーカー?)→対応する、です。
いつ電気が切れるかわからなくても対処方法が分かっていれば予防措置もとれるし不安も抑えられます。

ちなみにここでいう「分類」ということはその人に取って解決策がいくつかパターン化されていて、そのいずれかで解決するものです。自分の分類パターンになければ次の段階になります。

【不確実性の第2段階:煩雑な課題】
次に一人では解決できずに専門家の力が必要な時でも必ず正しい答えがある課題を指します。ケーキを作ってみたけどうまく膨らまない、パティシエに相談したら泡立て方に問題があったことに気付けた、インターネットで検索したら問題と対策が分かったなど自分以外の力によって解決できる課題です。
この課題の解決までの行動は、問題に気づく(ケーキが膨らまない)→原因を分析する(泡立て方がおかしい)→対応する、です。
「分析」というのはそのままでは答えが見つからない物事を分解して、それらを成立させている手順や要素を分けて問題を特定することです。分析するスキルがあれば時間がかかっても解決できますが、スキルが足りなければ専門家の力を借りて解決します。

しかし原因が1つとは限らなかったり明確でなかったりする場合、特定のスキルだけで分析しても解決できない場合があります。

【不確実性の第3段階:複雑な課題】
3つ目は、因果関係では明確ではないうえ、分析では明らかにできない、いわゆる試してみないとわからない問題です。
自社サービスの売れ行きが悪くなった場合、営業の売り方に問題があるのか、お客様のニーズが変化したのか、他に魅力的なサービスが出てきたのか、分析だけではせいぜい仮説しか出せません。そのためお客様へのアンケート調査や、市長調査等を行い、その結果から気づいた事象に対する対応を実践していきます。それでも調査した環境や人の気持ちは時々刻々と変化しますので、投入した対策が功を奏するかは試してみないと分かりません。

【不確実性の第4段階:混乱の課題】
一番やっかいなのは原因と結果に因果関係が見えない、もしくは、突発的に発生した問題にすぐに対処しなくてはならない事象です。
今起こっているコロナウィルスの問題がまさにそうですし、地球温暖化や雇用制度の崩壊問題も徐々に加速しています。
コロナウィルスの発生や観測記録を打ち立てる猛暑、早期退職制度等、困った結果は目に見えているのですが、その原因がはっきりわからない、もしくは複合的な原因であるためになかなか根本対策を取れず、その場しのぎの対処療法をとるしかない状態です。
この場合の多くは、何がゴールかの定義も曖昧なため課題からの脱却に非常に長い時間を要します。

そして、このように根本原因が不明でゴールが不明確で、かつ課題の状況も変化するという、より不確実性の高いものが増えてきています。
この正解のない課題に対して、従来の大量のデータ分析や高度な計算システム、優秀な有識者だけではもはや解決できません。

唯一絶対の解がない以上、方向性を定めながら進むべき道筋を整え前進するためにアート思考の考え方が必要となります。

■カオスな問題解決に活かすアート思考

アート思考は手順がはっきりした方法論ではありません。抱えているモヤモヤ(クリエイティブカオス)に向き合い、一つ一つの答えを考え続けていくものです。特効薬的な答えを得られるものではありません。
ゴールの条件が明確であれば、それに向かって計画し、タスクに落とし、途中のプロセスや計画の達成状況を評価すればいいのですが、不確実性な課題に対しては正解もゴールもありません。このような不確実な世界でどのようにアート思考を活用すればいいか、4つのステップで説明します。

【観察する】
何かモヤモヤする事態、正しい答えが見つからないと思った時、まずは対象にしっかり対峙しトコトン観察します。
観察とは、事物の現象を自然の状態のまま客観的に観ることであり、なんとなく見ているだけでなく、表面だけみて安易な判断をしないよう、正しく観察しましょう。

【思考する】
観察しながら、どうしたいかの方向づけを行います。ゴールが見えなくても構わないし、思いついたところまでで結果がでなくても構いません。大事なのは確信ある答えより少しでもクリアにできそうな方向性を見極めることです。
ここが一番難しいところかもしれません。人は様々なことを学ぶと自分の意見に自信が持てなくなったり、確証バイアスで正しくない考えに辿り着いたりしてしまうことがあります。
一人で思考をうまく進められない時は、貴方の考えに寄り添って思いを引き出してくれるファシリテーターに頼りましょう。正解はないのですから専門知識のある人に教えを請う(ティーチング)ことではありません。

【何をするか決める】
その方向性に一歩でも前進するために何をするかを決めます。決めたことを言語化したり誰かに伝えたりすることで具体的に決めます。
小さくても、他から非難されてもまず自分が納得する行為を決めてみましょう。

【実行する】
そして小さくても、行動してみましょう。むしろ小さくてもいいので早くなんらかの変化を起こすことが重要で、結果を出すことが目的ではありません。ですから失敗しても良いのです。ただ、失敗に引きずられないことが大切です。

■カオスをそのままにしない

ここで登場する混沌(カオス)とは、いわゆる「モヤモヤ感」です。とりあえず解決をさせても何かスッキリしない、アイデアは出たけれどなんとなく腑に落ちない、といった状況です。しかしそれは『クリエイティブカオス』といって誰も思いついたことのないような創造的なアイデアを出すためになくてはならない重要な流れの一部です。
過去に解決したことがあるものや、ルールどおり発散して収束させれば出来上がるものを導き出すわけではないので、どのようなものが産まれるかも定かではなく、出てくるアイデアが正しいかは誰も判断できません。

しかし、正解を見つけるのがゴールではないのです。そしてこれがちょうど今のVUCA時代に求められているのです。
正解のない時代がやってくることに不安を覚えなくていいのです。正解を模索するのではなく、目指すベクトルを見据えながら適宜整えていくのです。
幸せになる、というゴールを目指すのではなく、「幸せであり続ける」ことが大事になります。

クリエイティブカオスを見つけた時がチャンスです。楽しんで活用しましょう。

【参考文献について】
迅速かつ適応的にソフトウェア開発を行う軽量な開発手法群の総称である「アジャイル開発」という概念が、ソフトウェア開発だけでなくVUCA時代のモノの考え方にも活かされると思い、関連して見つけた以下のフレームワークを自分なりに咀嚼し整理して書いたものが今回の記事となります。
<カネヴィンフレームワーク>「不確実な世界を確実に生きる ― カネヴィンフレームワークへの招待」 コグニティブ・エッジ (著), 田村 洋一 (著)
<OODA>「OODA Management(ウーダ・マネジメント): 現場判断で成果をあげる次世代型組織のつくり方」 原田 勉 (著)

いいなと思ったら応援しよう!