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高校時代の残像|遥と彩 - vol.2

遥は、画面越しにフォーラムの投稿を眺めながら、懐かしい記憶を思い返していた。『安達としまむら』は、彼女にとって特別な物語だった。ただのフィクションではなく、どこか自分の高校時代を重ねてしまうような、不思議な引力を持つ作品だった。

高校時代、遙には密かに想いを寄せていた人がいた。でも、彼女の心の奥底に沈むその記憶は、いまだに誰にも語られたことがない。「私なんかが好きになったところで、相手にとってはただの困惑かそれ以下」と思っていた。だから、何も言わず、ただその人の近くにいられることだけで満足しようとしていた。

フォーラムの投稿をスクロールしていくと、ふと目に留まる名前があった。「AYA」。ネットではよくある名前だけど、私にはとても特別な名前。そのAYAが、投稿の中で『安達としまむら』の魅力を熱く語りながら、同時に繊細な思い出を綴っていた。

高校時代、何も言えないまま終わったけど、憧れている人がいた
あの頃の気持ちがこの物語を読むとよみがえる
私もこんな高校生活を送ってみたかったな

遥の心臓がトクンと鳴った。まるで自分が見透かされているような気分だ。このAYAは、あの彩なのだろうか? 高校時代、いつも静かに教室の片隅で本を読んでいた彼女。クラスの中心人物ではないけれど、不思議とその姿が目に焼き付いていた。

遥は自分のハンドルネーム「Haruka」で、つい反応するようにコメントを書いてしまった。

AYAさんの投稿、共感します。
私も高校時代、好きな人がいたけれど、何もできないままでした。
『安達としまむら』を読むと、その気持ちが少し救われる気がします。

投稿してしまった後、遥は急に恥ずかしくなり、画面を閉じた。「なんでこんなこと書いたんだろう」と後悔しつつも、心のどこかで奇跡を期待している自分がいる。そのコメントを、彩は読んでくれるだろうか?というより、そもそもAYAが彩である可能性はほとんどないのに。

その夜、遥は夢の中で高校時代の教室に戻っていた。窓際の席で静かに本を読んでいる彩の姿を、ただ眺めることしかできなかった自分に、思わず話しかけたくなる。だけど、声は出ない。過去の自分は何も変わらないまま、静かに時が流れる。

目が覚めたとき、枕元のスマホに通知がひとつ届いていた。

「AYAさんがコメントに返信しました。」


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