特別な夜|遥と彩 - vol.5
クリスマスの夜、街は柔らかな光に包まれていた。色とりどりのイルミネーションが瞬き、冷たい冬の空気に溶け込むように漂う音楽が耳に心地よい。遥と彩は、並んでその輝きの中を歩いていた。
「すごいね、人、多すぎるね」
遥が少し驚いたように口を開く。
「そうだね。でも、こういう賑やかな場所って案外嫌いじゃないよ。」
彩はふんわりと微笑みながら、遥の方をちらりと見た。
「...特に、今日は。」
その言葉に、遥の胸が軽く震えた。彩と過ごすこの時間が、まるで透明な膜で守られているかのように感じられる。
二人は小さな広場にたどり着いた。そこには、巨大なクリスマスツリーが立ち、青白い光が天高く伸びていた。彩はツリーを見上げながら、ふと話を切り出した。
「ねえ、遥。『安達としまむら』で、クリスマスの話覚えてる?」
遥は頷きながら、笑顔を浮かべた。
「うん、安達がしまむらにチャイナドレスで会いに行った話でしょ?すごく安達らしいって思った。」
「で、プレゼントが『レジェンド オブ アフリカ』だよね。紅茶なんだけどなんかインパクトあった。ふふ。」
彩もくすくすと笑った。
「しまむらがあげた『ブーメラン』もさ、もう少しまともなの選んであげて~って、笑っちゃったよね、まぁホントは、永藤が選んだんだけど。」
遥も笑いながら続けた。
「でもね、物語が進むにつれて、あのブーメランに入間先生は暗喩的な意味を持たせたんじゃないかなって思うんだ。だって、しまむら最初の頃は結構そっけなかったのに、どんどんね、あれだったでしょ。」
彩は軽く頷くと、バッグから小さな箱を取り出した。
「私もさ、ちゃんと考えてきたよ、遥へのプレゼント。」
遥は少し驚きながら、彩の差し出した箱を受け取った。
「えっ、彩が?なんだろう…。」
中を開けると、そこには小さなガラス細工のネックレスが入っていた。
冬の星空を閉じ込めたようなデザインに、遥は息をのむ。
「...綺麗。これ、私に?」
「な、なんか遥っぽいなって思ったから。あっ、もしかしてブーメランが良かった?」
彩は照れくさそうに笑った。
「でも、すごく悩んで選んだんだよ。」
遥は感動しながら、慌てて自分のバッグから彩へのプレゼントを取り出した。
「実は、私も準備してたんだ。」
箱を開けると、中にはふわふわの手袋が入っていた。
「彩、移動中でもよく本読んでるでしょ、そんなとき手が冷たそうだったから…。」
彩は箱を手に取り、目を輝かせた。
「これ、すごくいい!本読むとき手が冷えるんだよね。ありがとう、遥。」
その後、二人はツリーのそばのベンチに腰を下ろした。寒さを忘れるほど、二人の間には穏やかな空気が流れていた。
「彩...。」
遥が小さな声で呟く。
「ん?」
彩は振り返り、その目が遥の心を見透かすように優しく見つめる。
「彩は...私にとって、とにかくあたたかいものなの。私の胸に流れるあたたかい液体みたいで…。彩と一緒にいると、それがどんどん溢れてくる気がする。」
彩はその言葉に一瞬驚いたようだったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
クリスマス前夜の安達の独白!?って思ったけど、遥の真剣な眼差しに
「そんなふうに思ってくれてるんだ…、ありがとう...」
遥は意を決して続けた。
「だから…これからもずっと、一緒にいてくれる?」
その問いに、彩は少しだけ目を伏せ、優しく微笑んだ。
「うん…。でも先のことなんてさ、誰にもわかんないよ...」
曖昧な返答に、遥の心は少しだけざわついたが、彩のその笑顔に、何も言い返せなかった。
「......。」
ツリーの光が消える頃、二人は再び街の中へ歩き出した。雪がちらちらと舞い降りる中、遥は彩の隣を歩くその瞬間を、ただ大切に抱きしめていた。