【古代戦士ハニワット】埴輪土投票結果。矢立卓留前編、父と走った54分。
埴輪土どれがすき?
*『古代戦士ハニワット』8巻までのネタばれあり記事です。*
先日ちょっと思い付きでハニワットに出てくる埴輪土のTwitter投票をしてみました。今までに出てきたメイン埴輪土がちょうど4種類だったので、4択のTwitter選択肢に当てはめてみました。今回はこの結果に対して考察してみます。
武富先生もご参加くださいました。ありがとうございます!
そして結果はごらんの通り……
1位 ハニワット・フル(布留式)28.8%
2位 ハニワット・カヤ(伽耶式)27.3%
3位 ハニワット・カンラ=タゴ(多胡・甘楽の埴輪土)25.8%
4位 ハニワット・サカ(沙伽の埴輪土)18.2%
みなさんの好きな埴輪土はどうでした?結果は意外でした?ぼくは結構意外に感じました。現在アクション本誌連載中の戦いでメインに描かれているサカがもっと人気になるか、主人公のカヤがぶっちぎりかと思っていましたが。再起戦が控えているとはいえ、一度敗れたフルが一位とは…
いやあ~フィールドワークって大事だなあ~
個人的には、名前とカットだけ出ている「神武天皇の埴輪土」やサカの元になった「伝説の埴輪徒の勇者の埴輪土」さらに「躃車換装したフル」などマイナーな埴輪土の差異も含めた拡大版の人気投票もしたいです。アクション本誌連載分には単行本でまだ語られていないファン垂涎の埴輪土のなまえもこのほかにいくつか出ています。2部が終わったら、年末に向けてつくるつもりの同人誌でキャラクターや埴輪土などの人気投票がやれないか今軽く相談しています。
人気って実はいろいろ「込み」なの?
しかし改めてフルが人気なのは驚きました。もしかしたら躃車型もあったり、破壊、修理、そして改造を経て再起を図るストーリーとか、周辺の要素も含めての人気だったのかもしれませんね。初めの搭乗者の仁も敗れはしましたが、性格はむしろ熱血だしある意味ロボットものやヒーローもの正統派の主人公っぽかったのもよかったのかもしれません。そのあとにフルの搭乗者に決まった清高も粘り強いメンタルのファイトが評価されるという現実的にはいちばん頼りになるタイプの搭乗者なので、そこらへんも「込み」で人気が決まってきているのかもしれませんね。
そう考えると結構合点がいくことがあります。
投票中、コメントが多かったのは実は「タンゴ=カラ」についてでした。そもそもほとんど人気は拮抗していますが、(Twitterのフォロワーのみなさんは)3位のタンゴ=カラに対してのコメントばかり。そして「タンゴ=カラ」の搭乗者である「矢立卓留」について多くコメントが寄せられてました。矢立卓留もまた、いろいろ「込み」で人気になったキャラクターだと思うのです。卓留の人気の謎をちょっと考察してみましょう!
矢立卓留の人気がすごい。
卓留、いや「兄さま」の出てくる妙義横川と榛名大社の話は、ハニワットという作品のテーマをこれでもかとおっきりこみにぶち込んで濃縮したあと直接腹から吐き散らかしたかと思うほどの最高に面白いパートだと思っています。
個人的には自分に年も近い兄さまの「カッコ若い中年像」がもう死ぬほど刺さりました。これ、親友と一言だけ出てきてますけど、卓留の友達とか弟か兄がはっきり描かれていたら絶対コミケでBLが流行……
とにかく、徹底的に「幸福な普通の生活」を奪われる卓留の人生。それは普通の尺度で測れば超高純度の「悲劇」だと思います。
人生をかけて埴輪徒になる訓練をして……遅れた青春を取り戻し……後進の育成に励みながら、等身大の恋をして家庭を持とうとする。その不器用さ、そして誠実で好人物な言動。さらに三人の主巫女との、語られないけど過ぎ去った結構甘酸っぱさもあったっぽい青春時代の面影。とどめは母さんのおっきりこみに、父さんの車。
54分のドライブ
卓留関係は素晴らしいエピソードの目白押しなのですが一番気に入っているのがこのエピソードです。そう!子供の頃ってお父さんとかお母さんが運転してるんですよ!その車に乗せてもらうのが子供の頃の「ドライブ」ということなんです。でも大人になったら乗らなくなってしまう。
しかし卓留は免許取ってからずっと親父の車には乗らなかったという。39歳ずっと地元実家で暮らしてるわけだからそれでも普通は一度くらいはなんかの用事で親父の車に乗ることなんかあるでしょう。
でもなかった。乗らなかったというのは卓留がバイク好きっていうのもあるけど、卓留なりに父親と距離をとったという事の証明なのではないでしょうか?
あの常に渋柿噛んでいるような苦みばしった顔の卓留の父、榛名国造矢立家1400年を「相……承り申す……」って飲み込んじゃったような親父さんの元、使命を背負わされて訓練漬けだった少年期、青年期はどれほど親父さんとの「距離感」について悩んだのでしょう。
しかし卓留は幼稚な反抗はしなかったのかもしれません。頭もよさそうですし、彼もまた自分の使命を全てを粛々と受け入れ生きた。また父親の愛をも理解していたでしょう。その彼がたった一つか二つしたささやかな「自立」が家族旅行の時に親父さんの車に乗らないという事だったのです。多感な時期の彼のとりうるギリギリのわがまま、秘密の自由意志が「家族旅行の時も一人でバイク」だったのです。
そんなエピソードたったの2コマでぶっこんでくるし……
更にここで染み入るのが、小さいころ親父の車に「乗った」記憶とともに、この「乗らなかった」記憶が語られるということです。
父親の車に免許取ってからずっと「乗らなかった」ことも含めて
「なつかしいや……」と! 読める!!
まてよ!ちょっとまってくれ!!
「親父とのドライブ」でこんなに泣かせる、かつ技巧の鬼みたいな表現の漫画ある!?しかも情緒的なシーンを押しつけすぎることなく、サッと流して江戸っ子がそばをそばつゆに漬ける「ああ~まって!あともうちょっと味わいたかった!」かのごとき疾走感。
寂寥も!思い出も!彼の人生に対する思いも!一緒にこの車でおやじさんと短い時間走ってるんだよ!卓留兄さまとパッパのドライブの間!しかも榛名大社から妙義岳神社の間のわずかなドライブの間だけ!!コマにしてたったの3コマ!!コマも高速で走り去っていく悲しみ。
時間にして!!正味54分!!(NAVITIMEしらべ)
うおおおお!た、武富先生っっ
その54分の間に、卓留兄さまとお父様はしっかりと、親子の関係を全うしたんですよね!?責任と愛情に翻弄された互いの傷を、お互いに静かに癒して修復できて妙義岳神社についたんですよね!?
いや、もしかしたらそんなことはかなわなかったかも。
一言もお互いしゃべらなかったかも。たくさんの思いを胸に秘めて、互いに生存、いや必勝の思いにだけ集中して、妙義岳神社についたのかもしれません。
だって必ず勝つなら!必ず蚩尤を収めて生きて帰るなら!今生の別れじゃないと思うからこそ、お互いに決戦の前に湿っぽいことを言うのは不合理だし、パフォーマンス下がるから!
あるいは。
卓留は子供の頃のようにひたすら親父さんの運転する車の振動に身を任せて、しばし眠ったのかもしれません。無邪気な、子供の頃父の車に乗せてもらった時を思い出しながら。この時間を永遠にとどめておこうと惜しみながら。
そのたった3コマ、54分の間に様々な人間矢立卓留に対する寂寥が沸き起こってきます。そういう沢山のヒューマンドラマが入ったキャラだからこそ矢立卓留は読者に好かれるのでしょう。
そう「人間」としては…
みなさま、読んでくださってありがとうございました。
じつはこの記事は3月に書いていたのですが、ずっとお蔵入りさせていました。
少し書き足したい部分があったからですが・・・
今日Twitterのハニワットファン@mappappiさんの卓留愛をぶちまけた一人スペース「ハニヒトリ」を聞いていて、ぼくも卓留愛が暴発して放流してしまいました。
とりあえず小さく供養していこうと思いました。