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忘れたくないこと
忘れてしまいたいことより、忘れたくないことの方が増えてきているような気がする。
忘れたくないこと。
いつまでも僕の中に留めておきたいと思うのだけど、どんなに印象の強いものでも気づけば忘れていってしまう。日記にでもしようかと思うけど、それまで余韻が残っているか怪しい。それに、文字に起こした途端に確かにあったはずの感動が薄れていってしまうような気がするから。一度自分から離れてしまった思いは、もう二度と前と同じ形で掴み取ることができない。だから、手放したくないと思ってしまう。
でも、脳のキャパはそんなに多くない。
僕は記憶を取捨選択していかなくちゃならない。
それなのに。
最近、その選択でさえままならなくなってきている。忘れたくないことが多すぎる。多すぎてパンクしそうだ。
あのとき。
あの場面。
あの一瞬。
心を打ったこと。
感じたこと、受け止めたこと。
考えたこと、悩んだこと。
酸いも甘いも、総て。
総て忘れないでいたい。忘れたくないのだ。
脳に直接刻み込みたいほど、繋ぎ止めておきたい思い出がある。情景がある。言葉がある。でも、言葉に残すのが怖い。そうすることで失われてゆくのが、とても怖い。
そうこうしているうちに、記憶は徐々に薄れてゆく。そう、何もしなくったって、記憶は段々と霞がかってゆく。気がついたときには手遅れ。そんなことだってざらにある。
分かっている。
分かってはいるけど、今は手元に置いておきたい。いつでも取り出せるような引き出しにしまっておきたい。忘れてゆくことに焦燥を覚えながら、それでも僕はまだ手放せないでいる。
いつか、訪れる確証はないけれど、
いつか、握り締めていたものを手放せるほど、僕が記憶に縋らなくてもよくなったら、この記憶をどこかに託そうと思う。
それまで、忘れないでいたいな。